平田 南 回顧(1)

 部屋に戻った私は、ベットの上に転がり

「うーん。失敗したな」

 と呟いた。


 正直、この程度の魔力操作も出来ない状態になっているとは思ってもみなかった。

 少しでも早く元に戻りたいのにな。


 上手く行かない。


 いつもそうだ。


 大丈夫と思ってやったことが尽く失敗している。

 隊長も大隊長も、さっさと私を見限ってくれれば良いのに、何故か見捨てられない。

 特殊防衛課に移動出来れば、本懐を達せられるのに移動させて貰えない。

 生きている事自体が罪なのだから、化け物は化け物らしく使い潰してくれれば良いのに。


 気がついたら真っ暗な空間に一人佇んでいた。

 ああ、いつものか。


 そう認識すると、私の正面に僕が現れた。

『よう、死にたがり』

 右手を手を上げ、気軽に挨拶をしてくるそいつに

「久しぶりね。壊したがり」

 と返事する。


『死にたがりの癖に、人に物を教えようとして、魔力塊マナ・コアを自損するとはな。

 死にたがりらしいな』

 と厭味いやみったらしく、笑いながら喋ってくる。


「そういうアンタ壊したがりだって、随分と干渉してこなかったじゃあない。

 ひょっとして、魔力塊マナ・コアを制限されて動けなかっただけ?」

 と返すと、肩を竦めるながら

『残念ながらその通りだよ。

 こうやって干渉するのも一苦労だよ。

 もっとも、死にたがりがやらかしたお陰で短時間だけ接触出来ただけだ。

 だから、端的に用件を言おう。

 余計な事をしないでさっさと治せ。

 僕達の本懐を成すためにな』


「分かっているわよ」


『なら良い。我々の本懐を夢々忘れるなよ』

 その言葉を最後に「壊したがり」は姿を消し、意識は身体に戻ってきた。


 ベットの上で身体を起こし

「言われなくても分かっているわよ。

 化け物は、敵と一緒に全滅する事で初めて役に立つんだから。

 だから、強くなって死なないと」

 そう声に出してから、部屋の電気を消し横になる。



「平田 南」に家族は居なし、記憶も無い。

 いや、正確には家族と思われる一欠の記憶はある。

 その記憶は、私にゴルフクラブを振るう男性とその男性の後ろで男女1人ずつの子供が泣きながら立ち尽くし、その子供を抱き込む女性の後ろ姿だ。

 男性は私に

「この化け物め。死ね。死ね。お前の様な化け物は死ななければ成らないんだ」

 と叫びながら、何度もゴルフクラブを振り下ろしていた。


 次に目を覚ました時、私は病院に居た。

 そこで検査を受けた後、対魔庁の養護施設に預けられた。

 そこは、能力アビリティに覚醒した事で暴走した子供や孤児の能力者が収容されている場所だった。

 そこで他の子供達と一緒に能力アビリティの制御訓練を受けながら生活をしていたが、特に私は不安定だった為よく暴走した。


 1年程経って、私は7歳になった。

 本来なら小学校に通う年になったのだが、あまりにも不安定だったので施設で義務教育を受けていた。

 同じ様な境遇の子供達でも、暴走の危険性が大幅に少なくなった子供は両親の元に返され、ある程度危険性が少なくなった子供は近所の小学校に通う。

 それ程、私は不安定だった。


 そんな私に良くしてくれた施設の職員や子供達のお陰で、少しずつ落ち着いてきていた。

 多分、私の中で一番幸せな時間だったと思う。


 それが壊れたのは、施設での遠足行事の最中だった。

 遠足先で魔物の群れが現れたのだ。

 そいつらは、突然裂けた空間から現れて襲いかかってきた。

 近くに居た子供が殺され、阿鼻叫喚の中、職員が逃げる様に大声を張り上げながら魔物に立ち向かうも、目の前で殺された。

 死に際の職員の人達が、「逃げろ、生きろ」と言葉を残して死んでいく。

 その中に、私の大好きな職員も居た。

 それを認識した次の瞬間から記憶がない。

 気がついたら、血の海の中に立っていた。

 魔物は1匹残らず、無惨な残骸と化していた。

 結局、この惨劇で子供10名、職員3名が死んだ。


 数日の入院後、施設に戻って来たが、もう彼らは居なかった。

 同じ施設の子供には、魔物を倒す程強いのに他の人を助けなかったのかと責められ、職員は亡くなった同僚や子供達を悼み、私は顧みられなかった。


 そして、私はより一層不安定になり

「私の様な化け物が、本来死すべきだったんだ」

 と、そして

「僕の様な化け物が、戦って全てを破壊すべきなんだ」

 という2つの思考に支配された。


 その結果、私が2人になった。

 それが、「死にたがり」と「壊したがり」だ。


 時間経過で落ち着いたが、2人の目的は

「最前線で戦い、敵を殲滅して死ぬ事」

 になった。


 そして、できる限りいい子を演じ、訓練と勉強しかしていなかった。

 それでも、安定したのは15歳間際だった。

 結局、施設で教育を受けただけで、一度も学校に通う事も無く訓練校に入学した。

 その時、初めて自分の戸籍をみたが、戸籍には私以外誰も載って居なかった。

 それを見て、化け物にふさわしいと言う感想しか出てこなかった。


 訓練校も学ぶ事が何も無いので、3ヶ月で卒業した。

 高等学校卒業程度認定は、15歳になった年に受験して合格を貰っていたから問題なかった。

 そのまま対魔庁に入庁し、防衛課に配属されるも誰も私について来れない。

 色々と先輩風を吹かす人達や遊びに誘う人達が居たが、適当に返事をし、無視続ける内に、誰も近づく事が無くなった。

 正直、他人なんてどうでも良い事だったので、ちょっかいが無くなった方がありがたかった。

 ただ、防衛課だと強い敵と出会えない。

 そこそこ数の居る敵の群れと相対する事はあったが、周囲と連携がどうのこうのと周囲はうるさかったが、無視して殲滅させていた。

 このままだと本懐を達成出来ないので、特務防衛課に移動願いを何度も出すが何故か却下された。

 その状態のまま5年が過ぎると、戦術課への移動試験を強制的に受けさせられた。

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