田中 美智子 神城訓練2日目

 宿泊棟を掃除した翌日の月曜日の朝

 私は眠い目を擦りながら時刻を確認する。

 6時15分


 いけない寝坊した。

 寝ている同室の子を起こさない様に気を使いながら急いで支度をする。


 身支度をして寮の玄関に行くと既に皆が居た。

 どうやら私が最後だったらしいが、まだ集合時間前だ。


 私達4人は眠気が抜けないまま、朝食を食べる為に厚生棟に向かう。

 他愛ない雑談しながら厚生棟の前に行くと、宿泊棟から高月さんと平田さんが歩いてくるのが見えた。

 手を降って挨拶すると、向こうも返してくれた。


 そのまま、合流して一緒に朝ごはんを食べることになった。

 色々とためになる話を聞くことが出来た。

 昨日の夕飯時にも色々と聞いたが、将来その道に進む進まないに関わらず、現役の機動戦略隊隊員の話を聞く事が出来るのは貴重な体験だ。


 食後、厚生棟の前で二人と別れ、神城さんが待つ魔力制御訓練棟に向かう。

 魔力制御訓練棟の前で神城さんが待っていたが、私達を迎え入れる前に

「高月さんと平田さん、そこで何をしているのですか?」

 と声を掛けると、物陰から高月さんと平田さんが姿を現した。


 それを見てびっくりした。

 だって、気配とか全然感じなかったもの。


 二人は、私達が校舎と違う方向に移動したので、コッソリ付いてきたそうだ。


 神城さんはため息をついてから、私達に基礎訓練を施している事を説明したら、高月さんが見学したいと言うと、神城さんはアッサリと許可をだした。

 私達には、訓練や訓練内容を秘密にする様に言っていたのにな。


 地下の訓練室に移動したら高月さんと平田さんは、壁際に椅子を置いて見学。

 私達は神城さんの指示で、昨日の復習としてまず魔力塊マナ・コアの位置を提示した。

 その後は、魔力全開の魔力纏身まりょくてんしんを始める。

 神城さんは、私達の状態を見ながら一人一人に助言を与えてくれる。

 私の場合、よく力みすぎとか魔力出力が落ちていると言われる。

 どうしても、出力を上げ様とすると手や足に力がはいってしまう。

 魔力を留め様とすると、知らず知らずの内に出力が落ちてしまう。

 それの繰り返しだが、維持できる時間は、昨日が30秒が最長だったのに、今日は最初に1回目から30秒維持出来た。


 最初の5分間が終わり休憩時に、高月さんが神城さんに私達の訓練が高度過ぎないかと聞いていた。


 神城さんは

「基礎だから早く習得したほうが良い」

 というし

「訓練校と同じ訓練をしても意味は無い」

 と訓練校の訓練を真っ向から否定してる。

 ひょっとして、教育課と教導隊って仲が悪いのかな?


 そんな事を考えていたら、高月さんも訓練に参加する事になった。

 私は、高月さんから最も離れていたけど、高月さんの放出する魔力が強すぎて辛い。

 真横の都竹さんは、かなり青い顔をしている。

 そのせいで、魔力制御が乱れて指摘が入ったが上手く制御出来ない。

 そんな私を見かねたのか、神城さんは背中に手を当て私の魔力に干渉してきた。

 背筋に電流が走った様な感覚が走り、「ヒャン」という声と共に背筋が伸びる。

 そして、自分でも判る位乱れた魔力の流れが瞬時に整調され、安定した状態になった。


 驚いている私に

「今の感覚を覚えてください。

 これが魔力が調律した状態です。

 常にこれが出来る様に頑張ってください」

 そう言うと隣に立つ鳥栖さんの元に行き、私と同じ事をしている。

 鳥栖さんも、小さな悲鳴を上げて背筋が伸びた。


 魔力調律を行われてから、魔力の制御が格段にやりやすくなったとはいえ、継続時間が急激に延びるわけでは無かった。


 結局、訓練終了時間までに一度も自力で調律状態になる事は出来なかったが、昨日の倍、1分も維持出来た。


 魔力制御訓練棟を出て皆と一緒に教室に向かう。

 今日から通常授業。


 正直、ダルい。

 でも、高月さんのアドバイスを貰ったから頑張らないといけない。

 対魔庁に入庁して戦術課に行きたいなら、ある程度の学力が無いと転任てんにん出来ないと教えてもらったからだ。


 正直、普通に入庁して現場で経験を積めば、誰でも移籍のチャンスがあると思っていたら、実は選抜試験があり、その中に一般教養と学力の試験があるなんて知らなかった。

 だから、訓練校時代にあまり勉強をしていなかった隊員は、この学科試験で落とされるそうだ。

 それを聞いた以上、通常科目も頑張らないといけない。


 授業は、正直眠いけど頑張って受ける。

 周りを見ると居眠りをしている人も結構居るが、真面目に受けている人も結構居る。

 居眠りをしている人は、戦闘系能力アビリティを有している人が多いかな。


 そんな人達が元気になる授業の時間が、武道を始めたとした実技の時間だ。

 今日の武道の授業は柔道。

 更衣室で、柔道着に着替えて武道場に行く。

 宮園さん達、経験者や有段者が私達をみてニヤニヤしている。

 確かに私に武道の経験は無いので気にしない。

 それよりも気になったのは、神城さんが白帯だった事だ。


 神城さんに

「なんで白帯?」

 と聞くと

「柔道、剣道を習った事は無いので白帯です」

 と回答が返ってきた。


 個別の経験が無いから初心者という事には一応理解出来るけど、現役の機動戦略隊隊員をバッタバッタ倒しまくる人が、初心者というのは詐欺だと思った。


 授業では、女子17名中、初心者が7名、経験者が10名、その内有段者が5名だった。

 私は、神城さんを含めた初心者組で受けた。

 私達は、基本動作も一人受け身も上手く行かずバタバタした感じなのに、神城さんはスムーズに行っている。

 柔道未経験でも武道の経験がある分、理解と習得が早いらしい。


 経験者組は、基礎訓練の後に乱取り稽古を行っている。

 気合の入った声が聞こえて来る。

 そのため、何人かはついそちらを見てしまう。

 その度に、乱取り組がドヤ顔をしているのは想像に難くない。

 そんな感じで、武道の授業は終わった。


 あと彼(女)らは、能力アビリティの基礎教養もしっかりと起きて聞いているようだった。

 とはいえ、今日の内容は魔力制御の基礎だったので、既に神城さんや高月さんから聞いていた内容が薄くなった感じだった。


 能力訓練の時間、訓練着に着替え運動場グランドに集合して一斉に魔力を高める訓練を始める。

 周りには、目を瞑って魔力を高め様としたり、気合を入れる様な唸り声やポーズを決めて高めていたりと様々だ。

 私達4人は、神城さんの指示を守って魔力纏身まりょくてんしんを始める。


 始めて30秒もしない内に教育官の人に肩を叩かれ

「お前は次のレベルに行け」

 と言われ、教育官が示した場所に移動する。


 そこ居た教育官から

「何人か集まるまで待機」

 と言われたので魔力纏身まりょくてんしんの訓練をして待っていた。


 私と同じ様に土田さん達3人もこちらにやって来て、待っている間に魔力纏身まりょくてんしんの訓練をしていた。

 集まってきた人が10人位になった時点で、別の教育官がやって来て

「君達4人は、こっちに来てくれ」

 と言われる。


 教育官に付いて移動すると

「君達は、ここで魔力を最大出力で可能な限り維持する様に」

 と言うと戻って行った。

 言われた通り、私達4人はここで魔力纏身まりょくてんしんの訓練を続ける。


 私達がこの場所に移動して5分を過ぎる頃に、私達をここに連れてきた教育官が2人の訓練生を連れて来た、眼光が鋭い男性訓練生と身長が180cm位の大柄で肌が浅黒い筋肉質な女性訓練生だ。

 その教育官は、彼らにも

「ここで魔力を最大出で可能な限り維持する様に」

 と言うと戻って行った。


 後から来た2人とは、お互いに会釈した後、黙って訓練を始めた。


 訓練時間が終盤に入り周囲を見ると、一番最初に集合した場所と私達の間に2つの小集団がある。

 それぞれ、15名と5名の小集団だ。

 どうやら、魔力塊マナ・コアとその回転方向を知覚・制御出来た人間がここに集められている様だ。

 そして、宮園さん達や飯田君達クラスメイトが、2つの小集団に居ない事が分かっただけで十分だった。


 後は、時間いっぱい迄魔力纏身まりょくてんしんの訓練に勤しんだ。

 その結果、維持時間は朝の2倍の2分間維持できた。

 土田さん、鳥栖さんは2分間、都竹さんは3分も維持出来た。


 あの二人?

 男性訓練生の方は5分維持してたし、女性訓練生の方は4分維持していた。


 訓練時間が終わると、後から来た2人とは特に話す事なく別れ、着替えてから教室に戻った。

 教室に戻ると、宮園さん達と飯島君達が恨めしそうに私達を睨んでいる。


 神城さんが教室に戻ってくると、教室の雰囲気がおかしい事に気付いた様で話し掛けてこようとしたが、すぐに霧崎教育官が教室に来たので会話できなかった。


 下校となったので、私達は食堂に夕食を食べに行く。

 厚生棟の前には、平田さんと対魔庁の隊員2名が待っていた。

 隊員の二人は、今日の担当で飯島さんと宮田さんというらしい。


 平田さん達と一緒に夕食を食べる事になった。

 その際に、今日の訓練中の出来事とその後の教室の雰囲気を話すと、飯島さんと宮田さんは、「訓練校あるあるネタ」だと笑っていた。

 その後は、二人から訓練校あるあるネタを色々と教えてもらった。

 そんな中、平田さんは「そういえばそんな事もあったなー」と呟いていた。


 食後、寮に戻る際に神城さんに

「一緒にお風呂に入ろう」

 とお誘いするが断られた。


 やはり、共同浴場の居心地は良くなかったらしい。


 オフロに入った後、私達4人は寮監に教えて貰った自主訓練用の広場に集まって、30分程魔力纏身まりょくてんしんの練習をしてからそれぞれの部屋に戻った。


 部屋に戻って宿題を片付けていると、部屋に戻ってきた同室の石守いしもりさんに

「先に進んでズルい」

 と言われたので

「ちょっと努力しただけだよ。

 今さっきだって30分程練習してきたよ。

 貴方は授業以外で練習したの?」

 と問い返したら

「やっていない」

 と不貞腐れた様に言われた。


 なので

「土日の自主練習で差が出たんでしょ。

 だったら、石守さんも頑張って授業以外でも練習すればいいじゃん」

 と言うと、苦虫を噛み潰した様な顔をして、部屋から出て行った。


 宿題を終わらせると、もう21時を過ぎていた。

 寝る準備と明日の準備が終わると22時になっていた。

 部屋を出た石守さんはまだ戻ってきていない。

 普段なら23時位に寝るのだが、今日はもう疲れたからそのまま布団に潜り込んで寝た。

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