神城 翔 親として(4)
妻が優を抱擁から解放すると、優と一緒に入ってきた看護師が
「座って待ってください。もうすぐ三上主任が来ます」
と言って、優に椅子に座るように勧めた。
優が椅子に座って程なく、三上主任と呼ばれる白衣を着た女性が入ってきた。
それから、優の検査結果を説明された。
優の身体は、正常な10歳前後の女の子だという。
また、先日行った男性化の治療の結果を聞いて驚いた。
今の状態を見て、男性化は失敗したものだと思っていたが、実際には男に戻れたが衰弱したうえ、1日も持たずに女性に戻ってしまった事に驚いた。
そして、もう2度と男性に戻れないと言われた時、優以上に落胆した自分がいた。
その事に自分自身でも驚きながら、決して表に出さない様にして話を聞く。
この後の予定を聞き、優が病院服から私服に着替えるために一旦別れ、病院のロビーで優が来るのを待つ。
退院の手続きは、氷室さんが手続きをしてくれたので、何もする事がなかった。
優が合流したが、掛ける言葉が何も思いつかなかった。
誰も喋らない中で、車に乗り、近くの市役所に移動する。
氷室さんが、市役所の案内所の係員に何か話すと個室に案内された。
そこで、氷室さんの隣に優が座り、その隣に妻が座り、俺は一番端に座った。
市役所の担当者が書類を持って入室すると、氷室さんと担当者さんが書類を確認と説明をしながら、優に署名させていた。
30分と掛からずに処理が終わた。
こんなに早く終わったという事は、事前に連絡してあったのだろう。
その後、対魔庁の事務所に移動してから優のライセンス証を受け取る。
ライセンス証を渡され、対魔庁の課長さんから聞かされた内容が非道かった。
俺達家族の存在そのものを否定するような内容だったからだ。
正直、聞いている最中に何度も怒りを覚えた。
強制保護という名目で、俺達から子供を取り上げる提案だったからだ。
全てをかなぐり捨てて暴れたい気持ちだったが、それでも我慢して聞く。
彼らの言い分も分かる。
優の存在を隠し、マスコミ等から距離を取りたいのも分かる。
そしてランクSという強者には敵わないが、その家族たる俺達が優の弱点となる事も理解した。
それでも家族である以上、簡単には受け入れられない。
そんな中、最後に比較的まともな提案が出た。
優は、今の生活環境を可能な限り維持出来る最後の提案を受け入れた。
俺も妻も、優の選択を支持する事にする。
俺は、少しでも良いから優の力になってやりたかった。
課長さんは、最初からそれを選ぶ事を予想していた様だ。
既に書類等が全て用意されており、その後の手続きは、ものの数分で終わった。
再び車に乗って移動する。
今度は、優が通っている中学校に行くためだ。
中学校が受け入れを拒否されると、優は1人で訓練校に入校する事になる。
ただ、この場合の訓練校が何処を指すのかは、分からないという。
優の場合だと、訓練校ではなく教導隊や駐屯地の訓練施設の整っている場所になる場合もあるそうだ。
そして、可能性として最も高いのが、東海支局教導隊だろうと言っていた。
ここには、
出来れば、中学校が受け入れてくれる事を願うばかりだった。
ずーと外を眺めていた優が、不意に困惑したような顔をした。
すると、妻が
「あら、優ちゃん 変な顔してどうしたの?」
と声を掛けた。
優は
「え、なんでも無いよ」
と外に顔を向けたまま答えた。
妻は
「自然と女の子らしく振る舞っている事に気がついたんでしょう」
と続けた。
優は驚いた顔で妻の顔を見つめている。
俺は、妻が言った事が理解できなくて、呆然と妻と優の顔を見比べていた。
「優ちゃんが女の子になったでしょ。
最初、オレっ娘もいいかな~て思っていたんだけど、氷室さんとの初対面の挨拶の時になんか違うと思って、やっぱり、女の子らしくして欲しくて、それで、優ちゃんに誓約を掛けちゃいました」
妻の突然の告白を
ちょっと、頭の処理が追いつかない。
「誓約って?」
優の疑問に
「あの時、言ったでしょう。
『今は女の子になっているのですから、女の子らしい言動をしないといけません』って」
という妻の言葉に、疑問いっぱいという顔の優が頷いた。
妻は、素晴らしい笑顔で
「私が、誓約事項を設定して、優ちゃんが承認したから、優ちゃんの行動原則の中に女の子の時は、女の子らしい言動を行うになっただけよ。
解除しろって言っても無理だからね。
私の能力は、効果が強力だけどその分、発動・解除の条件も厳しいの、だから諦めてね」
と言った。
俺も優も直ぐに理解出来なかった。
状況が進んで行くが、ちょっと待ってくれ、俺はまだ理解できていない。
俺も優も、口の中で妻の言葉を繰り返して、内容を飲み込もうとする。
優の方が、先に理解出来たみたいで、妻に
「私の行動原則に女の子時は、女の子らしい言動?
それって、無意識に女の子らしい行動をするってこと?
しかも、解除不可能?」
と質問を返した。
妻は
「その通りよ。よくできました」
と言って、手をパチパチと叩いている。
数瞬沈黙した後
「えーーーーーーーーーーー」
絶叫を上げ、絶句し、放心している優が残された。
俺は、状況が理解出来ないまま、放心した優を眺めていた。
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