山田 零士 ゴールデンウィーク 訓練校1年目(8)

 朝。普段通りに起きると、まず章に「起きたか?」のメッセージを送る。

 送ったら、トイレや顔を洗ったりしてくる。

 ついでに、電気ケトルに水も汲んでから部屋に戻り、スマホを確認する。


 返信は無く、既読も付かない。

 メッセージアプリから通話を掛け、3回鳴らしたら止める。

 着替えたら、再び通話を掛け、3回鳴らしたら止める。

 朝食の準備を終えて、再び通話を掛けると、章が出たので

「朝だ。起きろ寝坊助」

 と強い口調で言うと

「もう、朝か。おはよう」

 と眠そうに言う。

「さっさと起きろ。ちゃんと飯食えよ」

 と言うと

「おう。分かった」

 と言う返事を聞いてから通話を切る。


 章は、相変わらず朝が弱い。

 訓練校に入ってから、ほぼ毎日俺が起こしているので、日課になってしまった。

 まあ、ボヤいても仕方が無い。

 そう思い直して、昨日買った菓子パンとコーヒーで朝食を済ませた。


 訓練に持って行く物を確認する。

 お昼と勉強道具と着替え。

 そうだな。

 後は、休憩時に食べれるお菓子でも持っていくか。

 ポテトチップスの大袋を1袋をカバンに入れ、玄関に降りる。


 章との集合時間になったが、章の奴、まだ来ない。

 集合時間から3分過ぎた頃に章がやってきた。


 問答無用で章の手荷物を確認する。

 案の定、勉強道具が入っていなかった。

 直ぐに取りに戻らせる。

 戻って来るまでに、10分程掛かった。


 章が忘れ物や遅れるは織り込み済みだが、それでも予定時間より少し遅れた。

 急ぎ足で魔力制御訓練棟に向かう。


 章は

「なんでそんなに急いでいるんだ?」

 と呑気な事を言っている。


「既に伊吹さんを待たせているはずだ。

 急ぐぞ」

 と言う俺に、首を傾げている。


「聞いてないぞ。

 ひょっとして俺が居ない間に、約束した…んだな」

 と言ってため息をつき

「だったら、急ごう」

 と言い、走り出した。

 俺も負けじと走るのだった。


 魔力制御訓練棟の前には、伊吹さんが待っていた。

「おそい」

 と怒っていた。


「すまん。章の相手をしていたら遅くなった」

 と言うと

「零士、お前が伊吹さんも参加するって言わないから、普段通りにして遅れたんだぞ」

 と言い訳をするが

「お前が自分で起きて、勉強道具を忘れなければ遅れる事はなかった」

 と正論を返すと

「ウグゥ」

 と意味不明なうめき声を上げた。

 その後、お互いに睨み合い、口論に発展しかけた所で

「本当に貴方達って、性格が真逆なのね」

 と呆れを含んだ笑い声で言われ、俺と章は言葉を無くした。


「取り敢えず、止めよう」

 と言うと

「そうだな」

 と章も同意する。


 3人揃って建屋に入り、俺は章と伊吹さんが入場登録をしている間に、訓練室を選び移動する。

 章と伊吹さんも続いて訓練室に入ってくる。

 設備を無視して、訓練室の奥にある扉に向かう。


「おい、零士。何処に行くんだ?」

 と章が声が聞こえたので、振り返り、怪訝な顔をした二人に

「こっちだ。着いて来い」

 と言って扉の前に移動する。


「開かずの扉がどうかしたのか?」

 と章が声を掛けてきたが聞き流し、ポケット中から鍵を取り出して扉を開け中に入る。

 部屋に入ると、窓際に移動し、カーテンを開け、窓を開ける。


 慌てて入って来た章に

「何だこの部屋?」

 と言って、部屋の中をキョロキョロと見渡している。


 その後ろから伊吹さんも入ってきた。

 彼女もキョロキョロと部屋を見渡している。


「この部屋は、教育官達の待機部屋の一つだ」

 と言った所で。


「教育官室から鍵を盗んだのか?」

 と章が失礼な事を言ってくる。


「バカタレ。そんな馬鹿な事する訳無いだろうが」

 と本気で怒った。


 章は、目をつむり、首をすくめた。

 伊吹さんは、興味深そうに黙って見ている。


「全くお前って奴は、人の説明は最後まで聞け」

 ときつく言うと

「おう、すまねぇ」

 と弱々しく答えた。


「この部屋は、教育官達の待機部屋の一つで、厳島いつくしま教育官が条件付きで貸してくれた場所だ」


「条件付き?」

 と章が疑問を口にする。


「ああ。

 1つ、部屋はきれいに使う事。

 1つ、使用後は掃除をする事。

 1つ、備品の使用はして良いが、必ず片付ける事。

 1つ、使用出来るのは、放課後や週末や長期休暇等の休みの間だけ。

 1つ、健全に使う事。

 の計5件だ」

 と言うと

「休みの日なら使って良いって事か?」

 とざっくりとした理解を示した。


「まあ、そういう事だ。

 ただ、好きに使って良いと言う意味じゃあないぞ。

 訓練の休憩とか勉強の為に使えって事だ」

 と章に説明すると

「おう。分かった」

 と答える。


 こう、物事を単純に考えるのが、章らしいとため息をつくと

「ずいぶんと信頼されているのね」

 と伊吹さんが言った。


「信頼と言うより、試されている気がするな」

 と俺が答えると、怪訝な顔をして

「試されている?」

 と尋ねるので

「厳島教育官は、俺のクラスの担当官だ。

 で、初日の自己紹介の時に、どんぐりの背比べに参加する気が無いから、巻き込むなと言ったんだ。

 そうしたら、どういうつもりだと質問されたから、上級生や教育官の動きも気づけない程弱いから、まずは上級生や教育官のレベルまで強くなると言ったら、気に入られたみたいで、厳島教育官が宿直の日は、訓練を見てくれたりと便宜を図ってくれるんだ。


 だから、単純に信頼されていると言うより、どこまで強く成れるかを試されている気がする」

 と答えた。

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