山田 零士 ゴールデンウィーク 訓練校1年目(12)
缶コーヒーとお釣りを厳島教育官に渡すと
「おう、ありがとうな」
と言って、手に持った紙袋を床に下ろして受け取った。
椅子に腰掛け
「俺も貰うぞ」
と言ってポテトチップスに手を伸ばした。
十分に休憩を取り、厳島教育官からの
「訓練を再開するぞ」
の一言で、俺達は立ち上がったのだが
「取り敢えず座れ」
と言われ、椅子に座り直す。
「今から行うのは、勉強に特化した能力訓練だ」
と言われたが、何の事かサッパリ分からない。
「そう、怪訝そうな顔をするな。
それを1つ教えてやろうと言うだけだ。
最も、
だから意味が無いと思うかも知れんが、
それに、
だから、学んで損はないぞ」
と言うではないか。
俺も
「勉強に役立つ
今日は、その中で記憶力を上げる記憶力の
と言って、荷物の中から人体の頭の模型を取り出した。
「まずは、講義からだ」
と言って説明を始めた。
この日は、記憶力の
時間も時間の為、この日は終了となった。
しかも、明日朝8時から10時まで今日の続きを行うと言うありがたいお言葉と共に終了した。
章は
「目と頭の中が、逆回転している」
と言って机に伏せっている。
明日香さんは、両手の肘を机に着け、人差し指をこみかめに当て俯いている。
俺も頭痛がするし、目が回っている為、立ち上がれない。
厳島教育官は、そんな俺達を見ながら休憩室の戸締まりをテキパキとしている。
休憩室が終わると訓練室も戸締まりを終え
「慣れない魔力操作をして、頭が痛いだろう。
それが制御頭痛だ。
魔力制御力が足りない為に、過剰に脳が活動した結果起こる頭痛だ。
魔力制御能力が上がれば、頭痛は発生しなくなるから、頑張って制御力を上げるしか無い。
そういう訳で、当分頭痛に悩ませるだろうが、頑張れ」
と厳島教育官に言われたあと
部屋を閉めるからと、休憩室から追い出された。
制御室、受付のバックヤードを通り抜けロビーに出る。
訓練室の利用終了を厳島教育官が行ってから、魔力制御訓練棟を出る。
「今日は無理をせず、ゆっくりと休め」
と言って厳島教育官は、頭部の模型の入った袋を持って教員棟に向かって歩いて言った。
俺達も言葉無く、皆頭を押さえながら厚生棟に向かう。
無言のまま、それぞれがシャワーを浴びる為にシャワールームに入っていく。
少し冷たいシャワーを頭から浴びる事で、痛みが少し緩和した気がした。
手早く体と頭を洗い、着替える。
章の奴は、珍しく時間が掛かっている。
いつもなら俺よりも早いのだが、よほど今日の訓練はきつかった様だ。
章に一声掛けてから外に出る。
自動販売機でスポーツドリンクを買い、ベンチに腰掛けてから首筋に当てた。
しばらくその状態で脱力して居たら、明日香さんも出てきた。
明日香さんもまだ頭が痛そうだ。
彼女も同じ様に冷たい飲み物を買って俺の隣に腰掛けると、首筋に当てた。
更に時間が経ち、だいぶマシになったと思った頃になって、やっと章が出てきた。
章の顔は、真っ赤になってフラフラと歩いていた。
「おい、大丈夫か」
と立ち上がりながら声を掛けると
「おう、大丈夫じゃない。目が回る」
と言って、空いているベンチに崩れる様に横になった。
慌てて駆けつけ、額に手を当てるとかなり熱い。
章の上半身を起こし、手に持ったスポーツドリンクを目の前に出し
「章、取り敢えずコレを飲め」
と言って差し出すが、上手く開けられずいる。
明日香さんが取り上げ、ペットボトルを開け飲ませる。
1/3程飲ませた所で再び横にする。
明日香さんは
「どうしよう」
と言って動揺している。
恐らく厳島教育官は、まだ教員棟に居ると思う。
しかし、宿直当番なら、もう男子寮に移動している可能性もある。
だったらどうする?
「よし、章を男子寮まで運ぶ。
明日香さんには悪いけど、俺と章の荷物を持って着いて来てくれないか」
と頼むと
「分かった」
と言って章の荷物を持つと、ベンチに置きっぱなしの俺と明日香さんの荷物を取りに行った。
その間に、四苦八苦しながら章を背に背負った。
俺自身も決して体調が良いとは言えないが、泣き言を言っている場合じゃあない。気合を入れて歩き始める。
明日香さんは、俺の横を歩いて来る。
普段なら5分と掛からず着く距離を、倍以上の時間を掛けて歩き、
明日香さんは、迷いなく玄関を開けて中に入り
「すみません。寮監さんは居ませんか」
と大声で寮監を呼んでいる。
奥から寮監が出てくるのを見ながら、なんとか寮の玄関をくぐる。
俺達に気づいた寮監が
「おい、どうした」
と言いながら寄ってきた。
章を寮監の手を借りながら下ろす。
章の赤い顔と荒い呼吸を見て
「どういう状況だ」
と聞かれたので
「厳島教育官の教導を受けた後、シャワーを浴びたらこの状態になっていた」
と俺が言うと、章の顔に手をかざした。
寮監は、真剣な顔でその状態をしばらく続けた後
「大丈夫だ。魔力酔いだ」
と言って脱力した。
「魔力酔い?」
と明日香さんが疑問を口にすると
「魔力の許容量より、多くの魔力を体内に溜めた事による現象だ。
乗り物酔いの様な軽い症状のものを指す」
と後ろから声が聞こえた。
振り返ると厳島教育官が立っていた。
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