山田 零士 ゴールデンウィーク 訓練校1年目(5)
バスに揺られ、ウトウトとしながら訓練校最寄りのバス停まで静かな時間を過ごした。
バスから降りる時、熟睡していた章を叩き起こす作業があったが、無事に訓練校に戻ってきた。
男子寮と女子寮の分かれ道で、預かっていた伊吹さんの荷物を返すと
「あ。ずーと持たせていてごめんなさい」
と言って謝ってきた。
「別に気にしていない。
本来なら女子寮まで持って行った方がいいと思うのだが、下手に誰かに見られると
と俺が言うと
「もちろん、大丈夫だよ。ありがとう」
と言って、俺と章が持っていた伊吹さんの荷物を受け取った。
「じゃあ、またな」
「おう、またな」
俺と章が言って、男子寮に向かって歩き出す。
「ありがとう。またね」
と伊吹さんの声が聞こえたので、右手を上げて答えた。
部屋に戻り荷物を置くと、片付けもそこそこにして章と共に風呂に向かう。
風呂から出た所で、ばったり伊吹さんに会った。
取り敢えず近くにある自動販売機で、飲み物を買って一休みする事になった。
そこまでは良かった。
章の奴、ジュースを飲んだら腹が減ったから先に帰ると言って、さっだと寮に帰りやがった。
俺も帰るタイミングを逃し、伊吹さんと二人っきりになってしまった。
俺がベンチに座ると、その左側に伊吹さんが座った。
なんとも
まだ朝晩は肌寒いが、日中は半袖でも十分過ごせる陽気だ。
俺は、Tシャツとジャージのスボン、伊吹さんは、半袖のやや胸元が開いたTシャツにスェットパンツというラフな格好だ。
「ありがとう」
と伊吹さんがそう言った。
「何のことだ?」
と返すと
「ほら、OGの人達を紹介してくれた事」
「ああ、その事か。
気にしなくていいいぞ。
元々師匠達からは、見込みのある奴が居たら連れてこいと言われていたかな」
「それでもだよ。
それに、OGの人達から教導を受けてるって、貴方達だけのアドバンテージだったのに。
それを私にも教えて良かったの?」
「さっきも言った通り、全く気にしていない。
俺達以外にも、お
それでもだ。
師匠達に教導をお願いしたのは俺達だけだった。
だから、指導する人数が1人増えた所で、師匠達には大した負担にならないだろう」
と言うと、伊吹さんは膨れっ面をして
「そういう事じゃあ無くて。どうして私を誘ったのよ」
と言う。
「ん?どうしてって言われてもな。大した理由はなかったんだが」
と言うと、更に伊吹さんはムスとした。
「へぇ~。誰でも良かったんだ」
と言ってそっぽを向いてしまった。
「誰でも良かった訳ではないぞ」
と言うと俺の方に顔を向けた。
「まず、師匠達の言った条件に合う奴は、俺の知っている限りあの4人組と伊吹さんしか知らん。
だから、俺が声を掛けるなら、この5人だけだ。
あの4人は、現役隊員から教導を受けているから除外。
そして、伊吹さんは、同じ女性同士と言う事で、あの4人組が声を掛けると思っていたし、何やら取り巻きが一杯居たから派閥に属していると思っていた」
と言うと興味を持った様で、多少前のめりになって
「その条件って何?」
と聞いてきた。
「師匠達が出した条件は、
1.課外時間に自己訓練を行っている事
2.派閥に所属して居ない事
3.驕らない者
だな」
と言うと、納得した顔になり
「ナルホド。私が派閥の所属していると思って居たから声を掛けなかったと」
と言った。
「ああ、その通りだ。
他にも条件を満たしている者は居るかもしれんが…。
俺は、友達がいないからな」
と言って肩をすくめた。
「え!友達がいないの?」
と驚いた声を上げたと思ったら、俺の目の前に伊吹さんの顔がある。
しかも、思いっきり前のめりになっているので、胸元が俺の視界に入っている。
「うぉ。ちょっと待て!近い。顔近い」
と慌てって、ベンチギリギリまで下がりながら言った。
顔が一気に火照った感じがするから、多分真っ赤になっていると思う。
伊吹さんは、俺の行動で驚いたのか同じ姿勢で固まっている。
そのせいで、思わず胸元に視線が行ってしまった。
その事を自覚して、慌てて顔を背ける。
「ちょっと、人の顔を見て、顔を背けるってなによ」
と怒っている声が聞こたが、俺は顔を背けたまま
「すまん。いきなり顔が近づいたので驚いた。それと胸元」
と言うと
「胸元?」
と声が聞こえたあと
「あ!」
と言う声が聞こえたから
「えっち」
と言われたので
「今のは不可抗力だろが」
と言って伊吹さんの方に向き直ると、両手で胸を押さえ、耳まで真っ赤にしていた。
「えーと。その。すまん」
と言って頭を下げた。
すると、伊吹さんは、小さく笑いだし、次第に大きくなっていった。
俺も理由がわからず笑いが込み上げた。
二人してしばらく笑ったあと
「友達が居ないってホント?」
と聞かれたので
「ああ、本当だ。
俺はどうも口下手なうえ、態度もぶっきらぼうだからな」
と言うと
「私は?」
と聞くので
「そうか、章以外にも増えてたな」
と呟くと、自然と唇の端が上がっていた。
「じゃあ、私は友達?」
「伊吹さんが良ければ」
「じゃあ、よろしくね」
と言って、右手を出してきた。
俺も
「よろしく」
と応え握手をする。
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