第4話 興亡盛哀の先史 ~隠晦曲折・4・~

そして、子供たちは各国に戻った。夜になりベッドで横になり眠ろうとすると体にある異変が起きる。

身体が熱く、焼けるような痛みが走る。息をしていると苦しく、どんどん浅くなっていく。意識が遠のいて気絶してしまう。翌朝目覚めると特に変わった様子はなく普段道理の生活を送ち始める。

場面はチャットヴァーリが治める国にて次期国王は市民の友人と約束をしておりその準備をしていた。

「今日は外出する日だったか?」

「そうですよ、父上」

「怪我をしないようにな」

「分かってます。では行ってきますね」

そんな草木萌動日にある国の王子は市民の子供と遊ぶため城を出る。元々、国王から〝我々が導かなければならない民をその目で見なさい〟と言われ外出の許可が出ていた王子は見破られないように市民と同じ格好をし、友と会っていた。

その友は何故か祖母と2人暮らしだった。友は体の調子が良くなくいつも寝ていた。世界を見渡せるぐらいの高い山の麓に住んでおり城からは遠いがその大変さも楽しさの一つだった。平屋で隙間風がいつも入ってくる家で、冬なんかは寒くいつも心配していた。

城を出て数時間歩きっぱなしの王子に東風が吹く春めく気分に駆け足になる。地面には歯朶が萌えだしていた。山の麓にある友の家にやっと着いた。戸を開けて遠慮なく入っていく。おばあさんがいつもの様に笑顔で顔を出す。初めて会った時から常に笑顔なので最初は怖かったがその理由は友人と付き合いを続ける内に大体想像がついていた。そして今日も王子は元気の良い子供を演じる。友人の祖母と同じように。

「おーい俺が遊びに来たぞー!」

「おーーーい」

「聞こえてるよー」

部屋の奥からスカスカで気の抜けた声が聞こえてくる。とことこと歩いて寝ている友人の部屋まで行く。

「体調はどうだい?」

「見ての通りさ」

「僕ね、君に知っていて欲しい事が有るんだ。僕は色んな街に行き色んな事を見て聞いて旅をしたかったんだ」

「いきなりなんだよ。でもどうしてそう思ったんだ?」

「知らない事を見つけたいと思ってたんだ。此れは僕の妄想だけど・・世の中には昼と夜で色が変わる花とかさ、空飛ぶ魚とか、水の中で息ができる湖とか、足が6つ生えた動物が居たりしてさ、でその生き物のお肉は想像も出来ない程美味しいとかね。本当に俺の想像した物が有るのか確かめたいのかも。次は君の夢とか聞かせてよ」

「俺はどんな病気も治す薬を創ること・・・かな」

「あはは、なんで自信がないんだよ・・・」

「いやぁ・・それは・・」

「その調子じゃ・・・次の国王になれるか心配だよ」

「ど、どうして知って・・分かったんだよ!・・着ているものだって皆と同じにしたってのに」

「あはは、同じの着てれば露見ないって?そもそも服が綺麗すぎるよ。それに手に胼胝が出来てるけど爪も綺麗すぎなんだよ。市民の子たちは外で遊ぶことも多いしそれなりに汚いよ。街で最初に会った時周りをキョロキョロしすぎだし、なんたってその時の格好が似合ってなかったからね」

「はぁなんだよ・・・最初から露見てたなんてショックだよ・・」

「だって誰も君に声かけて無かったでしょ?」

「たしかに・・・な」

「で、なんで今聞いてきたんだ?」

「両親の事を聴きたくてね。今どうしてるのか」

「う~ん・・ごめん。俺もまだ国王がどういう政策しているか全部は知らされてないんだよ。詳しく聞いてもいい?」

「いいよ・・・両親は生まれつき身体が弱かった僕の世話をしながら仕事をするのは厳しくてね。何処も長続きしなかったらしい。それをどこで聞きつけたのか分からないけど国王の住む城で給仕の仕事をしないかと役人が来たみたいなんだ。それを両親と祖母は大いに喜んで承諾したんだ。でも城に行ったきり両親と連絡が取れなくてね。もしかしたら僕に愛想をつかして出ていってしまったのかな・・・なんて」

「分かった。帰ったら父に訊いてみるよ」

「ありがとう・・・」

「それよりもいいね、君の夢。誰もが苦しみから逃れる事が出来るのか・・・それは皆笑顔になるだろうね」

「ああ。なると思う」

王子は日が暮れるまで友人の想像した動物や植物の話を聴いていた。長く話していたのに祖母からはお礼を言われてしまった。何時も来られないが会う度に衰弱していく友人を見ているともの寂しく感じられる。来た道をなぞる様に帰りながら独り言を落とす。

「きっと両親は愛想をつかしてなんてない。そんな親ならとっくに見捨てている筈だよ」

同刻、エーカムは窓から差す沈みかける夕日を背に腰に帯びていた飾りの蕨手刀を外す。それを開けた窓から投げ捨てる。

「これはもう必要ない。我々はこの鉄屑の武器には頼らなくて済むのだからな。素晴らしい技術を作り上げたものだ。この調子で進めば近い未来、神樹を必要としなくても牛耳れる。くくく、あはははは。もう資格などどうでもいいな。寿命でさえ何とかなるようだしな。元居た民族を奴隷にした甲斐があったな。此れからは家畜だ。はっはっはっ」

大声を出せない為、乾いた高笑いになる。そこに研究結果を届けに鳥がやってくる。その文面を見て更ににやけたエーカム。

日が沈みかける頃、王城に戻り父親がいる書斎に友人の両親について訊いてみることにした。

コンコンコンと扉を叩く。

「どうぞ」

中から図太さのある荒い返事がする。

「失礼します。父上。お聞きしたい事が有りまして参りました」

「うん?いいぞなんだ?」

「私はある同世代の市民と友人になり、その友人から質問をされましてその内容が〝給仕として取り立てた両親は今どうしているか〟です。教えて下さいますか?父上」

書類を確認していた父が手を止めて目を見開き此方をまじまじと見つめてきた。

「おう!いいぞ、この国には日常生活を送るのに難しい人が居るのを見てきたんだな。そんな家族を支援する為に私が家臣たちに給仕の仕事はそのような者たちを率先して選考して欲しいと言っているのだ。でもどうして嘘だと思わなかったんだ?」

返答を待つ間もなく父上は机にあった水を一気に飲み干した。

「友人は国のマークを刺繍している兵士とスーツを着た人が来たと言ったものでして。父上もそうですが私の服にも似た刺繍が施されているので・・・しかも友人と会う時は刺繍の無い服で居ましたしたので」

「どういう刺繍か聞いたか?」

「え?えぇ確か白がかった羽状の葉に黄色い小花と言ってましたが」

「そうか・・・」

握った書類を机に置き席を立ち書斎を出て行こうとする父。

「父上?どうかされたんですか?」

王子は引き留めてしまった。

「その子とは仲良くするんだぞ」

扉の柄を握ったまま背を向ける父は抑え込むような尖り声で一言残し出て行ってしまった。

「え?はい・・・」

(急にどうしたんだ?俺に知られるのが駄目なのか?悪いことをしている訳でも無いのにどうしてだ?分からない)

翌日、話足りないと思い友の家に行った際、王子は泣いているおばあさんを見つける。近づくと友がベッドの上で息をしなくなっているのに気付く。家を飛び出しなかなかに離れた民家に助けを呼ぶ。おじさんが出てきたので状況を説明すると、薄々この家族の状況を気付いていたらしく驚いた様子もなく友の家に来てくれた。おじさんはおばあさんを私に預け友を担いで教会に行ってしまった。私たちは気になっておじさんの後を付いて行くと教会の殉教者と話している姿を見つける。殉教者は渋い顔で首を横に振っていた。おじさんは少し苛立った様子になるも諦めて教会を出て行くのを見届けた。おじさんに何を話していたか聞くと此処には埋められないと言われて少し嫌味を言ってやったそうだ。友人の家に戻り家の裏で埋めることにした。王子はおばあさんを休ませおじさんと一緒になって穴を掘った。

「ふざけてんな!あの聖職者め!神樹を祀ってるか知らんが子供の墓ぐらい融通利かせってんだ!」

「おじさんはどうしてそこまで手伝うの?」

「あ?・・・あぁ、こいつの両親が居た頃俺も近くに住んでたんだ。このガキの身体が弱いのは近所の奴らは知ってたもんだから日替わりでコイツの家に行ってたんだよ。でも両親が居なくなってから一年経った頃突然いなくなったんだよ。一緒に遊んでいた子供もそいつが家から出られなくなると離れていったみたいだしな。居づらくなったんだろう。他の国に住もうとしても手続きが面倒だしな」

「でもなんでおじさんはこの子の家に一番近くに引っ越ししたの?」

「・・・たまたまだよ。安い家を探していたら此処が引っかかっただけ。大人には事情があるんだよ。余りずけずけと聴いてくるなガキっ」

「す、すみません・・・」

蚯蚓、蟻、小さな蜘蛛、壁蝨が湧いている掘り起こした土を脚に被せ、腹に被せ、組んだ腕に土が被り、顔に土が被り、やがて穴が無かったかのように平らに均す。おばあさんはその光景を見届けに家から出ていた。王子は形見に友人の家族の絵を貰い晦冥の道を明かりを点けずに戻っていく。おじさんによるとその後おばあさんは一日中雨の中お墓の前に居たらしいが翌日家に行ってみたが誰も居なかった。城に戻り手元にある絵を手に両親を探すが見つからなかった。給仕にも聞くが皆知らないと言う。

父を怪しく感じていた時、エーカムという国王から自分宛てに手紙が送られてきた。内容は私たちの国に視察に来ませんかと言うものだった。今まで他国に行った事の無い王子は半ば浮かれた気分で半ば辛い思いを希釈できるのではと考え了承の手紙を返した。

翌日にはエーカムが乗る迎えの馬車が来ておりエーカムが納める国に入ったのだった。そこは自国とは雰囲気が異なり、より洗練されていた。人々が着る服も薄いのに丈夫そうで、履いている靴も明らかに皮で作られていない。更に街頭は火を使っている様にも見えないのに明るく、人だけを乗せて動く馬車みたいなものまである。不思議そうに馬車の馬を見ているとエーカムが話しかけてくる。

「あの馬はね造り物なんだよ。魔具機械って分かるかい?」

聞きなれない言葉に顔を横に振るので精一杯だった。

「鉱石に生命エネルギーを閉じ込め印章を刻む事で動かしているんだよ」

「すごい・・・ですね」

外の光に釘付けになる王子にエーカムは問うた。

「君は何かやりたい事なんてあるのかい?」

「私はですね・・・薬を作りたいですね」

「それはどうしてか聴いていい?」

「えぇ、友人が居てですね。彼が病気だったのですが一向に良くならなくてそのまま亡くなってしまいましてそれで作りたくなったという感じです」

「そうなのか、それは残念だねぇ。でも私たちは似ていると思うんだ。私も誰かの役に立つような物を作りたくてあのような機械を作ったのだから・・・君はどう思う?」

「そうですね。私も同感です」

「それで薬作りは出来てるのかい?」

「それがですね。此れまで誰もやっていないようで手探り状態ですね・・・進度はとても遅いですね」

「ではどうだろうか。私の国で薬を作ってみたら。山の奥地でも機械を使えば時間もさほど掛からないし、もし人が触れないものでも触れるから、はかどると思うけど?」

「というか何でそこまでしてくれるのですか?」

「私はね、より良くしたいんだよこの世界を、生活を。その為には色んな人の協力が必要なんだと考えたまでだよ」

「そうなのですね。では私も微力ながら協力させて下さい」

「こちらこそ、宜しく」

エーカムが治める国を観光しあの馬車もどきで送り返してもらった。降りる時にエーカムが私に御呪いを掛けてあげようと言い何かの印章を私の掌に書いた。見た事の無い文字の羅列が円の縁に並べられ、中心にはちょっとした絵みたいのが描かれていた。エーカムが出会った民族から教わったものらしい。その日は掌を眺めながら眠りについた。

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