山田 零士 ゴールデンウィーク 訓練校1年目(15)
「私達は無事だったので、もう頭を上げて下さい」
と明日香さんが声を掛けた。
厳島教育官は、頭を上げると
「正直に言っておく。
今回の事故については、既に訓練校に報告済だ。
なので、俺にも処分が下されるだろう。
担当を外されるか、転属の可能性もある。
だから、今の内にケジメをつけておきたかったのだ」
と言った。
俺達が、何も言えないでいると
「この後、お前達には対魔庁病院に行って貰う事になっている。
念の為に検査を受けてもらう」
と言った所で、厳島教育官のスマホが鳴った。
「ちょっとすまん」
と言って、厳島教育官がスマホに出る。
2・3言話すと通話を切り
「表に迎えが来たから行くぞ」
と言われ、俺達は顔を見わせてから立ち上がって表に出る。
魔力制御訓練棟の前に大型のワンボックスが止まっており、後部の扉が開いていたので乗り込む。
しばらくして、厳島教育官が出て来て、扉を閉めると助手席に乗り込んだ。
なんとなく、重い空気が流れる中で車が進む。
ある程度進んだ所で
「そんなに深刻になる必要は無いぞ。
念の為の検査に行くだけだからな」
と運転席に座る教育官が話しかけてきた。
「厳島教育官は、どうなるんだ?」
と章が声を上げた。
「ん?さあ、どうなるだろうな。
まあ、大した事にはならないと思うぞ」
と言うではないか。
「え、さっき、担当を外されるか、転属させられるかも知れないって」
と章が言うと
「ああ、お前達になにか後遺症が残っていたら、可能性があるかもな」
と言ってから
「まあ、大丈夫だと思うぞ」
と言うではないか。
厳島教育官を見ると
「訓練時間中の事故ならそうかも知れんが、今回は時間外だ。
それ相応に厳しいと覚悟しているだけだ」
と仏頂面で言った。
「魔力酔い等で体調不良を起こす事って、良くある事なんですか?」
と明日香さんが聞くと
「ああ、珍しくないな。
特に1年生に多い。
毎年、7、8人位は出る。
だから、そう珍しい事でない」
と運転をしている教育官が言う。
俺達が胸を撫で下ろしていると
「彼は、責任感が強いからね。
そこまで深刻に捉える必要は無いよ」
と言って運転をしている教育官が笑っていると
「霧崎、喋りすぎだ」
と言って厳島教育官は、ソッポを向いてしまった。
対魔庁病院に着くと、裏口から入る。
霧崎教育官が、入口に居た警備員に来院理由を告げた。
奥にあるベンチに座って15分程待つと、白衣を着た男性がやって来た。
「宮田さん。お久しぶりです」
と霧崎教育官が立ち上がり挨拶をする。
俺達も立ち上がり、医師?の方を向く。
「霧崎さん。お久しぶりです。
そちらの3人が魔力酔いが出た人ですね」
と宮田医師?が返した。
「ええ、その通りです」
と霧崎教育官が答えると、俺達の方に向き直ると
「私は、
主に、
ではこちらに」
と言われ、検査室に案内された。
検査室では、血圧測定、採血が行われた後、MRIとかCTスキャンみたいな装置で全身をスキャン検査され、最後に宮田医師による問診と診察を受けた。
検査が終わって、待合室の椅子に座っていると宮田医師が現れた。
俺達が立とうとすると、手で制された。
霧崎教育官と厳島教育官に向かって
「3人共、問題は有りません」
と言われて、ホッとした。
「ただ」
と言って、章の方を見た
「彼は、魔力中毒の初期症状が出た形跡が見られました。
癖にならない様に気をつけて下さい」
と言われ、思わず
「癖って言うのはなんですか?」
と訪ねてしまった。
「癖って言うのは、魔力中毒になりやすくなる事だよ。
人は、ある程度魔力容量を超えても溜められるけど、多すぎると溢れる様に発散するのだが、彼の場合、魔力を許容量の限界を超えても発散せずに溜めてしまう。
そういう体質の人が稀に居るんだ。
そういう人は、魔力制御が上達しない内は、限界を超えた魔力を上手く放出する事が出来ない事が多いんだ。
その為、魔力酔いや魔力中毒になりやすくなる。
しかも、その状況に慣れてしまうと、魔力酔いや魔力中毒になれてしまって、自覚症状が無くなってしまうんだ。
その結果、致命的な量の魔力を溜め込んで、いきなり魔力過多で昏睡してしまう事もあるし、最悪、死亡する事あるから気をつけなさいと言っただけだよ」
と宮田医師は、言った。
「これからの訓練に影響するのでは?」
と俺の言葉に
「それについては大丈夫だ。
魔力制御を鍛えれば、許容量なのか、過負荷状態なのか分かる様になる。
それまでは、注意が必要というだけだ」
と厳島教育官が力強く言った。
「1年生ですか?」
と宮田医師が質問すると
「ああ、その通りだ」
と厳島教育官が答えた。
「そうですか。随分と優秀なんですね」
と宮田医師が言う。
「その通りだ。優秀過ぎて、実力を見誤った」
と厳島教育官がバツが悪そうに言った。
宮田医師は、俺達を見て
「それは、頼もしい後輩ですね。
これからは、もっと大変になるでしょうが、頑張りなさい」
と言って霧崎教育官の元に行き、何かを聞き、持ってきたタブレットに入力して終了した。
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