山田 零士 ゴールデンウィーク 訓練校1年目(6)

「ところで、小中学校ではどうだったの?」

 と伊吹さんから問われた。


「どうだったとは?」


「友達居たのかなって?」


「ああ、居たぞ」


「ボッチじゃあなかったんだ」


「俺を何だと思っているんだ?」


「そうね。

 強引、説明不足、強引、言葉足らず、強引、口下手かな」

 と首を傾げながら言われた。


「酷い言い様だな。何故、同じ事を3回も繰り返している?」

 と問うと

「重要だから」

 と言うではないか、俺は

「はぁ?」

 と間抜けな声を出してしまった。


「今日の勧誘だって結構強引だったし、碌な説明してくれなかったでしょう。

 それに予定だって、ほとんど一人で決めてしまったじゃあない。

 帰りの荷物だって、強引に持ってくれたし」

 と言われ

「そう言われれば、返す言葉も無い」

 としか言えなかった。


「しかし、幼馴染とは言え、性格が真逆の見石君とよく友達に成れたね。

 犬猿の仲でもおかしくなかったのに」

 と言うので

「小さい頃は、会えばいがみ合い、ケンカばっかりしていたぞ」

 と言うと、驚いた様に

「今からだと、信じられないわね」

 と反応が返ってきた。


「まあ、俺と章が親友に成れたのは、もう一人の幼馴染のお陰なんだ」


「へぇー、そうなんだ。その幼馴染が仲を取り持ってくれたんだね」


「まあ、その通りだな。

 俺と章が、ケンカするたびに間に入って仲裁をしてくれていたんだ。

 ある時、俺と章がマンションの踊り場でケンカをしている時に、いつもの様に優が止めに入ったんだ。

 ただ、その時、本当に偶然に俺と章が同時に優を弾いてしまったんだ。

 その結果、優は踊り場の階段から転げ落ちて大怪我を負い、入院させてしまったんだ。

 当然、俺も章も両親にこっぴどく怒られて、両親と共に優が入院している病院に謝りに行った。

 ただ、病院の入口で両親に連れられた章とばったり会って、お互いに責任のなすりつけ合いの口論をして、更に両親から怒られたな。


 泣きながら優が入院している病室に行くと、自分の怪我よりも泣いている俺と章の心配ばかりするんだ。

 俺と章が謝罪すると、優は『だったら友達になってよ』を言ってきたんだ。

 しかも、『友達になればケンカはしないよね』と言う程のお人好しだったんだ。

 それからだ。

 俺達が親友になったのは」


「へぇー。その優って子は、良い子ね」


「ああ、俺達には過ぎた友だ。

 お人好しで、色々と気配りの出来る奴だ。

 俺も章も結構頑固な所があるし、章は直情的にすぐ動くし、俺も理屈っぽい所あるし、周囲と上手く馴染めない事なんてしょっちゅうだった。


 優があいだを取り持ってくれたお陰で、周囲と馴染む事も友達を作る事ができた。

 本当に俺と章に取って、精神的な柱だったんだと実感している最中だ」

 としみじみと言うと

「その、優って人が居ない所を見ると、非能力者だったのかな?」

 と言われ、俺は複雑な気持ちになった。


 言葉に詰まる俺を、伊吹さんは怪訝な顔をして見ている。

 少し考えた結果、優が女体化した部分を除いて話す事にする。

「実は、この訓練校に居る」

 と言うと

「え!居るの?

 だって、貴方達はいつも2人で居るから、てっきり居ないかと思った」


「まあ、普通そう思うよな。

 実際はこの訓練校に居る。

 ただ、俺達の関係は変わってしまったんだ」

 と言って、俺は後頭部に右手で掻いた。


「変わってしまった?」


「ああ、優は、去年の10月に能力に目覚めたんだ」


 伊吹さんも驚いた様子で

「それって、ずいぶん遅いわね。

 普通、その年齢で能力が発露はつろしたって、聞いた事ないよ」


「ああ、非常に珍しいケースらしい。

 能力に目覚めてから1週間程学校を休んだんだ。

 そして戻ってきた優は、能力の影響で別人の様になって帰ってきたんだ。

 俺と章は、優を優と認識出来ず、上手く接する事が出来なかったんだ。

 また、学校には来てはいたが、能力の訓練の為に訓練所から通っていたから、一緒に居る事も出来なくてな。

 段々とお互いに疎遠になり始めて、気づいたら知人位の関係になってしまったんだ。


 今にして思えば、能力が発露した直後から、強引にでも優の側に居てやるべきだったと後悔している。


 いつも俺達を支えてくれた友が、本当に困っている時に手を差し伸べる事が出来なかったんだ。

 仕方が無いと思っている」

 と言うと

「その子に、メッセージとかで連絡はしたの?」


「ああ、最初の頃は何度も送ったさ。

 でも、優は段々と返さなくなっていったんだ。

 たぶん、訓練等で忙しくなって、スマホを見ている余裕が無くなったんだろう。


 俺も能力の訓練を本格的に行う様になって理解したが、スマホやテレビに興味がわかなくなった。

 その影響もあるのかなと思っている」


「でも、その子も薄情よね。幼馴染で親友だったんでしょ」


「その通りだが、優の事は責めないで欲しい。

 元々と言えば、俺と章が日和ひよった為に起こった行き違いが原因なんだ」


「そう。ところで、その優さんの名字は?クラスは?」

 ちょっと怒っている様な、拗ねている様な声で聞かれた。


「名字は神城だ。

 神城 優

 白髪・赤目で、女子寮の特別室に住んでいると言ったら分かるだろ」

 と言うと、伊吹さんは目が点になっていた。

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