山田 零士 訓練校への入校(1)
訓練校、貴陽学園への入学・入寮の為の荷造りが終わった。
後は、明日移動するだけとなった。
さて、章がどうだろうな。
章の事だ、契約書の事を忘れていそうだ。
この書類は、入校入寮に関する誓約書に、訓練生に支払われる奨励金の支払い契約書だ。
そして、明日の入寮の際に提出する物だ。
問題無いと思うが念の為、章に連絡すると案の定忘れていやがった。
章の奴は礼を言うと電話切った。
今頃、書類を探して居るだろう。
その後は、親と一緒に書類を確認して署名捺印をするだろうな。
普段ならこういう重要な事を注意するのは優だったな。
思い出すと嬉しく思う思いと、その優との繋がりが切れた現状に対する苦い思いが同時に湧いてくる。
優との繋がりが切れたのは、俺と章が
俺達にとって優は、精神の支柱だったんだ。
だから、その優が苦しんでいる時にどうしたら良いか分からなくなった。
結局、自分から動く事が出来ず、後手後手に回りすぎた。
そして気付いたら、繋がりが希薄になっていた。
本人は切ったつもりは無いだろうが、俺達の間に有った繋がりは希薄になっていた。
そんな状態になったからこそ分かった事だが、本当ならあいつの側で以前と変わらず接するべきだったんだ。
今更後悔しても仕方ないが、弱い自分が嫌になる。
次の日、親父の車で家族と一緒に訓練校を目指す。
道中、弟の
そして、俺は優との仲が上手くいっていないのは、お互いにちょっとしたすれ違いによるもだと思っている。
だから、ちょっとしたきっかけがあれば、仲直り出来るはずだ。
この半年、俺達は優から接触する事に期待して動かなかった事が失敗の原因だと思っている。
だから、今度は俺達が機会を作って接触するんだ。
それが、俺と章の訓練校での目標の一つだ。
そして、今度は優を守れる位、心身共に強くなるのも目標の一つだ。
そういえば、家族に優の現状を伝えてなかった事を思い出した。
まあ、言った所で信じ無いだろうな。
訓練校に着いた。
訓練校の駐車場に車を止め、荷物を持って寮に向かう。
寮の入り口で入校入寮手続きを行い、家族と別れて自分に宛てがわれた部屋に荷物を持って移動する。
家族は、麓の街で一泊し、明日の入学式に参列するそうだ。
寮の部屋には、既に相部屋の住人が居た。
同室の奴は、
なんでも兄貴が戦術課の戦闘隊員をしているそうだ(本人談)。
まあ、こいつの事はどうでもいい。
正直、色々と胡散臭い。
あと、一々マウントを取ろうとしてウザい。
俺がこいつに一切取り合わないと分かると、さっさと部屋を出ていった。
他の新入生を手下にすべく、物色に行ったんだろう。
全く、こんな小物が同室だと思うと嫌になる。
荷物を片付け章にメッセージを送ると、章も入寮手続きを終わらせて部屋で荷物を片付けているそうだ。
20分後1階の談話室で会う算段を着けたので、入寮手続きの際に貰った訓練校と男子寮の構内図を確認する。
談話室で章と合流し、寮を出て雑談をしながら構内を一通り回った。
同じ様に、構内図を見ながら歩いている訓練生が男女共に一定数いた。
下見という目的もあるが、運が良ければ優に会えるのではという淡い期待も有ったが、残念ながら優に会える事は無かった。
夕方、新入生が1階の談話室に集められた。
まあ、内容は寮の規律等の説明と共同浴場の清掃当番の説明だった。
その後、上級生に連れられて厚生棟に移動して設備の説明を受け、そのまま夕食を食べる。
ただ、同時に女子寮の新入生も同じ説明を受けていたみたいで、食堂で一緒になったが男女で別れて食事をする事になった。
一部の馬鹿が、女生徒の方に行こうとして上級生に怒られていた。
そして、女生徒の一団の中に優の姿は無かった。
食事中に女性陣から聞こえてきた会話の中に気になる事が有った。
「例の色白の子は、参加していないわね」
「あの入寮と同時に特別個室に入った子ね」
「そうそう、その子。
なんでも新入生の義務はすべて免除らしいよ。」
「えー、なに、それ。依怙贔屓。ズルい」
「抗議する?それとも〆る?」
「止めた方が良いらしい。
既に上級生が抗議して、教育官と寮監から怒られたらしい。
それも、次やったら強制収監所行きだと脅されたらしい」
「あと、何人かは候補生を取り消されたらしい」
「なにそれ、コワ!」
「じゃあ、触らぬ神に祟り無しって事で無視するのが一番ね」
「そうね、それでいきましょう」
多分、優の事を言っていると思うが、中々物騒な事を言っている。
ああ言う事言っている連中とは、絶対関わらない様に顔を覚えておこう。
後で、章にもしっかりと注意しておこう。
こいつ、キレかけているからな。
章に「さっさと飯食ってここを出るぞ」と言うと、「おう」とかなりドスの利いた声が返ってきた。
俺達が飯を食い終わる頃に男子寮長が
「新入生一同注目」
と大声を出し耳目を集めると女子寮長が
「これからフリータイムにします。
折角の同級生なので、相互に親睦を深めて下さい」
「ただし、あくまで良識の範囲内でだぞ。
セクハラ等が発覚すれば、強制収監所送りになるから気をつけろよ」
男子寮長の言葉で笑いを誘っていた。
「遅くとも7時までに寮に戻るように、それとお風呂に入るならその時間も考慮して行動にする様に」
女子寮長の言葉で、男女それぞれ動き始めた。
俺と章は立ち上がると、食器を返却してそのまま食堂を後にした。
俺達にとって、あの場に優が居ない時点で価値が無かったし、あの糞女共を見ると怒りを抑える事が出来そうに無かったからだ。
ここで、俺達が暴走すると優に迷惑が掛かる。
だから、俺達は何とか暴走を抑える事が出来た。
優と離れ離れになっても、俺達を制御しているのが優の存在だ。
失って初めてわかった。
本当に俺達の中で、大きな存在だったんだ。
章の口から「優の奴、今頃何をやってるんだろうな」と漏れた。
「さあ、わからん」
「メッセージでも送ってみるか?」
「いや、止めておこう。送っても見てくれないだろう」
「そうだな」
既に3ヶ月、メッセージを送っても既読が着く事は無かった。
「取り敢えず、風呂に入って頭を冷やそう」
「そうするか」
この日は、早々に風呂に入り、同居人が帰ってくる前に寝た。
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