第9話 正編:夷険の間~・3・~
「本当に神様の使者みたいだな。親父!」
少し興奮している葵。ただ父親は冷静にしている。
「そうだな。でも父さん大丈夫かな。神様に罰当たりな事してないかなぁ」
「きっと地獄行だよ。悪い事たくさんしたからね」
「そんな事無いだろう。父さん、悪いことは・・・して・・無い・・よな?」
「疑問形の時点で多少なりとも自覚が有るんだろ。例えば毎日息子を鍛錬と称して虐めてるとかね」
「それはお前を強く育てる為にだよ。将来の為に」
「そんな息子想いなら天国に行けると良いね!あはは」
「うるさいわ。そんなことで地獄に行かされてたまるか!」
「よく言うよ。いつもぐーたらしてるニート親父が!」
「な、何を!?父親に向かって酷いじゃないか!」
父親はそのまま噓泣きをし始める。大の大人、まして筋肉隆々の髭もじゃがする行動ではない。それが父親という逃れられない忸怩、泣きたいのは此方である。心事軽蔑の中、口が滑った。
「カーヤさんこういう大人どう思います?ご先祖様に対して慙死に値しますよね」
「そうですね。はっきり言って大人に成ってこれは破廉恥ですね」
「あっそれより先ほどの話を詳しくしなければなりませんね」
「此処ではなんなので客間に戻りましょう」
「えぇおねがいします」
大きな子供を置いて客間に向かう。父親は恬然とした様子でぼそぼそ何かを言いながら後をついてくる。太太しさが外見と似合うだけに苛立つ。本当に楽しくない人生である。
「ではカーヤさん詳しくお願いします」
「私が貴方たちの様な力を持つ人を探す理由はもうすぐ十二株に分かれた〝願いを叶える樹〟が出現すると同時に貴方達が言っていた不可抜の壁が消え、それを利用しようと名立たる企業らが先史文明の技術を得ようとするのを止めていただきたいのです」
「ちょっ、ちょっといいか。さっきも言ったけど、不可抜の壁は企業達が此処以外の土地が危険だから行かせない様にする為なんじゃないのか?」
「いえ、あの壁は人間が作ったものではありません。あれは神が創り出した仕切りみたいなものです。何故と思うでしょうから説明しますね。きっかけは先史文明なんです。先史文明が栄えてた頃に十一人の王と一人の王子が神樹に二度に渡り願いをしたため神の逆鱗に触れて天罰を享けました。そして、今後誰にも神樹を使わせない様に十三株に分けそれらを護る様にあの仕切りが造られたという訳です」
「じゃあ不可抜の壁が無くなる理由はなんなんだ?」
「それはですね。神樹を造った神様と仕切りをした神様が同じだったんです。神樹とは言え十三に分かれると力は弱まります。力を取り戻そうと同系統の壁の力を吸い取っているのだと思います。私はこの仕切りが出来た時からいますが明らかに弱くなっていますから」
父は飯台に肘を付け左頬に手を支え棒の様に顰めっ面で唸っている。葵は更に気になった事を尋ねる。
「この国以外に十一国あるんだろ。俺たち以外にも似た者が居るのか?」
「いえ。十二国です。居ますね皆曲者揃いでしたけど・・・協力を願うのにも一苦労しました。それに比べたら葵さんたちは楽でした」
「全部で十三国?」
「えぇ昔は一つだけは国では無かったですから」
「まぁ・・それで結構強そうか?」
「えぇいましたよ強い人。でも突出している人は数えるくらいでしたね」
「俺よりも強そうだった?」
「そうですねぇ・・・葵さんはまだ神力を継承していないみたいなので何とも言えないのですけど」
「おい。葵まだ大事なこと聞いてないぞ!」
「えっ?なに聞いてないっけ?」
「その神樹とやらを狙う輩だよ。せっかちなんだから、うちの息子は」
「一言余計なんだよ!」
「へいへい。でカーヤさんや。その狙っている奴らについて詳しく」
「はい、お二人も良く目にするCMを打っている自動車企業や製薬会社、其れに軍事企業の三社です。いつから知っていたかは分かりませんが」
「でその組織っていうのは何で神樹とやらがほしいんだ?」
「先史文明の技術の髄を手に入れてこの世界を掌握したいのではと考えてます」
「っていうかどうやってそんな事分かるんだ?どうやって調べたんだ?」
「まぁ私たちは物体に干渉出来ませんから建物の中に入るなんて造作もありませんよ。ただ物に触れない為資料を見るとかは出来ないので話を聴くしかありませんでした。まぁ会話の中でも指示語をやたらと使っていたので細かくは知れませんでしたけど」
使者はそう言いながら湯呑を掴めないことで証明してみせた。
「でもそいつらはどうして神樹の存在を知ったんだ?」
「先史文明の遺物ですね。地中に眠っていたのを掘り出したと言うより掘り当てたと言った方が正確だと思います。それが原因ですね」
「じゃその遺物をたまたま見つけて解読してみたら神樹の存在を知ったってことで良いのか?」
「それはそうなんですがそれだけではなくてですね・・・」
「なんだ言ってみて」
「その見つけた物を解読して今の技術に応用してる企業がさっきの三社なんですよ」
「・・・まじか・・・・じゃあの空中に浮いて走行するのは先史文明の技術なのか。でも薬とか爺さんの時からそんなに進歩したとは思えねぇけどな。まぁでも軍事会社は・・・分からんな」
「自動車会社の場合はそうですね。しかし悪用する意思は無いようなんです。問題なのが製薬会社と軍事企業なんです。二社はお互いに提携していて表に出ない薬ばかり作って実験してますからね。例えば体の耐久力を上げてどの位強度が上がったとか脳の働きを良くさせてどの位処理速度が上がったとか。そのせいで亡くなった方が沢山います」
「やばいねそうとう」
葵はにやけ顔を抑えながら呟く。
「なんだ、お前やけに嬉しそうだな」
「い、いやぁそんなに嬉しくないよ~」
「嘘こけ、顔に書いてるよ。ばか息子!」
「あぁいいですよ?馬鹿で、蛙の子は蛙とも言いますからねっ馬鹿の子は親も馬鹿ですから~」
「はぁ本当に阿呆だうちの息子は」
「お二人は仲がよろしいのですね」
「いや姉さんそうやって見せてるだけだよ」
「まぁなんだ・・・そいつらに先を越されずに見つければいいのだな」
「はいそうですね。あのつかぬ事を着聞くのですがこの国にあなた方と同じ様な方々を知っていますか?」
「えぇ・・地位争いしてるとこと女だらけのとこなら」
「あぁ良かったそこの二家にもお願いして回っていたんですよ。所でその二家と協力関係を築いては頂けませんか?」
「ん?あぁ俺はいいんだけどさなんか揉めてるとこさ、俺の一族嫌いみたいなんだよな。それに女ばっかりのとこも会う度引かれてる気がしてるんだよな」
「三家で会う事もあるのですか?」
「そうだねぇ数年に一回ぐらいだけど顔見せ程度でって感じだな。軽く世間話して終わりになるけど」
「そうなんですね。でも、その女性ばかりの家系にも他家とも協力してくださいと言ったらですね栃佐野家とならいいですよと返事は貰ってるんですよ。多分ですが引かれては無いと思いますよ」
「へ、へぇそう・・・なんだぁ」
唇を軽くつぼませ眉を上げてそう呟いた。
「おい、何で嬉しそうなんだよ」
「別に、嬉しくしてないじゃないか」
「声が少し高くなってましたけど?あぁあの家の人綺麗だもんね。そりゃ嬉しいよねっ」
「なんであの家の人が美人って分かるんだ?」
「誰かさんの所為で目を封印されたから、耳をよく使うようになってある程度物体の輪郭を掴めるようになったんですぅ」
「それは・・・本当にきもいな」
「あんたが俺にやった事だろ!度畜生親父!」
だがそんな言い合いも冷め、日は暮れていった。葵はオカルト研究部御一行の事はとうに忘れており、明かりが漏れ出る自室でとある兄と姉が残した鍔と鞘を手で鑑賞しながら使者の言葉を思い出していた。
此れから駆け巡る日常が理想的なものになる事を示唆したことに半ば捨てたはずの心願が成就し口元が綻ぶ。それはこれまで使う機会が無い事が静謐であると言い聞かせること自体が瞞着だったと否定できるからだった。これから訪れる状況が神からの贖宥状であり大義名分の元戦えと言われている様で罪悪感の欠片も無く思う存分に果し合いが出来、万福が待っていると考えるだけで体中が笑いを我慢するように震え勇躍する。この日は葵にとって長い夜だった。
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