山田 零士 ゴールデンウィーク 訓練校1年目(16)

 結局、病院を出る頃にはお昼になっていた。

 お昼は近くのファミレスで、教育官達にごちそうになった。


 その帰り道の車の中で、明日香さんが

「厳島教育官、霧崎教育官に聞きたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」

 と言うと

「なんだ?」

 と厳島教育官が応じる。


 明日香さんは

「教育官達は、神城准尉についてどう思っているのですか?」

 と質問した。

 俺と章が、キョッとした顔で明日香さんを見ているなか

「それは、どういうつもりで聞いている?」

 と厳島教育官が問うと

「女子寮では、神城准尉には干渉するなと指示を受けていますが、待遇等に対する説明が無い為、女子訓練生の多くが、神城准尉の待遇に対して不満を持っています。

 また、接点が無いため、どの様な人物か分かりません。


 先日、カフェ月光でOGの方々に会った際には、機動戦略隊相手に100人抜きをする化け物と評価されてました。


 教育官達は、どの様に思っているのか、知りたいと思っただけです」

 と明日香さんは答えた。


 厳島教育官が重い口調で

「アレは別格だ。比べるとか評価する対象外だな」

 と言い。

「訓練校の教育官総掛かりでも、1分保つかどうかだな」

 と霧崎教育官が答えた。


「いえ、そういう戦闘評価ではなくて。

 その、人となりとかです」

 と明日香さんは慌てて訂正する。


「人となりか、俺より霧崎の方が詳しいだろ。お前、担任なんだし」

 と厳島教育官が霧崎教育官に話を振った。


 霧崎教育官は

「そうだな。基本的に沈着冷静で温厚で情に厚い感じだね」

 と言った。


「基本的に?」

 と明日香さんが疑問を呈すると

「そう、基本的に。

 彼女も対魔庁の戦闘隊員で指揮官だ。

 必要と判断すれば、とことん冷徹にもなれる。


 人として躊躇ちゅうちょする場面でも、合理的な判断で決断する人物だ。

 敵に回すと怖い人物だよ」

 と言われ

「そうなんですか。ありがとうございます」

 と返していた。


 俺は、霧崎教育官の評価を聞いて微妙な気分になった。

 章の様子を見れば、こちらもやりきれない気持ちなんだろう。


 それから程なくして、訓練校に戻ってきた。

 2時を少し回った位だ。


 このまま寮に帰ってもなと思っていると

「お前達は、これからどうするんだ?」

 と厳島教育官に問われたので、俺は

「少し訓練と勉強をしようかなと思っています」

 と言うと

「じゃあ、私もしていく」

 と明日香さんが賛同した。

 章は、俺と明日香さんをを見ながら

「どうしようかな」

 と言いやがった。

「章、それはそういう意味だ?」

 と問うと

「いや、お邪魔かなと思ってね」

 と言っていやらしい笑みを浮かべた。


 俺は章の頭を叩くと

「余計な事を考えるな。今は来週のテストをどうにかする方が先だろう」

 と言った。

 章は、頭を押さえて蹲っている。


「ならもう少し、記憶力が使える様に訓練を施したい」

 と厳島教育官が言うと

「それなら、俺もお供しますよ」

 と霧崎教育官も参加する事になった。


 魔力制御訓練棟の1階の休憩室で、教育官2人よる訓練が2時間行われ、1時間の試験勉強をして、この日は解散となった。


 こうして、連休前半の3連休を終えた。


 中日の平日。

 普段より20分早く起きる。

 いつも通り章を起こす為、メッセージを送り身支度をする。

 相部屋の奴は、昨日は帰って来なかったので、朝直接訓練校に出るのだろう。


 いつもより20分早く行動しているのは、明日香さんと行動するためだ。

 昨日の訓練終了後に、朝の自主練の時間も合わせ様と言う話になった。

 明日香さんは、平日は7時10分から訓練を行っている。

 俺と章は、平日は7時15分から訓練を行っているので、明日香さんに合わせて7時10分から行う事にした。

 普段より5分早くすれば良さそうだが、慣れるまでは章が起きれないと判断して、余裕を持って20分早く行動している。

 章は、案の定、玄関での待ち合わせ時間を5分遅刻した。

 それも、半分寝ぼけているな。


 まあ、朝飯を食べれば目が覚めるだろう。

 章を連れ立って食堂に向かう。


 食堂には、明日香さんが丁度配膳を貰っている所だった。

 俺達も並び、配膳を貰って同じテーブルに座る。

 お互いに挨拶をして、食事を食べ始める。


 明日香さんは、章が寝ぼけているのを見て不思議そうにしていたが、朝ご飯を食べて目を覚ます様子をみて驚いていた。

 食事を終える頃には、普段の章に戻っていた。


 朝の訓練をした後は、それぞれの教室前で別れた。

 昼休みは、普段通り章と共に食堂を訪れ、同じテーブルで食べていると、明日香さんが自分の配膳を持って同じテーブルに着いた。


 お昼については、特に取り決めをしていなかったので、ちょっと驚いた。

 良く見ると、明日香さんに着いて来た者達が戸惑いを見せている。

 確かあれ、取り巻きじゃあなかったか?

 しばらく迷っていたが、諦めて別のテーブルに行った。

「アレは、放置で良いのか?」

 問うと

「いいの。いい加減、粘着されてうんざりしてるの」

 と返された。


「派閥の勧誘している連中か?」

 と問うと

「その通りよ。金魚のフンね」

 と心底呆れた声で言い切った。

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