山田 零士 ゴールデンウィーク 訓練校1年目(1)

「今年のゴールデンウィークは、短いから帰らないからな。

 うん。

 ああ、章もこっちに残るから、自主訓練をして過ごすよ。

 うん。

 わかった。

 父さんにもよろしく言って置いてくれ。

 うん。

 じゃあ、また電話するよ」

 と言って電話を切る。


 明日から訓練校入校後初のゴールデンウィークだ。

 同室の奴は、授業が終わると速攻で帰って行った。

 ゴールデンウィーク中は静かに過ごせそうだ。


 翌朝、俺と章は、食料の調達に出るためにバス停に向かった。

 バスは8時ちょっと前に来るはずだが、余裕を持って15分前にバス停に着く様に移動している。

 ただでさえ少ないバスの便が、休日だと更に少なくなる。

 もし乗り損なったら、1時間も待つはめになるから乗り損なう訳にはいかない。


 バス停には、先客が居た。

 俺と同じ1年生で、魔力制御訓練棟の使用許可を持つ伊吹さんだ。

 普段なら取り巻きが数人居るのだが、今日は1人だ。


「よう。おはよう」

「おはようさん」

 と俺と章が挨拶をすると

「おはようございます」

 と返ってきた。


「今日は一人なのか?」

 と俺が不躾な質問をすると

「ええ、そうよ」

 と何処か清々しく感じる声が返ってきた。


「そういう貴方達は、いつも一緒ね」

 と言うと章が

「幼稚園からの付き合いだからな」

 と戯けた。


「へぇー。幼馴染なんだ」

 と言うので

「家も同じマンション内だったから、家族の次に長いな」

 と返すと

「そっかー。それは良いね。あの娘達と大違いだ」

 と言う。


「ん? その言い方だと、普段一緒に居る連中は友達では無いのか?」

 と聞くと、苦い笑いをしながら

「そうね。知り合い以上、友達未満ってところかな」

 と言う。


 章が

「何だそりゃ」

 と驚いた声を上げた。


 俺はため息をついてから

「監視と勧誘か」

 と答えると

「その通りね。

 派閥からのスカウトが目的ね。

 実際、何度も誘われたもの。

 当然、全部断ったわ」

 とキッパリと言い切った。


「そうか、纏わりつかれるのも大変だな」

 と俺が言うと

「まあね。でも、あからさまに拒絶すると色々と面倒なのよ」

 と言って、大きなため息をついたあと

「たぶん、男子の方にも噂は流れていると思うんだけど。

 今、1年の女子で特別待遇を受けている子が居て、その関係で先輩達がピリピリしているのよ。

 特に今は、その子と一緒に居る子達を敵視していてね。

 なんか、色々な妨害イジメを働くつもりみたいよ。

 それに加担しろだって、人を馬鹿にしすぎよ。

 当然断ったわ。

 そしたら、黙って傍観してろですって、呆れを通り越して怒りを覚えたわよ。

 だから、彼女達とは絶交を言い渡したわ。

 もう、纏わり付かれる事も無いわ」

 途中、段々と声が大きくなり、怒声が混じっていたが、最後はサッパリとした感じだった。


「さっき、拒絶すると面倒って言ってなかったか?」

 と章が聞くと

「ええ、私にも嫌がらせを仕掛けてきたわ。

 でもね、寮監さんに見つかってお仕置きを受けたみたいよ。

 だからかな、会う度にネチネチ嫌味を言ってくるわよ」

 とうんざりした様子で語ってくれた。


「それは、大変だな」

 と俺が言うと

「本当にね」

 と苦笑いと共に返された。


 丁度タイミング良くバスが来たので乗り込む。

 折角なので、俺達は近い席に座った。


 バスが発進すると章が

「でも何で、目の敵にしてるんだ?」

 と疑問を呈した。


「それは、特別待遇に関してか?

 それとも、周囲の子達に関してか?」

 と俺が問うと

「両方」

 と返す。


「特別待遇については、お前も親父から聞いたよな」

 と俺が言うと章は

「えーと、入学式の時に言ってたっけ。

 たしか、おじさんは、訓練生では無いから特別扱いになるみたいな事言っていたな」

 と思い出しながら答えた。

 それを聞いた伊吹さんは

「え、それって、どういう事?

 初耳なんですけど」

 と驚きを露わにして聞いてくる。


「ああ、俺の親父は、防衛課勤務なんだ。

 その親父に、入学と同時に特別室に入居になる事例はあるのかと聞いたら、特別な保護を受けて訓練校に入校した場合と、既に正規の隊員の場合の2通りがあると言うんだ。

 で、今回の場合、後者らしい」

 と俺が言うと

「でも、なんで正規隊員の人が訓練校に来るのさ?

 と言うか、中卒で入庁出来るの?」

 と素っ頓狂な声をだした。

 伊吹さんは、慌てて口を手で塞ぎ周りを見る。

 幸い、今バスに乗っている乗客のは俺達3人だけだった。


「親父から聞いた話では、特殊な能力アビリティを持っている人なんかは、中学在学中に入庁する事もあるそうだ。

 それに15歳以上の能力者は、国の指定した訓練校を卒業する必要があるそうなんだ。

 だから、既に入庁済でも、訓練校に通う必要はあるそうだ」

 と俺が説明すると

「そもそも訓練生では無いから、扱いが違うのか。

 だから、能力訓練も免除されているのではなく、訓練生とは別メニューで訓練を受けているのか」

 と言って一人で納得している。


「理解が早くて助かる」

 と俺が言葉で伊吹さんを褒めつつ、章をジト目で睨む。


「そうか、だから戦術課の隊員が訓練校に居るのか。

 あの4人は、たまたま隊員達に実力を見てもらったのか」

 と言って、ウンウンと一人納得していた。

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