神城 翔  親として(3)

 翌日、15時過ぎに妻からメッセージが届いた。

「検査結果、現状の状態は性転換状態だそうよ。

 そして、男に戻れる可能性も確認された。

 優自身は、再性転換処置を受けたいそうよ。

 だから、保護者として同意したわ」

 優の検査中間報告だった。


 色々と考えたが、言葉が浮いてこない。

 結局

「色々と大変だろうが、自分の身体と意志を大切にしなさい」

 と優にメッセージを送る。


 こういう時に、気の利いた一言も送れない自分の無力さに打ちひしがれる。


 仕事を終え帰宅した。

 夜の落ち着いた時間に、優の状況を聞く事にした。


「そうね。

 3時頃に対魔庁の担当者が、家に報告に訪れて、そこで優ちゃんの状態の報告を受けたわ。

 まず、現状の身体状態の説明を受けたの。

 優ちゃんの染色体はXXダブルエックスだったそうよ」

 妻の声色は、普段と変わらないが淡々としたものだった。


 俺は最初意味が分からなかったが、口内で反芻はんすうしている内に気づいた。

「ちょっと待て、それって優が完全な女の子になったって事か?」

 俺は思わず声を荒らげてしまった。

 慌てて自分の手で口を押さえて言葉を飲み込み、大きく深呼吸してから出来るだけ落ち着いた声で

「それは本当なんだよね」

 と尋ねると

「ええ、その通りよ。

 検査結果は、眼皮膚白皮症がんひふはくひしょうを発症しているものの、健康な二次性徴期位の女の子になっているとの事」

 と答えが返ってきた。


「えーと、そのガンヒフなんとか症と言うのは?」


「ほら、優ちゃんって、真っ白だったでしょう。

 アレは、眼皮膚白皮症がんひふはくひしょうという遺伝疾患の1つで、一般的に言われる白子症はくししょうとかアルビノって呼ばれる症状よ」


「そうなんだ。

 そうなると、何か症状が在るのでは?」


「そうなのよ。

 教えて貰った症状は、弱視や紫外線に極端に弱くなるそうよ。

 肌は真っ白だから、簡単に日焼けで火傷状態になりやすく、目の色素なんてほとんど無いから、赤く見えてるそうで本来なら全盲でもおかしくなかったそうよ」


「それって、かなり大事ではないか」

 思わず大声を出してしまった。


「本来ならそうなるはずだったの。

 でも、優ちゃんの場合、視力は両目とも1.5もあるし、日光に当たっても火傷一つ付いていないそうよ。

 能力アビリティの影響なのかどうか分からないそうよ」


「そうか、取り敢えず大事はなくて良かった」

 俺はちょっと安堵した。


「それで、優ちゃんの遺伝子に特異点が見つかった事と、魔力塊マナ・コアに男の頃の魔力因子が見つかったそうよ。

 この両方の因子に刺激を与える事で、男に戻れるかもしれないそうよ」


「その治療を受ければ、優は男に戻れるかもしれないんだね。

 ところで、その治療に危険性はあるのかな?」


「説明では、命の危険性は無いそうよ。

 ただ、確実に男に戻れるとは限らないそうよ」


「そうか。

 それで、優の治療に了承はしたんだよね」


「ええ、同意したわ。

 同意書にも、優ちゃんの署名がされていたからね。

 だから、私が保護者の欄に署名したわ」


「そうか。

 だったら、上手くいく事を祈ろう」


「ええ、そうね」


 翌日も普段通り出社する。

 優の事は、気になるが普段通り仕事をする。

 そろそろ定時が近づいてきた夕方、妻から連絡が来た。

「明日、診断結果を報告するために、対魔庁病院に来て欲しい」

 と言う内容だった。

 俺は迷うこと無く部長の元に赴き、理由を話し有給を取る事を告げた。

 すると

「仕事の事は大丈夫だから、家族の為に時間を使いなさい。

 必要なら月曜日も休んで良いからな」

 と温かい言葉も貰った。


 家に帰り妻と娘に、明日優の迎えには自分も行く事を伝え、各人の明日の予定を確認する。

 妻は予定無し。

 娘は、試験前休みだが友達と試験勉強をする予定が入っていた。


 娘は、試験勉強では無く優の迎えに行きたいと言ったが、試験勉強を優先させた。

 娘は納得しなかったが、妻の

「舞ちゃん、貴方、1学期の期末テストの結果があまりよろしく無かったでしょ。

 あの後、2学期は勉強も頑張るって言っていたわよね。

 だから成績が悪化する様なら、お小遣いの減額も検討しますよ」

 の一言で、大人しく勉強をする事を了承した。


 翌日の朝、対魔庁からの迎えの車に乗って対魔庁病院に向かう。

 車内では、対魔庁の担当者の氷室さんと妻が雑談に花を咲かせている。

 俺は、後部座席から外を眺めてながら、優の状態が気になっていた。

 無事に男に戻れたんだろうか?

 それとも、女の姿のままなんだろうか?

 優を前にした時、どう接すれば良いのだろう?


 そう思い悩んでいる内に対魔庁病院に着いた。

 担当の氷室さんに案内されて診察室に案内された。


 そこで、優が来るの待つ。

 10分も経たないうちに、診察室の扉が開いた。

 看護師に連れられた女の子の優だった。

 それを確認した途端、内心で落胆してしまった。

 無意識に、優が男に戻っている事に期待していた事に俺自身が驚いたが、それよりももっと辛いのは優自身だと思い直す。


 立ち上がり優に向き直ると、普通に

「父さん。母さん。おはよう」

 と挨拶されて、毒気が抜かれた。


 俺の状態などお構いなしに

「父さん、仕事は大丈夫? あと舞は?」

 と首を傾げながら聞いてくる。


 正直、その仕草が可愛らしく似合っていると思いつつ。

「仕事の事は、心配しなくてもいい。家族の大事だいじの方が重要だ。

 舞は、家に置いてきた。

 舞も来たがっていたが、友達と試験勉強する約束をしていたからそちらを優先させた」

 と答えると、妻が

「優ちゃん 貴方も色々大変だったでしょう」

 と言って俺の前に出た。

 優が「うん」と肯くと「お疲れ様」と言いながら抱擁した。


 その様子を1歩後ろから、眺めるしか出来なかった。

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