見石 章の苦悩

 第74話「年末年始の神城家(3)」までの章の話です。



 幼馴染の優が、女性化して、再会した日から数日がたった。

 未だに目の前の優が、男の優と同一人物だと認識できないでいる。


 幼馴染の俺と零士が、普段通りに接しないといけないと分かっている。

 でも、あの姿を見ると躊躇ちゅうちょしてしまう。


 学校という周囲の目があるから、よけいに躊躇しているんだ。

 幼馴染の零士も、優との接し方に戸惑っていた。

 だから、二人で相談した結果、俺達3人だけで会えば、状況が改善するかもしれないと思い、優の家を訪ねる事にした。


 休みの日に零士と共に優の家を訪ねたが、優は保護を受けて家に居なかった。


 それから、周囲に注目される教室で、優に声を掛けられるが、上手く返答できない。

 優も俺達と距離を縮めようと努力してくれている。


 優に謝りに行った時の方が、もっと自然に話せた。

 あの時は、あの時でアップアップしていたから、周りを気にする余裕がなかったからかな。


 それでも、優の様子を見ていると、三島さんが上手く仲を取り持ってくれるから、孤立していない。

 でも、なんかモヤモヤする。

 あれは、幼馴染の優だと理解している反面、普通に可愛い女の子と認識してしまう。

 普通に声を掛けたいのに、掛けられない。


 あ、左頬が引きつった。

 今の質問に答えに困ったな。


 左手の指先を小刻みに動かしている。

 何か、不安があったのか。


 ちょっとした仕草から、優の心理状態が分かる。

 やっぱり、あれは優なんだ。



 文化祭が終わって、11月に入る頃に、優の感じが変わっている事に気づいた。

 以前の様に、挨拶や連絡等の会話は普通にしてくれるけど、距離を縮めようする感じが無くなっていた。

 男の頃の癖も、気づいたら失くなっていた。

 行動や仕草も、女性のモノになっていた。


 一気に距離が遠くなった。


 その事は、零士も感じているみたいで、二人して焦った。

 二人で何度も相談するが、いい案が出ることも無く、12月に入った。


 12月に入ると舞ちゃんから、平日の夜に自宅に居るという。

 しかも、舞ちゃんから見ても優は大きく変わったそうだ。

 舞ちゃんは、「お兄ちゃんの頃の感じが全く無い。まるで最初からお姉ちゃんの様に感じてしまう。」と言う。

 しかも、優は自分の部屋を色々と片付けて、男の頃の物を捨てているそうだ。


 やはり、3人で会って話をしたい。

 舞ちゃんも巻き込んで、対策を考えた結果、舞ちゃんから「終業式の日がちょうどクリスマス・イブだから、サプライズでクリスマスパーティーをすれば良いんじゃない。」という事で準備をするが、まさか終業式が終了して直ぐに訓練所に行ってしまうとは思っても見なかった。


 正直、何をして良いのか分からない。

 零士と舞ちゃんにも相談するが、打開案は出て来ない。


 そんなこんなで年末が迫って来たので、追加課題に手を付ける。

 追加課題を年内に終わらせないと、お年玉が失くなるからだ。

 例年のごとく、零士もうちに来て追加課題をやっている内に、ふと「いつもなら優も一緒にやっていたな」とこぼしたら、零士が「それだ!」と叫んだ。


「追加課題を一緒にやる」という名目で、優に会いに行こうとなったが、いざ優の家の前に来ると躊躇してしまった。

 二人して、家の前でインターホンを押そうとするが躊躇し、しばらくウロウロしてからインターホンを押そうとするが躊躇するを数回繰り返した。

 優が気づいて、出て来てくれるのも期待したが、出てくる気配もなかったので、この日は諦めた。


 翌日の午後、未練がましくも、零士と一緒に優の家の前で躊躇していたら、舞ちゃん達3人が家に戻ってきた。

 舞ちゃんと一緒に居た2人は、舞ちゃんの従姉妹だった。

 舞ちゃんは、俺達を見て家に押し込んでくれた。


 優を前にすると、俺と零士は前々から準備していた言葉どころか、挨拶すらもまともに出来なかった。


 俺達を見ていた優は、手荷物から何をしようとしていたのか察してくれた。

 優の部屋で、俺達二人と舞ちゃん達3人の5人で、勉強する様に準備してくれた。


 俺は、優の部屋を見て愕然となった。

 優の部屋は、俺の記憶にある物に溢れた部屋から殺風景な部屋に変わっていた。

 舞ちゃんから、男の頃の物を片付けているとは聞いていたが、寝具と机以外は、俺の記憶にある物が全く失くなっていた。


 俺は愕然としながら零士を見ると、こちらも驚きの表情をしていた。

 普段、沈着冷静で表情をあまり変えない零士が、これだけ明確に驚きの表情を出しているのは珍しい。


 一旦部屋を出た優が、ジュースを持って部屋に戻ってきた。

 そして、課題を進める様に言われて、5人揃って勉強を始めた。

 俺は頭が悪いから、零士に教えてもらいながら、進めるだけ進めた。


 おやつの時間に、休憩としてリビングに呼ばれて行ったら、ケーキが出された。

 そのケーキは、驚いた事に優のお手製だという。

 しかも、食べたら美味しかった。

 舞ちゃん達は、「女子力が高すぎる」と慰めあっていたが、俺と零士は、俺達が知っている優との違いに戸惑うだけだった。


 課題は、この日で終わらなかったので、明日もここで勉強会をする事になった。

 家に帰って、夜自分の部屋で課題の続きに飽きたので、寝る事にしてベットに潜り込むが、なかなか寝付けない。

 どうしても、優の事を考えてしまう。

 今の優は、俺達が知っている優と別人だ。

 何処で間違えたんだろう。

 間違えたのなら、直せばいいだけの筈なのに、何処を間違えたのか分からない。

 昔の様にとはいかなくても、幼馴染として普通に接する様になりたい。

 でも、どうしたらいいのだろう?

 答えが出ない。


 気がついたら、朝になっていた。

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