神城 翔 親として(1)
あの日の朝は、珍しく寝坊した息子の優が起きて来るまで普段通りだった。
妻が、娘の舞に息子を起こさせに行った。
そこまでは、よくある光景だった。
だが、娘が「お母さん 大変だよー お兄ちゃんがお姉ちゃんになったー」と訳の分からない事を大声で叫びながら、走って戻ってきた。
妻は、「近所迷惑だから叫ばないの」と娘を叱っているが、「それどころじゃあないの」と全く落ち着かない。
「とりあえず、落ち着きなさい。優がどうしたのか?」
と声を掛け、娘の話を聞く
「お兄ちゃんの部屋に入ると見知らぬ女の子が、ベットで寝ていたの。
それで、声を掛けて確認するとお兄ちゃんだって言うのよ。
それで、慌てて戻ってきたの。
それで、すごい色白で、銀髪で、赤い瞳の美少女よ。
とにかく、一緒にお兄ちゃんを見てよ」
と勢いよく言うと、今度は私の腕を引っ張りだした。
「分かったから、腕を引っ張るのはやめなさい」
と言い、腕を引っ張るのを止めさせると立ち上がった。
娘を先頭に息子の部屋に向かう途中にある洗面台の前に、息子の寝巻きを着た見知らぬ少女が立っていた。
娘が誇らしげに
「ほら、おねーちゃんになっているでしょ」
と言うが、私は非現実的な光景の前にただ「優なのかい?」と尋ねる事しかできなかった。
その少女から「うん。そうだよ」と返事が来た時、頭が真っ白になった。
どうしたら良いんだ?
そして、能力者絡みの事や不可思議な事が起こったら対魔庁の緊急相談窓口に連絡する事に思いだした。
「そうか。取り敢えず、対魔庁に連絡入れてくる」
と告げ、リビングに戻り、スマホから緊急相談窓口に連絡を入れる。
我ながら、狼狽した状態で説明したので正しく伝わったかについて疑問は残ったが、職員を派遣してくれる事と、検査入院が必要になるかもしれない事が分かった。
その事を家族に告げ、妻に付き添いをお願いした。
本来なら俺が付き添いたいのだが、今日は都合が悪い。
3ヶ月も掛けたコンペティションの報告会が行われる
主任である俺が出ない訳にはいかない。
コンビニに優の着替えを買いに行った妻が返って来たので出勤する。
玄関まで見送りに来た優の頭に手を置き
「まあ、気楽に行ってこい。
男であろうと女であろうと俺の子供には違いないだから」
と声を掛け出勤する。
まあ、仕事の方、コンペティションの報告会は無事に終わった。
上層部とクライアントの首脳陣からは、良い反応を得られた。
クライアントの首脳陣からは、俺達のチームの案を中心で検討すると言われたので大成功だ。
定時後、部下達に報告会の打ち上げに誘われたが断って家に帰る。
部下達にはしつこく誘われたが
「今朝、子供が
一般的な
と話すと、「良かったじゃあないですか」とか「おめでとうございます」とか「羨ましい」等々の賛辞を得た。
まあ、一般的に
俺からすると、「子供を戦場に送り出さなければならない事態になった」と言う悲報でしかない。
世間と能力者の子供を持つ親との認識の差は酷いものだ。
それでも、本心を表に出さずに礼を言って部下達と別れて家路についた。
帰宅すると、予想通り優は居なかった。
妻に状況を確認すると、やはり検査のため入院する事になったそうだ。
妻も娘も特段心配した様子が無かった。
むしろ娘は、戻ってきたら色々とお世話を焼くんだと張り切っていた。
「男から女に変わったのだぞ。
心身共に不安や勝手の違いから色々と戸惑いで、疲弊しているはずだからそっとしてやるべきでは無いか」
と娘に忠告すると
「お兄ちゃんからお姉ちゃんに変わったのだから、女としての先輩として色々とお世話をしたいの」
と反論されてしまった。
「優が女の子になって何とも思わないのか?」
と思わず聞くと
「何も思わないよ。
だって、お兄ちゃんがお姉ちゃんに変わっても同じ人間何だもの。
なにも失っていないもの。
ただ、性別が変わったから大変だなーって思うくらいかな」
「大変だなで済ませる内容では無いと思うのだが」
と呟くと
「お父さんは、大げさに考えすぎだと思うよ。
お兄ちゃんでもお姉ちゃんでも、私にとってはただ一人の兄妹だもの。
別人と入れ替わった訳では無いから、普段通り接すれば良いだけだと思ってるよ」
俺は息子が色々と悩んでないかとか、勝手が違って困ってないかと心配しているのに、「何も失っていない」、「中身は変わっていない」と言う発想には至っていなかった。
いや、むしろ、息子を失ってしまったと無意識に思っていたのかもしれない。
「それに、お兄ちゃん。
小学校高学年になる頃から、私を避ける様になったんだもん。
お姉ちゃんになれば、昔みたいに仲良くなれると思うんだよね。
それに、予習はバッチリだよ」
ああ、そういえば、小さい頃は優の後をついて回る子だった。
優と舞、それに零士君、章君の4人でいつも遊んでいたな。
最近では、優、零士君、章君の3人でしか遊んでいるのを見ていなかった。
思春期だから仕方が無い事なんだろうが、舞としては寂しかったのかもしれない。
それと予習とは何の事だろう?
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