第3話 興亡盛哀の先史 ~隠晦曲折・3・~

そこから七年の月日が流れ、予知の様なものの性質が分かってきた。〝見た予知夢は誰かに伝わる事で現実に起きる〟ことだった。少しでも予知夢と違う事を伝える、若しくは誰にも伝えないと少しずつ過程が変わり結末も変わる事。それは予知夢では見れない事。予知夢で見た内容が現実と重なり始めると其処から誰かに伝えても変化が止まらない事だった。

スパーコナは艶麗さと言うには言葉が足らない程美しく、女性としての余裕も出てきていた。其れは母性が芽生えたからなのだろうか。はたまた護るものが出来たからなのだろうか。そのスパーコナの手は男の子の手を握っていた。エーカムに似て鼻が高く、目はスパーコナに似て明眸で虹彩は黒く所々に白い線が一周入っている。まるで天使の輪の様。所々色が違う肌が見え、骨格も歪に見え、歩きにくそうにびっこを引いてるが別に虐待をしている訳では無い。生まれつきだった。そんな息子が嫌なのか生まれてからは夫婦関係が半ば破綻していた。

スパーコナは子供を連れ神樹に挨拶しに行き子供にも触れさせる。

既に帰ってきていた皆は古強者の顔になり逞しくなっていた。それなりの経験をして来た様に見える。全員が揃った所で以前話し合いを開いた部屋で個々が得てきた経験を話した。エーカムは全員の土地柄を加味した上で探索してきた土地とこの森に連絡路を作り物資などを運び入れたり出来る様にし、神樹からの使いと称し各自が開拓してきた土地毎に国を作り其処の王となり統治してみてはと提案をする。つまりは神樹を神格化し其れに仕える十二国を創るという考えを提言した。すると双子の片割れのパンチャが口を開いた。

「我々が十二に分かれて国を作るのは良いが此処はどうなるのだ?誰が納めるのだ?まさかエーカム兄さんか?」

「神樹に訊いてみようと思っている」

その言葉に皆が静かになり頻りに考え込むようになる。そして双子のもう一人のシャットも口を開いた。

「まぁ、それが良いと思うけど、次の後継ぎはどうするのさ?誰かの子供じゃ納得しないんじゃないのかなぁ」

十一人の顔を見ながら当然のことを指摘する。エーカムはシャットを見つめたまま答える。

「神樹の啓示を訊き、後継ぎを決めるので良いのではないか?」

「それは血縁者じゃなくても此処を統治できる可能性が出るのでしょう?それじゃ誰も納得出来やしないよ。せめて誰かの血が入ってないと継ぐ資格も意味もないと思うんだけどなぁ」

「では誰との子が良いんだ?意見を出してくれないかシャット?」

「俺だけじゃないと思うよ、そう考えてるのは皆もでしょ?」

それぞれ肯定の眼差しで訴える者、黙って頷く者、瞳を閉じ溜息を衝く者に分かれた。

エーカムは此れでは埒が明かないと思い今からこの森を統治する者を聴こうと言う。皆席を立ちぞろぞろと神樹に向かいエーカムは神紙を持ってくる。

「じゃぁ今から聞くからな?誰がなっても文句言わないように」

エーカムは釘をさし、幹に触れ光に包まれる。数秒で終わり神紙に答えが刻まれる。

 問 この森を治めるのは誰が良い?

 答 スパーコナです

 問 スパーコナの後継者は誰になる?

 答 お答え出来ません

 問 ここを治めることでどんな事が出来る?

 答 無制限に願いが叶えられます

 問 治める者はあなたが決めるのか?

 答 はい

 問 治める者の変わりになる様な願いは叶うのか?

 答 それは出来ません

 エーカムはその紙を見せる。皆は大体予想がついていたのだろう余り驚いた感じはなかった。それに自国に居る方が融通が利くし生活するのに楽だから逆に安心したぐらいであった。

話し合いが終わると子供が母親に近寄ってくる。それを見た筋肉隆々のチャットヴァーリが話しかけてきた。

「坊主!いくつになったんだ?」

子供は少し怖かったのかスパーコナの後ろに隠れてスカートを握りながら顔をひょっこりと出し笑顔で答えた。

「むっちゅ!」

と少し噛みながら答える。恥ずかしかったのかまた隠れてしまった。

「そうか大きくなったな!これからも大きくなれよ!」

今度はトコトコとチャットヴァーリの前に出て掌を出す。

「握手しよ!」

唐突に言われたチャットヴァーリは困りながらも其れに答える。

「おう!握手だな!」

チャットヴァーリは子供の手を握り返す。 

「おじちゃんいい人だね!ありがとう!」

「おう!またな坊主!」 

野太く張りのあるガラガラ声を響かせそのまま行ってしまった。子供は不思議な顔でスパーコナを見つめる。

「今のはエーカムの弟さんよ」

「そーなんだね。どこも似てないね!」

「ふふそうね、でもあまり言わない方がいいわよ」

「分かった!」

「いい子ね」

「うん!いい子にする」

「本当にいい子」

そっと頭を撫でるスパーコナ。

「お母さんなんかいった?」

「ううん、何も言ってないわよ」

息子は外の神樹を見つけてはしゃぐ。

「ねぇ!外を見て綺麗な樹だね」

「そうね綺麗ね」

二人で窓の傍により風景を眺める。

そのやり取りを見ていたエーカムは北鼠笑んだ。

またスパーコナは窓硝子をじっと見つめていた。

其れからの技術革新は飛躍をしていった。十二人の王たちは各地を治め、神樹を崇め祀った。城が建ち、城下町が広がり、人がある時を境に増えだしていく。十二の城は神樹を向くように、城下町は木の根の様に、人は草花の様に増えていく。人々は神樹に祈りを捧げる毎日。そうした日々がアジャの一族を繁栄させていく。さらに人々を強くしていった。

ただ、あの話し合いが終わった後、神樹に神紙を持って願いをしに行ったスパーコナはしばらくして十二人の子供を産んでいた。その神紙には〝この世界を正し、導く者が現れますように〟と浮き出ていた。

そして、ある日を境にスパーコナは同じ夢を見る様になった。全てが崩れ去る夢である。

黒い果実を食べている十二人の人影が映る。神樹に願いをし、叶えられた彼らは薄ら笑いを浮かべる。それから時間が加速し行年経ったのか分からないがまた十二人の人間が神樹にやってきて願いを言う。すると突如、神樹が空中に持ち上がり強烈な光が覆う、光が落ち着くと十三の株に変わりバラバラに遠くへと消えていく。

次に天から赤と紫色の光芒が十二国を飲み込んでいく、何かが意思をもって焼き尽くしていくように的確に落ちていく。その光に照らされた顔は十二人の兄弟と似ていた。あの年に生んだ自分の子共達と本能的に理解した。

やがて隕石は十二人の子供たちに落ちてゆく。子供たちは必死に逃げる。驚異的なスピードで空や地上を駆け巡り、まるで人の領域を超えたかのような身のこなしに呆気に取られるも隕石は追尾していく。遁走は長く続かず一人一人、天の火と共に包み込まれていく。残るのは丸い石だけでそこに人の気配は無く様子を見に行くと石の表面に苦痛に歪んだ人面が浮き出ておりとても不気味である。悲痛な感情はなく、ただ事実を受け入れる。

光芒も悲鳴も無くなり可惜夜が姿を現す。何もなくなった神樹の跡から光が漏れ出し、声が聞こえてくる。

〈其方たちは私欲に溺れ過ぎた、その故神の逆鱗に触れたのだ。よって封印させてもらった。ただ、こなたはこの者たちを生んだ者その償いはしてもらおう。其方の願いはこの世界を平和に導く人の誕生。それにはいつか貴方の力が必要になる時が来る。其れまでこの力を与えよう〉

そして私は目を覚ます。

誰にも打ち明けることもできず日々が過ぎていく。そんな毎日に気疲れした私は居間で休んでいると息子がやって来て母を気遣っていた。

「疲れてるの?肩を揉もうか?」

「揉んでくれるの?じゃお願いしようかな。ありがとね」

其れから息子は一日も欠かさず肩を揉んでくれるようになった。

そんなある日、息子が外の世界を見てきたいと言ってきた。

その眼差しは力強く何かを決意しており、止められない事を悟り送り出した。その背中は何故か寂しくも大きく感じた。息子であるマハートマはまた神樹に向かい今度は願いを叶えて貰い旅立だった。

息子が旅に出てすぐに私はこの未来が変わらないかと思い考えを巡らす。神樹にあの子供たちを消す様に願うが生命を真っ当な形でしか消す事は出来ないと言われ更に悩んだ。夢では十二人が集まって何かを願い破滅していた為それに懸けるしかないかと感じていた。

まだ彼らの自我が確立していない今、十二国にばらけさせ出来るだけ会わせないようにした方が良いのではないかと考える。彼らが成長してから会うことも考えられるが少しでも徒党を組ませるのを遅らせるだけでもしなければと思い行動に移す。だが何故かこの日から寝ても夢を見ることが無くなった。

そして、十二人の子供を神樹の啓示と称し十二の国に送る。十二人の王は送られてきた子供を次期王にすべく英才教育を施す。その十二人の子共は勉学の才能、運動の才能、共に素晴らしく王に相応しい成長を遂げる。                 

そしてその子供たちが十歳になるころ神樹にスパーコナの様な力が授かるか否かを調べに集まった各国の王と王子。スパーコナはこの日を予知出来ていなくあの日と混同した。運命の日が来てしまったと思いやはり抗えないと腹を括る。十二人は神樹の周りに集まり神樹に触れるが誰も相応しくないらしく落胆の表情を浮かべる。十二人の王は私にあの子らの出生の秘密、啓示の詳細を説明してほしいと言った。

私は予知夢と願いの事を話してしまおうと思ったが、神樹に何を願ったのか思い出せない。私は自室に戻りあの時の神紙を見つける。だがそこには何も記されて無く、真っ白だった。私は思考を巡らせる。

(神樹の前までいったのは覚えている。そこで願いを言ったはずなのに内容が思い出せない。でも神樹に何願いを言った後に十二人の子供を産んだ。何もせず子供が生まれた。誰かが願ったのか?私が十二人の子供を産むように。誰が?なんのために?だったら〝兄弟十二人の子供を孕ませると言わせる〟や〝後継者をスパーコナに孕ませろ〟と願えば私にも気付かれずに済むのにどうして?・・・いやできなかったんだわ。恐らく他人の願いを変えさせる事や自己中心的な願いは出来ないのだわ!でもなんで矛盾したことを今更・・・私に気付かせたかった?気付くことに意味があったの?私を貶めたい誰かが居て、それを知っていた者がいる。そしてその人は前者とは対立してると取れる。でもそれは誰なの?そもそも予知夢では見えなかったのはどうしてなの?それも誰かの願い?)

堂々巡りの思考まとまる事はなかった。

そのまま戻ると集まった十二人の内のトリーニが冷静な声で切り出した。

「どうした?子供たちの資質が無いのと神樹の天啓について話してくれ」

「分かりました。今日、子供の資質を確かめるために来てくれたと思いますが、彼らが私の様に特別な力を授からないのは十二人の真価を見極めたいからだと思います。この私の後継者に相応しいかどうか」

「天啓とは後継者の資格の有無なのか?資質が無いのとどう関係があるんだ?」

「えぇそうですね。私の考えですが己の力でどこまで出来るのかみたいのだと思います」

「それは子供を送った時に同封されていたものに書かれていた予知夢で知ったのか?それとも神樹に聞いたのか?」

「予知夢です。私の産んだ子供から選ぶと仰っていました。おそらく未来を変えさせたくない為ある程度濁していると思われます」

スパーコナはスラスラと嘘を吐き捨てる。

「じゃ何時まで待てばいいんだ?」

「それを知って意味があるのですか?その時が来れば分かる事なのに、今知りたい理由でもあるのですか?」

「ゔぅしかしだな」

「神樹様はまだ決めて無いのではないかと思う。まだスパーコナが此処の統治者だからね」

エーカムが割って入る

「此処の統治者の資格があるのは常に一人と言いたいのか?」

「あぁそうだ」

「あぁでも、もしかしたらスパーコナが予知夢で次の統治者を見たのかもしれないな。それに十二人と言うのも何か違和感がある。我々の所から子供を拾うか、この十二人の兄弟の子供を産みたいと願ったかでしか考えられないだろう。そして次の統治者を自分の傍に置いていたんじゃないのか?十二人の内から後継者を出さないためにね」

これにチャットヴァーリも疑問を投げかける。

「もしかしたら悪い予知夢でそれを回避するための可能性もあるんじゃないか?その子供たちが危険に合う夢だったとかな。しかも十二人の中から出ないのなら産む必要が無いのでは?」

「それだと納得しないからだろ。統治者が勝手に後継者を選んだっていう隙を突かれないように。公平に自分の血を分けた子供の方が資格も信用もあるからね。悪い予知夢だったら大人になるまで匿って下さいますか?と言うだろう」

「それだと嫌がられて引き取ってくれないと考えたからではないか?」

「皆、落ち着いてよ。そもそも可笑しいじゃないか!まだスパーコナさんが此処の統治者になって十数年だよ?こんな短いスパンで後継者が出てくる方が疑問に思うよ!」

この言葉に静寂が訪れる。沈黙の中切り出したのはスパーコナだった

「でもこれだけは信じて下さい。私の子共の内から出るので待って下さい。あと予知夢とは言っても誰が継ぐかも見えてません。多分ですが不確定要素が絡み合っているからだと思います」

「本当に十二人の内から出るんだな?」

「えぇ」

自信を悟らせるように頷く。

「じゃぁ神樹と神紙を使って証明してほしい・・」

エーカムはそう提案をする。

「えぇ分かりました。では神樹に参りましょう」

「そうだなそれが良いな。これが本当か否か分かるものだ」

「何ならこんな言い合いしなくても良かったじゃないか」

褐色肌のおちゃらけたシャットが後頭部に手を組みながら呟く。

ぞろぞろと神樹の元へ向かう。何人かは鳥を使い誰かに連絡をしていた様だが、あの時に溜息を衝いてた人らとは気付かなかった。

そしてエーカムは私に一瞥もくれず神樹の所に行ってしまう。

十三人が話し合ってた頃、子供たちは神樹様の近くで話をしていた。その中の一人が神樹になっている果実を見つける。鳥がぶつかり突如その実が十二個降って来た。黒くて艶があり両の手でも覆いきれない程大きくザクロの様な見た目であった。

子供たちは吃驚して避け、恐る恐る触ってみる。子供たちは危なくない事を確認すると今度は食べてみようとする。その甘美な香りが衝動を掻き立て抗えず手を伸ばしてしまう。その果実は水分がとても多いのにも関わらずとても甘く、今まで食べてきたものが嘘のように感じる程美味しかった。手から果汁が零れても構わず夢中になって食べ尽くしてしまった。これまでで一番美味しいであろう果物なはずなのに次を欲しがる様子が無かった。それは他の子共も同じであった。皆が何の果物だろうかと不思議としていると父親たちが戻ってきていた。

「今から大事な事を神樹に訊く。知りたい者は此処に残れ」

子供たちは好奇心に駆られ誰も此処を離れる様子はなかった。

そこにぞろぞろと他の父親と一人の女性が来た。一人の子供は女性を睨みつけるが一目もせずに神樹に向かう。エーカムが神紙をスパーコナに渡しスパーコナは神樹に触れる。スパーコナに光が纏わりつき数秒で消える。スパーコナは紙をエーカムに返し、それを見たエーカムは一瞬渋面になり笑い顔になる。

神紙にはこう書いてあった

問い この神樹の後継者は私の子共達から出ますか?

答え はい、出ます。

問い 私が生きている間に後継者は決まりますか?

答え えぇ決まるようにできています。

問い 私が予知夢で知ることは出来ますか?

答え いいえ出来ません。

問い 神樹に訊けば教えてもらえますか?

答え いいえ教えられません。

問い 知ることが出来ない理由は何でしょうか?

答え 後継者を殺す者が出てくる為です。

問い どうやって後継者を決めるのですか?

答え 善心や心力を試して決めます。

問い 私が寿命以外で死んだ場合、後継者はどうなりますか?

回答 貴方を知るも者が居なくなるまで後継者を決める事はしません。

「おい、どうなんだ?」

何も言う事なくただ紙をドヴェーに渡すエーカム。

「はぁ・・まぁそうだよね。スパーコナさんが統治者になったのは神樹の判断だし我々には分かりませんでしたからね」

「まぁでも正式に神樹様もお認めになられたのだから一先ず安心していいのではないか?」

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