社会科教師

「世界は、第二次世界大戦の真っ最中であった。

 多くの国が疲弊した中を襲った大異変、全ての地上…いや、地球そのものが振動した大地震の後、何処からもなく現れた魔物によって人類は滅亡の危機に陥った。


 多くの国が滅び、人類の生息圏を急速に狭めていった。

 この事態に、戦争当事国は即時休戦を締結、対魔物戦線で同盟を組む事になった。

 共同戦線のお陰で対魔物戦線は維持されたが、人類の生息圏を狭める速度を遅くするのが精一杯だった。

 その様な絶望的な状況下の中、異能に目覚める少年少女が表れた。

 彼らの活躍により、人類は一定の生息圏を再び確立する事が出来るようになった。」


 俺は、教室を見渡して一人の生徒に

「井口、この異能に目覚めた少年少女達は、どんな人間だったか?」

 と質問を投げる。


「戦災孤児や貧困層の子供達です。」


「正解だ。

 次は吉田。

 各国の政府は、この子供達をどう扱った?」


「大きく分けて、隷属させる国と重用する国です。」


「正解だ。

 では、日本はどちらの種類だ。

 中島に答えてもらおう。」


「後者の重用する国です。」


「正解だ。」


 俺は、この中学で社会を教えている山本だ。

 なに?

 知らない?

 当然だな。

 本編には一度名前が出ているだけだからな。


 俺は、今でこそマッチョで色々と変な渾名が着けられているが、今もアーノルド・シュワルツェネッガー氏が演じたターミネーターのT-800の様な肉体を目指して日々鍛錬を積んでいる。

 そこ、社会科の教師の発想じゃないとか言わない。

 正直、選択科目を選ぶ時、社会科(近代史)と体育科を悩んだのは事実だ。


 俺が社会科を選んだのは、小さい頃から歴史が好きだったからだ。

 俺は、今では言っても信じて貰えないんだが、中学に入る位まで体が弱くよく入退院を繰り返した。

 だから、入院中に歴史上に偉人の本ばかり読んでいたからか、歴史に興味を持つようになったんだな。

 入退院を繰り返した為か、体の線が細く、声変わりもあまりしなかった為、よく女と間違われたもんだ。

 今でさえ、男としては声は高い方だし、筋肉がなければ女性みたいな声になっていただろう。

 実際、ラグビーを始めるまで女声だったしな。

 高校で、偶々ラグビー部に誘われてラグビーを始めたのが、マッチョへの始まりだったな。

 何故俺がラグビー部に誘われたかと言うと、人員不足で廃部寸前だったからだ。

 当事のラグビー部は、部活存続のために部員が必要だったという実情があったが、お陰でラグビーの楽しさを知る事が出来た。

 まあ、そのラグビー部は、俺が3年生の時に廃部になってしまったんだがな。


 教育大に進学の際に、社会科の方に進む事を決め、部活でラグビーをしていたんだが、大学一年生の時に話題になっていた「ターミネーター」を見て衝撃を受けた。

 あのT-800の様な肉体になりたいと思い、ボディービルにも挑戦する様になった。

 いやー、ボディービルの世界も奥が深い。

 気がついたらドップリとハマっていたよ。


 そして気がついたら、すっかりマッチョマンになっていた。

 ラグビーでも当たり負けし難くなったし、意外とモテた。

 その時の彼女が今の妻なんだがな。


 就職して、ラグビーを続ける事が出来なくなったが、ボディービルは続けているので、筋肉は育てているのだが一つ困った事が起きた。


 上腕部(二頭筋、三頭筋)と大腿部の筋肉がなかなか太らないのだ。

 その為、一般人より太いとは言え、他の部位と比較すると細く見えてしまうという悩みだ。

 筋肉バランスが悪いから、太らせたいのだが上手くいかないのだ。


 生徒やちびっこからは、フラ○キー将軍とか呼ばれているのも知っている。

 ちなみに、髪は短髪でリーゼントもドリルでも無い。


 そんな中、新たな渾名が出回り始めた。

 ゴールドラ○タンだ。

 大昔のアニメで、俺も子供の頃に見た記憶がある。

 その事を妻に話すと、映像を検索して比較した上で、「金色に塗ればそっくりね。特に普段使っているサングラスが良い感じにハマっているよ」と返されてしまった。

 俺の愛用のサングラスは、ターミネーターでも使用されていたガーゴイルズサングラスだが、主人公ロボの目にバッチリハマるらしい。


 なんやかんやで3月の卒業式になった。

 俺の持ち受けクラスで最後のホームルームを行った後、生徒達が「仰げば尊し」を合唱してくれたのは、正直に嬉しいし、つい涙腺がゆるくなってしまったが、その後、ゴールドラ○タンのオープニングテーマを合唱したのは目が点になったぞ。

 しかも、全員ノリノリで歌ってやがる。

 歌い終わって、俺が正気に戻ると蜘蛛の子を散らした様に逃げやがった。


 全く、困った生徒達だ。

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