第16話 正編:相伝譜代の集い~・3・~

「ったく何がめでたいのよ石」


「いや、すまない・・・咄嗟でつい」


「でも何で今なんだ?蕺?」

 

 毬が蕺の心中を聴こうとし、それに薺も賛同する。


「そうよ。子供に継がせなくてもいいじゃないの」


 蕺は静かに口を開く。


「これは子供たちを護る為にもなると思うんだよ。相手が私たちに子供が居るのを知り人質にでも取られたら俺らはどうしようもないし、そうなったら子供たちはそこから自力で解決するのに限界がくる。どんな状況でも少しでも生きる力を残してあげたい。それに神力が無くなった我々が万が一の時の心情を考えるとその方がいい」


「私は・・・当主の考えには賛成です。久しぶりにまともな意見を聴きましたし・・・」


「かんざし貴方ねぇ・・・でも・・・・・はぁ分かったわよ」


「まぁそういう事なら俺も構わないぞ」


「そうですね。子供には余り背負わせたくないですが今はこれが最適だと私も思います」


「二人もいい?」


「「あ・・あぁ・・いいと思う」」


「探梅も朴もしっかりしなさいよね。二人が心配になるのは分かるけど」


「そうだな・・・」


「・・・うむ・・」


 探梅と朴の胸中は次期当主にとって力不足になる可能性とそれを次期当主がどう感じているのか、本当は居なくなった二人の方が良かったのではないか。只、肺腑に沈んでいたものは今の銀葉のや槐の顔を二人に見せ付けてやりたいという真情だった。

この時、槐と銀葉は他の次期当主の神色自若としているのを観てその貫禄と落ち着きのある風体と鋭い眼光に自分たちよりもこの席の重さを理解し、命を懸ける覚悟をしていると感じ取っていたのだ。その場数の差にそれ故の意識と決意の開きに葵とは違った自分の足らなさが実感でき更に気持ちを逸らせていた。すでに皆の顔を見るのは止め力んだ拳をずっと、ずっと話しが終わるまで見つめていた。


 分家の人たちは使者の話を信じ協力する意思を示し、神力も譲り渡すことも決めた。蕺は話したいことは無いと終わりにし、元来た道を戻り地上に出る。すると今度は当主だけで集まり話がしたいと外に出されてしまった次期当主達は普段話せない環境故自然と雑談を始めるのだった。


「春蘭姐さんですよね。お久しぶりですね」


「おぉ!葵か、久ぶりだねぇ。段々と親父さんに似てきたんじゃないかぁ」


「それはやめて下さい。あぁっ、それに茱茰兄さんも柊兄さんも久しぶりです」


 葵よりも少し背の高い茱茰に同程度の柊に挨拶をする葵。


「おう!久ぶりですね!それにあの空気じゃなかなか話しにくいですからね。話すいい機会ですね」


「・・・・・うん・・・久し・・・ぶり」


 柊は眠そうな声で途切れ途切れになって絞り出す。


「相変わらずだね柊兄は」


 其処に槐、紫陽、銀葉、石蕗も集まってくる。


「紫陽さんも石蕗さんも久しぶりだね」


「はい!お久ぶりです!葵さん!」


「お・・お久ぶりです・・・葵様」


「そんなに畏まらなくてもいいだぞ、石蕗ちゃん」


 一人敬称を使う石蕗に敬称は不要とばかりにお茶らける槐。


「お前はちゃんとしろ槐」


 葵は少しふざけながらも窘める。


「いいじゃないか今日ぐらい。まだ正式に当主じゃないんだからぁ」


 槐は少々気分が高揚している様で上付いた声になる。


「そうだな、今日の所は敬称や丁寧語はなしでいいじゃないか。なぁ葵」


「それは姐さんが堅苦しいからでしょう?」


 少し目を泳がすが葵にはそれが分からず反応ができない。そこで茱茰が切り出す。


「所でいつ儀式をやるんだ?葵」


「今日の夜かなぁ・・・多分」


「じゃ私たちも近い日に授かるかなぁなんか楽しみだなぁ。なっ」


「いやぁ自分はそこまで思えないかなぁ自分で務まるのか分からないからさ」


 春蘭にふられた茱茰は自身の嘘の感情と謙虚さを混ぜて答えた。


「柊はどうなのさ?」


「俺は・・・やることを・・・やるだけ・・・楽しみにしてると良い」


「凄いなぁこんなやる気の柊を見るのは久ぶりだぞ」


 詰らない回答にむすっとしたまま問う春蘭だったが以外にも気力溢れる言葉に思わず笑みがこぼれた。


「おい!お前らはどうなんだ?」


 にたついた顔で年下の女子にも迫る春蘭。


「私も頑張りますよぉっ!葵さんの為にぃっ!石蕗ちゃんもやるよねっ」


「も、もちろん・・・です。葵様・・・期待して、頼って下さい」


 2人とも気合十分と言った力強い気迫を放っている。


「俺らも頑張るからよぉ任せろよなぁ銀葉!」


「うん・・・ちょっと心配だけど手は抜かないから・・・」


 槐も銀葉も他の人とは時間も無い中で継ぐ事になった事が心残りで自分らが足を引っ張ってしまうのではないかと言う不安が言葉に浮き出てしまった。春蘭は意識してかしらずか話を変えた。


「てか葵はさぁ、いつまで視力を封印してるんだ?」


「いやぁ分からないんだよ。親父は鍛錬だって言うし、いつまでとも言われてないからね」


「葵も・・大変・・・なんだな・・・早くこの世界を・・・見れると・・いいね」


「そうだね。でも一番は皆の色を拝みたいね。どんな人たちなのか、それに自分の顔も見てみたいしね」


「葵さま・・・是非とも最初は私の所に・・・」


「ちょっと、石蕗っ」


「あっ・・・はっ・・・すみません・・・」


「好きだねぇ石蕗ちゃん、まぁ顔は格好いいもんねぇ」


「何ですか春蘭さん?みてくれだけが良いみたいじゃないですか」


「おやぁおやぁ何か当てはまる事でもあるのかい?」


「いいえっ!ありません。ていうかその逆です。料理もできるし力も強いです。洗濯もできます。欠点探す方が難しい位ですよ」


「そういうところだよ。葵君」


「何だよ茱茰まで」


「そうだぞ、そういうところだぞ」


「じゃぁ姐さんは刀を打つ他に何が出来るんですか?」


「葵君、だめだよ。女性の不得意なところを探すのは。フェミニストたちが黙ってないよ」


「なんだい?茱茰、刀打つことしか能がないってぇ?槐君はどう思う?」


「いやぁそんな事は無いですよ。美人だし手先も起用だと思うので、りょ料理も得意なんじゃないですかね」


「おーう。中々見る目あんじゃないのぉ」


「そ、そうですかね。恐縮です」


「俺も思ってましたよ」


「嘘つくんじゃないよっ!もう少し年上に気を使いなさいよ」


 春蘭は葵の頭を右掌で包み、こめかみに力を入れる。段々と広がる痛みに葵は解こうとするがガチガチにホールドされた手は中々離れなく、さらに罵倒しようと思った所に石蕗が一言放ったのだ。


「だ・・だめだよ・・・余り葵・・さんを虐めちゃ・・・だから・・彼氏に逃げられる・・ん・だよ?」


 するりと額から解かれさする葵、春蘭は少し硬直したままでぶつぶつと何か言っている。


「また振られたんですね!春蘭さん。お気の毒に!」


 宥めたいのか嫌味なのか分からないフォローを入れる紫陽。


「これはクリーンヒットだな」


「・・・くっ・・ふふふ」


 解説を入れる茱茰に笑う柊。


「あれは、防ぎようないですもんね。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」


 解放された葵は何故か名号を唱えていた。

 

「くっ・・・うぅ。そ、それは誰から聞いたんだい?石・蕗・ちゃ・ん?」


「おばさん・・・から・・です」


 石蕗は余程、春蘭の顔が怖かったのかあっさりと自供した。


「あのっ婆ぁめがっーーーー!」

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