山田 零士 訓練校への入校(2)
翌朝、7時前に目が覚めた。
同居人は、まだぐっすり寝ている。
章に連絡をすると珍しく起きていた。
章と朝飯を食いに行く。
食堂は、そこそこの人数が食事を取っていた。
入学式は10時からだから、既に制服を来ている生徒は上級生なのだろう。
時間と共に人が増えるので、明日以降もこの時間に朝食を取った方が良さそうだ。
朝食を食べた後、一旦部屋に戻ると同居人がモゾモゾと起き出した。
そいつは時間を確認するなり「何故起こさなかったか」と怒り出すから
「ふん、知るか。
俺はお前の母親でも家族でもないし、お前の面倒を見る義務も無い。
自分の管理ぐらい自分でしろ」
と冷淡に告げると舌打ちをしてそのまま出ていこうする。
「おい、待て」
苛立ちを隠さず「なんだ」と怒鳴り返してきた。
「お前、その格好で外に出来る気か」
と冷淡に告げる。
「それがどうした」
「自分の格好をもう一度見直してから考えろ」
俺はそう告げると、制服に着替える為に服を脱ぎ始める。
あいつは、ブツブツ言いながら自分の姿を確認すると、大人しくジャージに着替えてから静かに出ていった。
なにせ、あいつは下着だけで寝ていたのだからな。
8時30分過ぎに章と合流して、入学式が行われる第一体育館に向かう。
親父は、9時過ぎに到着する様に行くと言っていたから、その前に体育館前で待つためだ。
他にも早く行く理由は、親父に相談したい事があったのと、体育館前で待ち構えれば優に会えるだろうという打算もある。
親父達は9時前に来たので早速相談する。
「親父」
「何だ」
「親父から教わった魔力訓練を章にも教えたいが良いか?」
「構わんぞ」
「ありがとう。
それと、知っていたら教えて欲しい事がある」
「なんだ?」
「入寮時から個室、それも特別個室に入る条件って知っている?」
「入学時から個室か。そうだな、訓練生では無い可能性がある」
「訓練生では無い?」
「おじさん、それどういう事?」
章が混乱気味に食いつく。
「まず、非能力者で保護されている場合。
これは、訓練生で無い為、訓練生と同じ部屋にしない。
もう一つが、既に正規隊員の場合だ」
「「正規隊員?」」
「俺達と同じ歳で、対魔庁に所属しているって事?」
「その通りだ。
貴重な
まあ、10年に1人あるかないか位だがな。
あとは、身体的制限から個室の場合がある位だな」
「そうか、ありがとう」
「おう、どう致しまして。
ところでそんな事を聞くって事は、その事例の人物が居るのか?」
「ああ、女子寮の方で居るらしい」
「そうか、その子も色々と大変だろう。
もし気に掛けるのなら、しっかりと手助けしてやれ」
「ああ、助けが必要なら手を貸すつもりだ」
「頑張れよ」
「ああ」
そうしている内に、章の家族も合流した。
まだ、開式まで40分位ある。
だからだろうか、親父が章に魔力訓練方法を教えている。
基礎も基礎、ほんの入口の訓練方法なら10分もあれば教える事が出来ると言って教え始めた。
親父のレクチャーが一通り終わった頃に、女子寮の方からざわめきが聞こえてきた。
そちらに目を向けると、人垣が割れる様に空白が出来る。
その中央を白銀の髪に色白の女生徒が堂々と歩いてくる。
優の威風堂々たる姿に息を呑む。
その優の前に、不良共が道を塞いだ。
俺は章と顔を見合わせ飛び出そうとするが、親父に肩を掴まれて止められた。
「よく見ろ」
そう言われて優を見ると、絡んでいた馬鹿は上級生に腕をねじり上げられていた。
そして、不良仲間の方に突き飛ばれた直後、背後に回った教育官達にアイアンクローを噛まされて宙吊りにされ、そのまま何処かに連行されて行った。
呆然と見ている間に、上級生にエスコートされて体育館の中に消えて行った。
「お前達が気付いた時には、既に配置が完了していた。
飛び出せば、かえって邪魔になっただろう。
もっと周りを良く見る事だ」
親父の言葉が耳に痛い。
久々に優の姿が見た事に喜んで、馬鹿が絡んだ事で怒り、周りが見えなくなっていた。
自分の弱さが憎い。
「何を後悔しているか知らんが焦るな。
お前達はまだ若い。
これから強くなればいい」
本当に耳が痛い。
その後、体育館に入り、自分のクラスと座る場所を確認してから優を探すと、一人ポツンと椅子に座る優が居た。
近づこうとすると、上級生に止められた。
何を言っても、「各自、指定された席に着くように」と返されるしまつ。
ここでも接触が出来なかった。
仕方なく、それぞれのクラスの自分の席に座る。
俺がC組で、章がE組、優がA組と見事にバラバラだ。
式典終了後、各教室での最初のホームルーム、内容はありきたりだ。
自己紹介の時、自分の
俺の番になった
「俺は、山田 零士だ。
他人の
そんな事は、他所でやってくれ」
そう言って、椅子に座った。
教室中がざわついている。
中には、
「おい、お前ら静かにしろ」
と担任の教育官の怒声が響き、教室が静かになる。
「山田。お前は自分が強いから、他人はどうでも良いのか?」
「いいえ、俺は弱い。
他人に構っている程、余裕が無い。
だから、どんぐりの背比べに参加する気にもなりません」
かなり悪い顔をして
「随分と謙虚だな」
「そうでもありませんよ。
今朝の1件、離れた位置に居たのに上級生と教育官達の動きに全く気づけませんでしたし、自分が動く前にすべてが終わっていました。
それを見て、自分が強いなんて自惚れる事なんて出来ません。
まずは、あのレベルまで登るという目標があるのに、自分より下を見つけて安心しようなんて思いませんよ」
軽くおどけてみた。
すると、教育官に爆笑された。
凄みのある笑顔で
「気に入ったぞ。その意気で登ってこい。
お前ら、こいつの足を引っ張るマネをするなよ。
そんなマネをしようものなら、俺が直々に根性を叩き直してやる。
これで、一通り自己紹介が終了したな。
今日と明日の予定を話して解散にする」
そう言って、今日と明日の予定を話し始めた。
どうやら、俺はこの教育官に気に入られたらしい。
解散して、体育館に居る家族の元に行く。
うちの家族と一緒に章と章の家族が居た。
どうやら、あちら方が早く終わった様だ。
ここに来る時も注意していたが、優を見つける事は出来なかった。
しばらく、体育館で優を探してみようとすると、「さっさと住民票の移動を済ますぞ」という親父の一言で、肩を掴まれ移動するハメになった。
俺と章は、優がここに居るから探したいと言うが、章の妹の
仕方なく、この場は諦めた。
全てが終わり、家族は帰っていった。
俺は、章と共に寮に戻ると寮監室を訪れた。
寮監に、
すると、寮の裏手、寮監室から見えるが、訓練生の部屋や廊下からは見えない場所にある広場に案内された。
「ここには、結界が張られているから好きなだけ訓練したら良い。
だたし、門限は守るように」
そう言うと、寮監は帰っていった。
俺と章は、途中休憩を入れながら、17時まで自主訓練を行った。
後は、風呂に入ってから夕飯を食べ、部屋に戻ってからは、明日の準備としてから瞑想をして時間をすごした。
俺は22時過ぎには寝たが、同居人は俺が起きている時に戻ってくる事は無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます