三島 裕子 その思いは、
第42話 文化祭と保護先の頃のお話です。
私は、神埼 綜一郎が逮捕されたと聞いて、安堵とほんの少しの後悔を感じた。
私と神埼は、保育園の頃からの幼馴染だ。
お互いに「そうちゃん」「ゆうちゃん」と呼び合う程、仲が良く、幼い子供にありがちな、将来結婚する約束も交わした事もあった。
私達が仲が良くなったのは、保育園でいじめられていた私をそうちゃんが助けてくれた事からだった。
あの頃のそうちゃんは、優しく、勇敢な子供だった。
私は、そんなそうちゃんの後を追っかける様な子供だった。
私達の関係が壊れ始めたのは、小学校1年の7月だった。
そうちゃんが能力に発露した事だった。
発露直後から、魔力ランクDという事でテレビとかもいっぱい取材に訪れた。
そうちゃんも、「この力で、ゆうちゃんを守れる」と言っていたのが夏休みの前だった。
夏休みの間、そうちゃんはおじいさんの所に行っていて一度も会えなかった。
夏休み明けで会ったそうちゃんは、別人に見えた。
時折苦しそうにしながらも、私を気遣ってくれるのは変わりなかったが、会話の中にお祖父様のお話の割合がどんどん増え、徐々に乱暴な言動が増えていった。
小学3年生になると、私にも乱暴な言動を取るようになり、私にいたずらをした同級生を焼き殺そうとしたり、仲の良い友達を脅して私を孤立させて、独占しようとしたりとおかしな言動と行動が増えていった。
小学4年生になると、お祖父様の権力まで使って私を独占しようと画策しはじめた。
私は、自分を独占、拘束しようとするそうちゃんを受け入れる事ができず、真っ向からぶつかった。
私は、そうちゃんに「昔の様に優しいそうちゃんに戻って欲しい」と伝えるが、そうちゃんは、「裕子は、俺に従って生きれば良いんだ。俺は全てを手に入れる。」とまるで話が噛み合わなかった。
だから、私は、そうちゃんに、「今のそうちゃんなんて大嫌い。もう2度と私と関わらないで」と怒鳴りつけて逃げた。
その時のそうちゃんの悲しそうな顔は、忘れられない。
この時、別の選択肢を選ぶ事が出来れば、違う未来になっていたかもしれない。
それでも、神崎は事がある度に私に迫ってきだが、無視し続けた。
中学生に上がる頃には、私にとって神崎はただただ憎い人間になっていた。
そして、中学1年の時に、神埼に強く迫られて逃げ場がなくなっていた時に助けてくれたのが、神城君だった。
激怒した神埼が、神城君を殺そうとしたが、彼の幼馴染の二人が加勢した事で難を逃れた。
私は、神城君に「私に関わると、神埼に狙われるから関わらないで」と告げると、「三島さんが困っていたから、つい助けただけだよ。たぶん、同じ様に困っていたら助けてしまうと思う。」返された。
私は、思わず「馬鹿じゃない」と怒ると、「自分でもそう思う」返されて毒気が抜かれた。
その後も、私が神埼に纏わり付かれて困っていると、神城君と見石君と山田君が助けてくれる様になった。
何故か、神埼も神城君を殺そうとしないし、権力で排除しようとしていなかった。
友達経由で聞いた話だと、神崎が「お祖父様の命がなければ」と呟いていたのを聞いたそうだ。
理由は不明だが、今のところ、神城君が命まで狙わる事が無い様だ。
気がついたら、神城君を目で追う様になっていた。
その様子を友達に指摘されて、自覚できた。
私は、神城君の事が好きになっていた。
友達からは、告白すればと後押しをされるが、神埼が居るから思いを告げる事が出来ない。
思いを告げれば、あの馬鹿が何を仕出かすか分からないからだ。
もし告げるとすれば、同じ高校に通えた時だと思っていた。
3年生の10月に入って、神城君が入院して学校を休んだ。
神埼の馬鹿が、神城君に危害を加えたのではという噂がたったが、私は違うと感じた。
そもそも、あの馬鹿が危害を加えたら、入院では無く、殺されて転校という扱いになっているはずだ。
だから、純粋に神城君の事を心配していた。
戻ってきた神城君は、驚いた事に女の子になって戻ってきた。
信じられないという思いと、嘘であって欲しいと思いが占めた。
しかし、彼女の仕草が神城君と全く同じなのだ。
そして、クラスで孤立する彼女を見ていて思ったんだ。
今度は私が、神城君を助ける番だと。
私の思いは伝えられないけど、せめて恩は返したい。
だから、せめて学校に居る間は、一緒にいよう。
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