第10話 夷険の間~・4・~

 翌日、葵は朝早くから道場で素振りをしていた。他国にはどのような強者が居るのかと思い馳せていたら身体が疼いてしまったのだ。ひと汗かき朝風呂にでも入ろうと思い向かう途中カーヤと親父が何か話してるのを聞く。

「昨日、例の組織が狙っていると話したが、俺たちがその組織に露見てるって事は無いのか?」

「他の家もそうですけど今まで表立って何かをした訳でも無いのでそれは無いかと思います。露見ていたら既に襲われています」

「俺たちの戦力がどの位か分からず手が出せなかったと考える事は出来ないか?」

そう疑問をぶつけられるとカーヤはじっとしたまま長考し答えを出す。

「そうですね。そもそも神樹の事を知っているのはごく一部ですし神の使者が居るなんてオーパーツには記されてないと思います。それに祖先からこの山での暮らし、目立つ程の成績もない平凡に見える息子、これらを鑑みるに彼らの目に止まる事は無いでしょう。多分他の家系もそうだと思います」

「お二人はどうしてそこまでして阻止したいんだ?」

「そもそも先史文明の人々と今の人々は丸っきり別の種族です。生物皆そうですが歴史と言うのは自身で積み上げた事を次の人に託し又、その人が次の人に託す事の繰り返しでなるものだと思うのです。ですが、今の人々は先史文明の力を借りて成長してるようなものです。自分たちで築いたものは半分も無いでしょう。それが駄目だと思うのです。一つずつ歩んで間違えを探す事が人だと思うのです」

「そうか。よく分かった」

「すいません。熱くなってしまって」

「いやいや熱くて結構。信念を持ってることが分かっただけ大きいよ」

「ありがとうございます。なんか照れちゃいますね。ところでなんですが何故葵さんの目を封印してるのですか?」

「俺の親父の遺言みたいな感じかなぁ。まぁそれと単に修行にもなるからな」

「そ、そんな理由なんですね・・・確かにこれまで私たちを神力なしで見抜いた人は葵さんを除いて二人しかいませんでしたから。意味はあったんじゃないでしょうか」

「やっぱりそう思う?音響で輪郭が分かるとかどんな原理してんだろうな」

「いやぁそれは分かりませんが・・・いつごろからあのような修行をしているのですか?」

「たしか・・4歳ぐらいのときかな」

「随分小さな時からですね」

「まぁ息子には苦労を掛けたね。この家に生まれたからには神力を受け継ぐのは宿命みたいなものだしそのためには身体を鍛えなければならないし。それで息子の代になったらこの現状だからなぁ。なんともいえんよ」

(く・ろ・う・を・か・け・た・ねじゃねぇわ。俺が苦労を感じるのはあんたの世話だけじゃ!?それに今でも苦労を掛けてんだよっ)

それを聴いた葵は言葉に出そうになったが心の中に留め、乾いた汗を流しに行ったのだった。

風呂から上がり居間に行くと父親が朝食を準備していた。

「今日は珍しいね。親父が用意してるなんて」

「今日は早く起きたんだよ。ていうか明日分家の人たちが来るから学校は休め」

「あぁ昨日の事話すのね」

「そうだ、それと近々お前に神力の相承をするから心しておくように」

「おぉ!やっとか。嬉しいねぇ」

「・・・はぁ」

そこに使者の二人が顔を見せる。

「「葵さんおはようございます」」

「おはよう。カーヤさん、ジーバさん」

皿を並び終えた父は此方に向き声を掛ける。

「葵!あの子たちにはお前の口から伝えろよ」

「へーい」

適当な返事を返し朝食を食べ始める。それをまじまじと見るカーヤとジーバ。

「おい、そんなに見るなって緊張するだろうが」

「いえ、見事なものだなぁと。ねぇジーバ?」

「そうですねぇ。見えていないはずなのに自然と箸が動いてますね。よく小皿とかのおかずを正確につまめますね」

「慣れだよこんなもの」

「ところであの子たちとは誰の事です?」

葵はコツコツと箸と器で音を奏でながら答える。

「俺んちの分家の子共だよ。クラスが一緒なんだよ」

「そうなんですね」

「分家ってなんなんですか?」

「詳しく教えてもらってないんだがな、うちの親父が刀使ってたろ?あの刀と刀装具ってのを神力を使って造ってるだとさ。明日話すついでに詳しく聴こうと思ってんだよねぇ。そいう事は他で教えてもらわなかったのか?」

「えぇはい。我々の前ではそのような事は何も・・・ねぇ?」

「はい、初めて聞きました」

「まぁそうか。そういうとこもあるわな」

(こいつら余り信用されてないんじゃねぇか?まぁ慎重になる気持ちも分からんでもないが)

「ごちそうさまでした。じゃあ行ってくるよ」

「「いってっらしゃい・・・」」

「あいつ、出て行くのはえ~よな!まだ六時だぞ。着いても学校開いてないんじゃないか」

隠れていた潜在意識が葵を力付かせ山を最高速で下らせた。まだ人気の浅い〝逼〟の住宅街から奇異の目で見られないと思い臆さず走る。デジタルサイネージから流れるコマソンをも無視し学校まで行くのだった。

時計はまだ7時を廻っていなく校門は開いていなかったがそれを飛び越えて中に入る。上履きに履き替えようと玄関の前まで行ったとき、校門が開いてない事を考えると玄関も開いてない可能性を頭にいれてなかった。願うように扉に手をかけると扉越しに開錠してあることに気づいた。半分損した気分で教室に入るとすでに槐と銀葉が来ていたのだった。

「よう!おはよう」

「栃佐野くんおはよう」

「あぁおはよう・・・ど、どうしたんだ?こんな早くに」

「何か話があるんだろう?親父たちから聞いてるよ」

瞳を輝かせる槐と対象的に心懸かりを感じるが腹を括った瞳をしている銀葉。目の下には暈が出来ており余り寝つけていないようだった。そんな事は露知らず葵はじっと槐を見つめる。

「なんだよ。こっちばっか見るなよ」

「いやさぁ!一人だけ歓楽そうだなって思ってさぁ!」

真率さの中に諧謔さが混じった態度で槐に詰め寄る。槐はその態度に気おされ引き攣った表情になるが時計を見て忽ち嘲笑う。

「じゃぁ何でこんなに早く学校に来たんだよ?いつも通りで良い筈なのにどうしてですかぁ?もしかして話すのを楽しみにしてたんじゃないのかぁ?そうなんだろ?」

葵の心情を察した槐は舐めた態度に出る。有頂天な事を見透かせれた葵は顔から火が出る思いであった。

「うるさいわボケ!別に楽しみになんかしてませ~ん!貴方たちが早く来ると思って此方も合わせただけです~」

そっぽを向き、見透かされた感情を隠す様に頑強な物言いになる。

「ったくそういうのは良いから早く教えろって葵ちゃん」

それに対して槐は張り合う事はせず今度は煽り立てる。

「っち小馬鹿にしやがって、まぁいいだろう!教えてしんぜよう!」

気色ばむ葵は招集の内容を教えるという当為を思い出し冗談半分の苛立ちを見せ踏ん反り返る。

「はいはいどうぞ」

淡々としだした槐に面白味が無く冷やかしを入れる。

「なんだぁ?その態度は聞く気はあるんですかぁ?左巻きな槐さん?」

左巻きがピンと来なく〝頭がおかしい〟意味と教えてやると癪に触ったのか大声でまくし立てる。

「お前こそなんだよ!時間が無くなるだろう!早くしろ!」

一連の諍いを静観していた銀葉が笑う。槐は葵と見合い馬鹿らしいと笑い合う。銀葉の不安は少しだが薄れたようにも感じれる。

「分かったからちょっと内容を聞かれたらまずいから紙に書いてきたから読んでくれ。はい」

悪ふざけは終わりにして謹厳な態度にした葵は神の遣いの事、不可抜の壁が無くなる事、神樹の事、良からぬ組織がそれを狙っている事などを紙に纏めた物を渡す。内容を読むにつれて顔色が悪くなったり顔を見合わせたりする二人、しまいには茫然としていた。

「だから、明日集まるってわけよ」

葵の言葉に何も返さずに眉間に皺を寄せ塾考している槐。片や銀葉は顔色が悪くなり額に冷汗を浮かせる。

「おーい。聞いてんの?お二人さん?」

「なぁ葵は大丈夫なのか?要するに欲に塗れた人間に神樹を奪わせないために此方で集めるってことだろ?争いになったりしないのかこの国の変な組織とかと」

「まぁ多分そうなる・・・心配か?巻き込まれるの」

「いや・・・そうじゃない・・・・特殊な家系なのは百も承知さ。いつかこんな様な事になるんじゃないかと思っていた。でも俺らの代だとは思わなかったてのが本音だ」

「栃佐野くん・・・それは話し合いで解決しないの?」

「どうだろう。相手がその技術目当てならそれもうまくいくと思うけど、それを自分たちの欲望の為に使うみたいだからなぁ。そんな人たちとは対話でどうにかなるとは思えないな」

「そう・・・じゃあ僕たちも頑張らなきゃね針白くん」

銀葉は胸の辺りで拳を握りアピールをする。その手は少し震えていた。

「そうだな」

「余り無理するなよな二人とも」

「いや葵こそ気をつけろよな」

「そうだよ。一番危なそうなところに突っ込みそうだからね」

「心配すんなって、俺一人じゃないし。他の家とも組めって言われてるから。それに国外にも俺らみたいなのもいるらしいしな」

「おい、それは紙に書いてない」

「忘れてたの?」

少し憮然な表情になる銀葉と呆れた顔になる槐

「いやぁ悪ぃな忘れてたみたい」

「びっくりしたぁ俺らだけでこの国中探すのかと思ったぜ」

「ほんとにそう思った」

椅子の背もたれに凭れる槐、上がった肩が下がる銀葉。自分らだけでなく少し安堵する二人だった。

「多分だけど主に動くのは各家の前当主と現当主だからそもそも二人は探しに行かなくても大丈夫なんじゃないかなぁ。まぁいずれやり合う事になると思うから二人の刀装具期待してんぜ」

「余り出来が悪くても文句言うなよ?」

「僕も上手に出来るか分からないから余り期待しないで」

「そうかぁ?大抵そう言う事いうの出来る奴だからな存分に期待してるよ」

大事な話を終えると家での苦労話になった。家事を任せられるのだとか土日も休まず鍔を造り続けているとか、鞘を造っていると手がかさかさになったりごつくなったり苦労話というより愚痴の様な感じになってしまった。中々きちんと話す時間が無かった為思いのほか会話に花が咲いた。

午後辺りから銀葉の姿が無かったのに気が付いた葵は担任に聞くと早退とのことだった。保健室の先生いはく彼女とすれ違った時に顔色が悪く保健室で体温を測らせると39度超えており早退を進めた様だったのだ。槐にもそのことを話すと以外そうな顔はしてない様に感じた。今朝の事から顔色が悪かったらしかった。いつもの様に部活に出ようと部室前まで来ると葵は雪中に呼び止められた。槐は少し遠くから此方を振り返った様だったが気付かなかった。

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