山田 零士 ゴールデンウィーク 訓練校1年目(14)
普段と同じ時間に玄関に行くと、既に章が待っていた。
顔色も良さそうだ。
「調子は良さそうだな」
と章に声を掛けると
「おう、もう平気だ」
と元気な声が返ってきた。
「しかし、良く起きれたな」
と言うと
「腹が減って目覚めたら、朝5時だったぜ。
でも、起きたら寮監室だったのは驚いたぞ」
と言って笑っている。
「じゃあ、朝飯も済ませたんだな」
と聞くと
「もちろんだ。ちゃんとお昼と勉強道具も入っているぞ」
と言って、カバンを掛けて中身を確認させる。
問題ない事を確認出来たので、魔力制御訓練棟に移動する。
魔力制御訓練棟の前には、明日香さんが居た。
「体調はどう?」
と尋ねると、視線を
「ええ、もう大丈夫」
と小声で声が返ってきた。
声に元気を感じられないから、下から覗き込む様に明日香さんの顔を見ると、真っ赤になっている。
目が合って、目を見開いている。
俺は慌てて
「本当に大丈夫か?」
と言いながら、明日香さんの額に手を当て
「取り敢えず、熱はなさそうだな」
と言いながら手を離した。
明日香さんは、真っ赤な顔のまま、口をパクパクさせている。
後ろから、章がため息をついてから
「れいじー。手加減してやれよー」
と呆れた声が聞こえた。
後ろを振り返り
「何の事だ?」
と言うと
「なんで、こういう時だけ鈍感なんだよ」
と呆れた感じで言われた。
俺は、ますます訳が分からなくなった。
「こりゃあ、明日香さんも苦労するなー」
と更に呆れている。
「どういう事だ?」
と尋ねると
「さっさと付き合ってしまえ」
と言いって、俺の横をすり抜けた。
俺は言われた事が理解出来す、呆然と見送る事しか出来なかった。
そして、明日香さんに向かって
「応援してっから、頑張れ」
と言っている声が聞こえた。
ようやく、章の言った言葉を理解出来ると、頭に血が登った。
慌てて振り返ると、真っ赤になった明日香さんと目が合った。
顔から火が出るかと思う程、顔が熱くなった。
二人して見つめ合う様にして、固まってしまった。
どれだけ固まっていたか分からない。
「あ、えーと」
と、ようやく声を出せたが、頭は真っ白で言葉に詰まってしまう。
更に時間が掛かったが、頭が回りし周囲が見える様になると、魔力制御訓練棟の入口から、章と厳島教育官がニヤニヤしながら覗いていた。
俺が、思わず
「俺達の事は、気にしなくてい良いぞ。さっさと、告白しろ」
厳島教育官の言葉に、俺と明日香さんは理由の分からない絶叫を上げてしまった。
あれからよく分からい内に、休憩室で俺と明日香さんが並んで座り、その反対側に章と厳島教育官が並んで居座っている。
章がニヤニヤしていて腹が立つが、なんか俺と明日香さんが怒られるのを待っている感じがするので、動けない。
俺がそんな事を思っていると
「まあ、恋愛なんて、二人のペースで進めたら良い。
それと、済まなかった」
と厳島教育官が真面目な声で頭を下げた。
俺達が驚いていると、頭を上げ
「今回の魔力酔いは、俺がお前達の実力以上の負荷を強いた事が原因だ。
本当にすまん」
と言って、再び頭を下げた。
「取り敢えず頭を上げて下さい。俺達にも、特に問題が無い様ですし」
と言って、明日香さんと章を見た。
「私も、問題は無いわ」
「俺も大丈夫だ」
と二人も返す。
頭を上げた厳島教育官は
「魔力酔いをあまり軽く見ないで欲しい。
幸い、今回は魔力酔いの範囲で収まっただけで、魔力中毒に発展していてもおかしくなかった。
その判断を見誤ったのは、俺のミスだ」
と強く言い切った。
「魔力中毒って、どういう状態何でしょうか?」
と明日香さんが質問をする。
「魔力中毒と言うのを説明する前に、魔力障害について説明する。
魔力障害には、大きく分けて魔力酔い、魔力中毒、魔力欠乏、魔力過多の4種類がある。
そして、魔力障害は、体内の魔力バランスが崩れる事で起こる現象だ。
バランスを崩す事で、軽度の不調を事を起こす現象を魔力酔いと言う。
魔力酔いは、車酔いの様な吐き気や頭痛・嘔吐を伴う事が多く、ひどい場合は発熱を伴う事もある。
この状態が悪化したものを、魔力中毒と言う。
魔力中毒は、身体反応の低下を起こし、意識混濁や失神を伴う事も多い。
そして、最悪、死亡事例もある。
魔力欠乏は、魔力バランスが崩れる事により、体内の魔力を過剰に放出する。
もしくは、魔力の生成量が極端に落ちる現象だ。
魔力過多は、魔力の生成量が消費量や放出量より大きくなる現象だ。
この現象の初期は、魔力酔いの様な状態が恒常化し、魔力中毒に発展、死亡するケースが多い。
魔力欠乏と魔力過多には、先天性と後天性があるが、後天性の方が急激に症状が進行する分、死亡率が高い。
そして、伊吹と見石の症状は、魔力中毒の1歩手前だった。
もう少しで、重大な訓練事故に発展していた案件だ。
俺の管理ミスだ。
本当に済まない」
と言って再び頭を下げた。
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