山田 零士 ゴールデンウィーク 訓練校1年目(3)

「今から、能力アビリティ訓練を行うんだ」

 と俺が言うと

「え?ここで?」

 と言った感じの困惑した様子だ。


 そこに章が

「師匠達は、元戦術課の隊員なんだぜ」

 とネタバレをする。


「え、元戦術課の隊員?」

 と伊吹さんが反芻すると石割いしわりさんが

「おう、その通りだ。

 俺達は退役職員だ。

 この店は、俺達の様な退役職員のたまり場なんだぜ」

 と言い。

「やる気のある若い子に稽古をつけて上げようと言う、ただのお節介焼きの爺と婆さ」

 と華山はなやまさんが言って笑っている。


 まだ、混乱している伊吹さんに

「俺達は、現役の隊員の指導を受ける事は出来ないが、ベテランの元隊員の指導は受ける事が出来るぞ。

 一緒に訓練を受けてみないか?」

 と声を掛けると

「え、私も受けて良いの?」

 と疑問を口にした。


「もちろんだ。やる気があるなら歓迎するぞ」

 と土森つちもりさんが表明する。


 伊吹さんは

「はい。やります。よろしくお願いします」

 と言って、直角に頭を下げた。


「おう、よろしくな」

「歓迎するぞ」

「しっかりがんばりな」

 と3人が声を掛けた。


 この後は

 伊吹さんは、華山はなやまさんが担当。

 章は石割いしわりさんが担当。

 俺は、土森つちもりさんが担当。

 のマン・ツー・マンの訓練が始まった。


 俺の訓練内容は、魔力纏身まりょくてんしんだ。

 魔力を最大出力かつ全身均一に纏うこと。

 更に、魔力を発散させない様に留めるという技術スキルだ。


 俺はまだ慣れない為、上手く出来ない。

 そのため、細かく注意と指導を受けている。


 特に難しいが、全身に纏う魔力を均一化だ。

 どうしても厚い所と薄い所が出来てしまう。

 また、魔力の均一化に意識を割きすぎると、魔力出力が落ち、発散量も増える。

 魔力の均一化を考慮しなければ、10分維持出来る。

 魔力の均一化を意識して行うと3分しか保たない。


 ただ、魔力を最大出力で維持するだけなら、25分は維持出来るので、魔力纏身まりょくてんしん状態で25分維持が目標だ。


 悪戦苦闘しながら訓練を続けていると

「お前ら差し入れだ。一息つけ」

 とマスターがジュースとコーヒーの載ったお盆を持って下りてきた。


 時間を見ると10時を過ぎていた。

 9時位から訓練を始めたから、1時間程ぶっ通しで訓練をしていたのか。

 額に汗が滲み、心拍数が上がっている事からも、思った以上に身体への負担が大きいのかも知れない。

 マスターからジュースを貰い、部屋の隅に置いてある椅子に腰掛けて飲みながら自分の状態を分析した。


「ところで、そちらのお嬢さんはどうだった?」

 とマスターが尋ねると

「取り敢えず一通り確認したけど、かなり優秀な娘だね。

 休憩後は、魔力纏身まりょくてんしんをやって貰うよ」

 と華山はなやまさんが答えると

「えー、いいなー。俺も先に進みたいぜ」

 と章がボヤくと

「だったら、まずは最大出力で20分は維持出来る様になれ。

 もう一息だろ」

 と石割いしわりさんが言うと

「おう、さっさとクリアーして見せるぜ」

 と勢い良く返事をし

「おう、その意気だ」

 と石割いしわりさんが応じる。


 この二人は、親子かと言いたくなる程、息が合っている。

 そのため、終始こんな感じで訓練が行われている。


 俺達を眺めていたマスターが

「例年なら、コイツラが学年トップに立つはずなんだがな」

 と零して、ため息をつき、首を左右に振った。


 石割いしわりさん達、師匠達の鋭い視線がマスターに刺さった。

「あ、悪い。ついな」

 と言って口を閉ざした。


「あのー、どういう意味でしょうか?」

 と伊吹さんが質問すると、マスターがバツが悪そうに

「正直に言うぞ。

 お前達3人の能力は、近年の訓練生の中でもぐんを抜いて飛び抜けている。

 これはお世辞じゃあ無い。

 事実だ。


 入校から1ヶ月で、お前ら位の実力を身に着ける者は、1人か2人だ。

 居ない年もざらだ。

 お前ら以上となると、2年の霜月しもつき位だ。

 それ位、お前らの能力は高い。


 ただ、今年は運が悪かった。

 正真正銘の天才共が固まって入校しやがった。

 ただ、それだけだ」

 と言うと、頭を左右に振って俯いてしまった。


「私達とどの位実力差があるのですか?」

 と伊吹さんが追加の質問をする。


「そうだな。

 天才共の中心に居るのは、神城准尉だ。

 白髮・赤目の少女だから、見た事位あるだろう。

 これは、例外中の例外だから比べるだけ無駄だ。


 あとの天才共は、その神城准尉の側に居る4人なんだが、コイツラの実力については、お前らの2段階先に居ると想定される。

 即ち、お前達と同じ時間で3倍の成長をしているって事だ。


 そして、魔力調律においては、俺達以上だ」

 と土森つちもりさんが説明してくれた。


「魔力調律とはなんだ?」

 と俺が疑問を上げると

「精神と魔力を落ち着かせ、身体を巡る魔力と身体を調律する事で魔力感知領域の増大や魔力の体への浸透率を上げる訓練のはずだった」

 と石割いしわりさんが答える。


「はずだった?」

 と俺が問うと


「少なくとも、俺達が現役時代はそうだった。

 だが、今の中部方面隊は、最大出力の魔力纏身まりょくてんしんを行いながら魔力調律を行う訓練を行っている。


 何故、そんな事をしているのかは全く分からない」

 とマスターが苦々しく言い。

「全力疾走をしながら瞑想をしろと言っている様なもんだ。

 それが出来る事自体が非常識なんだが……出来ているんだよな」

 と石割いしわりさんが頭が痛そうに言い。

「我々も挑戦したんだが、全くできなかったよ」

 と土森つちもりさんが諦め気味な感じで言った。


「それって、戦術課の最新の訓練方法ですよね。

 それが、あの4人とどういう関係があるのですか?」

 と伊吹さんが問うと

「それは、その4人が戦術課隊員の誰よりも長く維持出来るからだよ。

 私達では出来ない。

 戦術課隊員達でも、短時間しか維持出来ない。

 それを20分近くも維持出来るそうだ」

 と華山はなやまさんは、呆れた感じで言った。

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