平田 南 回顧(3)

 気が付くと白い部屋でベットに寝かされていた。

 身体には、機材が取り付けられていた。


 白い天井を見上げながら

「また、死に損ねた」

 そう、自然と言葉が出てきた。


「折角生還したというのに、最初の一言がそれか」


 声がした方を見ると、大隊長がパイプ椅子に座っていた。

 私が起き上がろうとするより早く、大隊長が立ち上がって静止した。

「まだ、傷は治っていない。大人しく寝ていろ。

 お前は、1週間も意識不明だったんだぞ」

 そう声を掛けた後、私が大人しくなったのを確認してから、再び椅子に座った。


 しばらく、沈黙が場を支配していたが、医師が様子を見に来た事で破られた。

 一通り診察された後

「傷の治りも肺の機能も問題有りません。

 傷自体は、あと1週間程で完治しそうですが、様子を見て2週間は安静が必要でしょう。

 その後、病院で3週間程リハビリをしてから退院と考えています。


 部隊復帰は、早くても3ヶ月後位と見て下さい」

 と告げられた。


「そうか。随分と早いな。

 斬撃は肺まで達していたから、復帰まで年単位掛かると思っていた」

 と大隊長が答えると

「普通ならその通りです。

 傷の完治には、早くても半年掛かるはずなのですが、彼女の場合、能力アビリティの影響なのか傷の治りが異常に早いのです。

 治癒士の治癒を掛けている事を考慮しても尋常じゃない早さです。

 なので、現状の回復力が続く事を前提にした予想です。

 状況次第で、退院が伸びる事もあると思って下さい」

 と医師が返す。


 その様子を上の空で聞きながら

「やっぱり化け物らしく、簡単に死なせてくれないんだ」

 と思った。


 医師と大隊長の会話が終わったらしく、医師が病室から出ていった。


 しばらく沈黙が降りた。


「取り敢えず、色々とやらかしてくれたな。

 命令無視、独断専行は厳罰ものだぞ」

 大隊長は、深く絞り出す様に告げる。


「では、規定通り、特務防衛課へ移籍ですか?

 それとも懲戒免職ですか?」

 それはそれで、私的にはありがたい。


「いや、それはない。

 単独で、ハイオークやオークジェネラルを含むオーク軍団を殲滅した功績と、我々の管理ミスもあるので、降格も移籍も帳消しにする」


「管理ミス?」

 なんの事だろう?


「ああ、そうだ。

 我々は、お前の能力アビリティ狂戦士バーサーカーだと知りながら、任務中の適切な管理を出来ていなかった」


「適切な管理?」

 ますます分からない。


「そうだ。お前の様に暴走型の能力アビリティを持つ者は、任務中は上位者が管理を行う事になっているが、お前の管理出来ない者を上位者として設定した事が我々のミスだ」


「班長は、悪く有りません」

 私ではなく、班長とか別の人に処罰が行くのは困る。

 処罰は、私にしてくれないと。


「お前の班の班長、長沼にはお前の暴走を止められないという事実を知っていながら、適切な上位者に変えなかった事と、お前の能力アビリティがレベル4に達している事を見落としていた事が問題なのだ」


能力アビリティのレベル4?」


「ああ、知らなかったのか。

 狂戦士バーサーカー能力アビリティには、状態によりレベル1から4まで設定されている。

 レベル1は、性格や言動が荒くなる。

 レベル2は、身体能力の向上が発現する。

 レベル3で、狂化現象を起こし暴走する。

 レベル4で、殺戮兵器と化す。

 特にレベル3以上の場合、任務中は強制的に停止可能な者が管理する事が義務着けられているのだが、我々はコレの管理を誤った為に起きた事故と判断した。

 それ故に、この件での処罰は無い。

 そういう訳だから、まずは身体を治せ」


 そう言うと、「まだ仕事があるから戻る」と言って大隊長は病室を出て行った。



 Side 篠本

 平田の病室を出て扉を閉めると

「篠本司令、流石に処罰無しは不味いのではありませんか?」

 と外で待機していた補佐の中之なかのが尋ねてくる。


「ああ、確かに不味いかもしれないが、その辺は上層部と交渉するつもりだ」

 と答えながら歩き出す。


 私と並んで歩きながら

「平田の状況は理解しましたが、規律を無視する訳にはいきません。

 それなりの罰を与えるべきです」

 と苦言を呈する。


「確かに、隊の風紀を考えるなら厳罰を科するべき案件だが、今回の件に関しては例外とするつもりだ」


「どうしてですか?」


「まず、その厳罰自体が、平田に取って何の意味を持たないからだ」


「?」


「あいつの目的は、魔物の大量虐殺したうえで、戦死する事だ」


「はぁ? なんですかそれ?」


「これを読め」

 私は、中之に1枚の報告書を渡した。

「これは、今朝届いた物ですね」

 そう言うと内容を確認はし始めた。


「それは、平田が6歳から15歳までの間、診断した心理カウンセラーの鑑定書だ。

 非常に興味深い内容だろう」


 中之は、何も言わず報告書を何度も読み返している様だ。


「特務防衛課なら、まず間違いなく平田は使い捨てられるだろう。

 それこそ、平田の本懐が達成してしまう。

 また、後方部隊の移動や退庁させても、既に得ている情報から単独で魔物討伐に出て本懐を成すだろう。

 それならば、戦闘部隊に置き、強制的に管理下に置く方が遥かにマシだ。

 それに、最低限の隊規律は守っているしな。


 生きる喜びも楽しみも知らない奴を、道具の様に使い捨てする気は無い。

 そうなると、情操教育も施さないといけないな。

 このままだと、惨めすぎる。

 だから、特務防衛課や後方部隊への移動も退庁もさせない。


 ああ、それと、あいつの狂化時の戦闘能力はランクAに達している可能性が高い。

 思金おもいかねにも調査依頼を出さないとな」


 ガックリと項垂れた中之が

「また、無茶を言いますね。

 確かに、このまま見捨てるのには抵抗がありますが、困りましたね。

 この際、狂化時の戦闘能力を主として報告するしか無いでしょう。


 凡百ぼんひゃくについては別件で締め上げるとして、平田を管理出来る人材となると…。

 あまり気が進まないが、伊坂に任せるしか無いでしょう。


 上層部への報告書作成と思金おもいかねへの調査依頼は、私の方で作成します」


「苦労を掛けるが頼む」


「そう思うのだったら、余計な仕事を増やさないで下さい」

 二人で、ひとしきり笑ってから車へ戻るのだった。

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