山田 零士 入学後の初週末(1)

 訓練校に入学式の翌日、俺と章は朝6時30分に起床し、7時には食堂で朝食を取り、8時過ぎまで自主訓練を行ってから教室に向かう。

 教室では、既にいくつかの集団グループが成立しているが、俺は孤立している。

 まあ、その事自体は、どうでもいい事だし、周りが足を引っ張るマネをしないのなら、1人で居る方がありがたい。


 この日の行事は、構内見学・身体検査・能力検査・教科書配布だけだ。

 今日の行事も、特に問題無く終わった。

 能力検査結果も、予想した範囲だった。

 ただ予想外だったのが、優の能力アビリティの一部が判明した事だった。

 日本で6人目の上級能力鑑定師。


 これ程のレア能力アビリティを有しているなら、間違いなく入庁済だろうし、それなりに高位の階級を既に有していると思う。


 他の能力アビリティは不明だが、俺達も其れ相応に能力アビリティを鍛え、強くならないと、優と対等に付き合えない。

 優に抱いた劣等感を克服しない事には、俺達は自分自身を許せない。

 それが、俺達の決意だった。


 その為の目標が、候補生になる事だ。

 候補生になるためにも、勉強と能力アビリティ訓練を頑張らないといけない。

 今日は、この後17時まで能力アビリティの訓練を行い、夕食と入浴後、明日行われる全国統一高校生テストの対策勉強を行う。

 当然、章も強制参加だ。


 全国統一高校生テストの結果は、まあそこそこ出来たと思う。

 章がどれ程出来たかは不明だ。


 その後に行われた能力訓練は、魔力を最大出力で維持する事だった。

 普段から訓練している内容だったので、5分は維持出来る。


 この訓練は、本当に嫌らしい程難しい。

 最大出力で維持する事で、魔力総量が増える。

 魔力総量が増えれば、維持時間が減る。

 魔力制御力が増えれば、維持時間が増える。


 結局、魔力制御力を鍛えるのが一番なのだが、魔力制御力の効率的な鍛え方が、最大出力で維持する事らしい。

 ということで、効率の良い訓練方法らしい。


 今の目標は、6月までに30分の維持だ。



 今日の能力訓練が終わった。

 周りを見ると、成れない長時間出力の為に疲弊している。

 この状況で、平然としているのは数人だけだった。

 章もかなり疲れている様だったが、周りに比べると元気な方に入るだろう。



 放課後、いつも通り夕食と入浴を済ませ後、自主訓練を1時間ほど熟す。

 普段ならこの後、宿題と自習を行うのだが、談話室に1年生全員招集が掛けられていたので、談話室に移動する。

 集められた内容は、明日の土曜日に上級生が引率して駅街を案内するそうだ。

 その参加者の募集だった。

 ただ、1年生の参加総数が100名を超えている為、1台のバスに乗り切れないうえ、公共バスを使う事から朝7時から4回に分けて移動する事になった。

 この辺の交通事情は、あまり良くない。

 土日は、1時間に1本しかないから仕方がない。


 それで俺と章は、一番早い7時台のバスを選んだ。

 俺が行きたい場所は、比較的朝早い方が都合が良いからだ。


 ちなみに、人気は7時台が一番低く、9時台のバスが一番人気だ。

 9時台のバスなら、駅街に到着時間が10時前後で、ショッピングモールのお店も開いている時間だからだ。

 なので、じゃんけん大会が発生している。


 そして最後に、帰りに走って帰る者を募集した。

「身体強化を使えば、1時間掛からずで走り切る事が可能だ。

 《《優秀な》なお前達なら、当然参加するよな」

 と、軽く先輩にあおられた馬鹿が当然参加するといきり立ち、参加に迷っている者をあおる。

 馬鹿に煽られた者も参加すると言い始めると、参加しない者達をあおりだした。


 確かに、身体強化(筋力 or 脚力)ランクF1程度でも、男性エリートマラソン選手並の速度で走る事が出来るから、身体強化を維持し続ける事が出来れば1時間位で走り切る事が出来るだろう。


 しかし、今日の能力訓練を思い返せば分かるはずだ。

 殆どの訓練生が、最大出力で10秒と維持出来ないのに、出力を絞った状態で1時間も維持できるはずも無いという事実に。


 だが最終的に、身体強化を持っている者は全員参加になった。


 ちなみに俺と章も参加する。

 俺達の場合、馬鹿共にあおられたからではなく、訓練に丁度よい距離だからだ。

 駅前から訓練校まで、バス路なら約26kmの山道だ。

 俺は、親父から能力訓練を受け、その中の訓練で長距離を走っている。

 俺の場合、20kmを約2時間で走る事が出来る。

 章の場合、中学の部活で走り回っていたから、長距離は苦手ではない。

 実際、ハーフマラソン大会で2時間10分で完走している。


 なので、走るだけなら問題は無い。

 しかし、今回は荷物を背負って走るので、2時間30分を目標に走ろう。


 明日の告知が終わり解散となった。

 章も何食わない顔で部屋に帰ろうとしたので、肩を掴み呼び止める。

「章、何処にいくんだ」


「何処に行くって、部屋に帰るんだよ」


「違うだろ。これから勉強の時間だ」


 章は、心底驚いだ顔をして

「うぇ、今から?」


「当たり前だ。

 まだ、今日の分の勉強が終わっていない。

 それに明日駅街まで行くから、帰ってきてから勉強なんて出来ない。

 だからその分もやるぞ」


「うぉ、マジか?」


「マジだ。行くぞ」

 俺は、章を引き摺って自学習室に連れて行く。

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