山田 零士 ゴールデンウィーク 訓練校1年目(13)
「見石には、今日の訓練はちょっと早かったようだな」
と言って、章の前でしゃがみ込み顔を見て
「数時間寝れば治るだろう」
と言うのを聞いて、肩の力が抜けた。
厳島教育官は、立ち上がって俺達に方に向き直り
「お前達も無理をせず休め」
と言われたが、明日香さんが何か言おうとした時
「ちょっと待て。
伊吹、お前も顔色が良くない。
山田、お前が女子寮まで送ってやれ」
と言った。
たぶん、俺は今、間抜けな顔をしているだろうなと言う謎の自覚をしていると
「大丈夫ですよ」
と言って両手を振っている明日香さんの顔色は、確かに真っ青だ。
厳島教育官は、首を大きく横に振り
「お前は見石より軽い状態だが、十分酷い状態だ。
水分を取ってゆっくり休め。
あとな。お前達3人の中で、魔力酔いから回復しつつあるのは山田だけだ。
それと、すまん。
この件は俺のミスだ。
山田を基準に訓練した結果だ。
もっと訓練強度を落とすべきだった」
と言って頭を下げた。
「いえ、大丈夫です」
と言って、手と首を左右に振った明日香さんがよろけた。
思わず支えた。
「じゃあ、山田頼んだぞ」
と言って、明日香さんが持っていた俺と章の荷物を取り上げ、俺達を玄関から押し出しだ。
明日香さんと並んで、女子寮に向けて歩く。
ただ、はやり調子が良くないのだろう。
時々よろける様な仕草が見受けられた。
何か言おうとするのを
「無理に喋らなくていい。今は、ゆっくりでも良いから歩く事に集中しよう」
と言って歩みを進めさせる。
厚生棟付近まで来ると、大きくよろけたので受け止める。
呼吸が荒く、顔もほんのりと赤い。
思わず唾を飲み込む。
章の件を思い出し、額に手を当てると熱い。
同じ症状だと理解すると
「背中に乗れ。おんぶする」
と言うと更に真っ赤になったって
「大丈夫よ。ちょっとよろけただけだから。
自分の足で歩けるよ」
と強がるので
「おんぶが嫌か、ならお姫様抱っこするぞ」
と言うと、観念した様に背に乗った。
出来るだけ揺らさない様に気をつけながら女子寮までの道程を、耳元で彼女の荒い呼吸を聞きながら、ゆっくりと歩いて行く。
女子寮の玄関が見えると、玄関の扉が開けられていて、寮監が待っていた。
「そのまま、こっちに連れておいで」
と言われるまま、女子寮に入り寮監室に案内される。
ソファーの上に明日香さんを下ろすと、素早く寮監が彼女を横にして、顔を覗き込んだ。
「大丈夫。ただの魔力酔いだ。しばらく横になれば治るよ」
と言った。
俺は、それを聞いて安堵した。
寮監は俺を見て
「あんたは、もう回復した様だね。
でも、あんまり無理はしないで今日は休みなさい。
この娘は、私が責任を持って面倒を見るから安心しなさい」
と言われた。
俺は
「おねがいします」
と言ってから退室し、玄関で寮監に見送られながら女子寮を後にした。
途中の厚生棟の自動販売機でスポーツドリンクを購入してから男子寮に戻った。
門限を超えていたが、扉は開いていた。
普段なら、門限時刻に扉が閉められる筈だんだがと思いながら寮に入ると、寮監が出て来て、俺のカバンを渡しながら
「見石の事は、こっちで面倒を見るからお前はもう休め」
と言われたので
「分かりました。章をおねがいします」
と言って自室に戻った。
どうやら、門限については見逃して貰えたみたいだ。
部屋に戻ると、スポーツドリンクを飲み干し寝る準備をする。
正直、寝るには早い時間だが照明を消して横になる。
目を瞑ると、思っていたよりも疲れていたみたいで、意識が落ちて行く感覚がすぐに襲ってきた。
その最中に、耳元で聞こえた荒い呼吸や火照って赤みを帯びた顔や背中の感触を思い出して思わず覚醒してしまった。
首を左右に振り、深呼吸を数回してから再び横になるが、何度も思い出してしまってなかなか寝付けない。
それを何度繰り返したか分からないが、気がついたらアラームで起こされた。
時間を確認するといつもの時間だ。
全然寝た気がしないぞ。
取り敢えず朝のルーティンを熟し、朝食の準備をしていると強烈に腹が減った。
そう言えば、昨日の晩は何も食べていなかった。
思い出したら、余計に腹が減った。
パックご飯とレンジ対応のレトルトのカレーを持って、共有スペースにある電子レンジで温めに行ってきた。
温めに行っている間に沸いたお湯でコーヒーを入れ、カレーライスを食べた。
腹も膨れ、頭も回りだすと、明日香さんと章の状態が気になった。
取り敢えず、二人に「体調はどうだ?」とメッセージを送ると
「大丈夫。もう平気」
「おきてるぞー」
と返事が返ってきた。
章の返事の内容がおかしいが、取り敢えずスルーだ。
「無理しないで良いぞ」
とメッセージを送ると
「もう平気よ」
「俺も行くぞ」
と返事が返ってきた。
なので
「予定通りに8時に集合な」
とメッセージを送ると了承の返答が返ってきたのを確認した。
カバンは昨日のままなので、ゴミを捨て、着替えた服を洗濯物カゴに入れてから、今日のお昼の準備と着替えを入れた。
一応、おやつのポテトチップスも入れておく。
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