第2話 序詞:興亡盛哀の先史 ~隠晦曲折・2・~
そして私は今日も夢を見る。
昼間見た総彫刻の棺桶が燃やされて悲壮感な雰囲気が漂う。ただ静かな時間が流れていった。やがて炎は弱くなり灰になる。そして、熱が取れるのを見計らって骨を一つ一つ探し出していく。皆一言も発さず黙々と拾い拾う。集めた骨は骨壺の中に入れて蓋をする。神樹の目の前に穴を掘り石で枠組みを作り、納骨棺の場所を残して石を敷き詰める。納骨棺と拝石を置き、敷石を嵌めて最後に石塔と墓誌を立てて骨壺を入れて終わる。そのお墓の前でエーカムと私は改めて結婚の報告をした。
寝殿造りの家に帰り族長が使っていた書斎を片付けていると遺言が出てきた。
そして夕方から十二人と一人でこれからの一族の行方を決める会議を始める前に父親が残した遺言を開封し中身を見る。そこには〝一族の繁栄を望む〟と書かれていた。まだ音声は聞こえないが映像だけで議論が白熱しているのが分かる。そのまま夢が終わる。
昨日と同じように早く目覚めエーカムと私で朝食の準備を始める。時間になると皆がぞろぞろと食堂に入ってくる。一晩経ってある程度落ち着いたのか昨日の朝食と何ら変わりなく過ぎてゆく。今日は朝から葬式である。朝食が終わった者から出ていき葬式の準備をする。そんな私も早く朝食を済ませ準備に取り掛かる。総彫刻の棺桶の周りに華と遺影を飾る。準備が終わると長男のエーカムが喪主の挨拶をする。
スパーコナは夢の中でこの様なシーンを見た覚えのなく不思議に思い首を傾げる。そしてエーカムが席に戻るのを見届け火葬に入る。幾つもの丸太を格子状に敷きその中に棺桶を入れ火をつける。燃え盛る火は近寄らなくても熱さが伝わる。その太く勢いのある火柱を十二人は物悲しく見ている。物言わぬ横顔からは亡くなった族長が愛されてたと感じることができる。私もこの一族の一員になったのだから励まなければならないと密かに決意するのだった。
やがて火は消え灰と骨が残った。十三人でお骨を拾い、そして骨壺に入れていく。そのまま神樹の目の前に作った墓石の納骨間に入れて拝石を閉じる。平べったく、そこそこの厚さの石碑には〝アジャ〟の文字が刻まれており、小さいながらも香炉も置いてある。完成した墓は陵墓の様だった。
昼食を食べスパーコナとエーカムは神樹の周りに咲いていた花を持ってお墓にやって来た。無事にエーカムと結婚することを報告しに来たのだ。
「私と族長殿は短い付き合いでしたがこの一族に対する愛はとても深いものと分かりました。不束者ですがアジャの一族の力になれたらと思います」
其れに答えてエーカムも墓石の前で静かに宣言する。
「必ずやこの一族をまとめて見せますので安らかにお眠りください」
二人は遺品の整理を手伝うために戻ると族長が使っていた書斎で十一人が手を止めて何かを話している。
「どうしたんだ?」
エーカムの声に振り向く十一人は遺書を見つけたと言ってくる。
「中身は見たか?」
「いやぁまだだ。みんなの前で開封した方が良いと思って」
「まぁそうだよな。一通り片付いたら遺言書を見よう、ついでにこれからの事を決めよう。スパーコナ遺書を預かっておいて」
瞬時に理由を察し、懐に仕舞う。
夕方になりこれから一族が向かう方向を決める会議と遺言の開封が始まる。エーカムは遺言の封を切り内容を読む。そこには一言〝一族の繁栄を願う〟とだけ書かれていた。エーカムは遺書で顔を隠して微笑む。遺書を皆で回し読みした。皆何か納得したような表情で綻ばす。
そしてエーカムはこの一族の発展と題してこの地より外の大陸を開拓し資源の確保、土地の拡大を計る提案をする。亡き族長の〝繁栄〟には技術力、資源、それらを使えるようにする施設も必要で、また施設を建てる場所も確保しなければならなく、あわよくば人材が居れば尚良いと言った。すると細身で長身の男性が手を上げる。
「どうした?トリーニよ」
「もし外の未開拓地がこの土地よりも危険であったらどうするんだ。未知の生物も居るのかもしれのだぞ」
「それは、神樹様に聴けばよい。危険な動植物は居るか?とね」
「生息してた場合どうするんだ?」
「生態とかどこに生息してるかとか聴いて対策を立てればいい」
「それはそれでいいが未開拓の地図が必要じゃないのか?それはどうする。それも神樹に尋ねるってか?」
筋肉隆々の男が割って入ってきた。
「そうだ」
「随分、神樹に頼るのだな」
じっと見つめられるトリーニ。このまま何もしらければ一族は滅びの一途をたどる為、賭けに出なければ先は無いと腹を括るしかないのだ。
「分かったよ。で俺らには何をお願いするつもりだ?」
「開拓する土地が大きい場合、分けるからそれぞれに行ってもらう。割り振りは神樹様に地図を貰ってから決める。当然私が神樹様に尋ねるとしよう」
「皆それでいいな」
トリーニが合意を得ようとする。皆は黙りこくる。
「否定するならしろ。黙ってると肯定と判断するぞ」
「分かったそれでいい」
しぶしぶだが皆、納得したみたいだった。夢で見た議論はもっと白熱していたのだが、見たものが必ず起きるということでは無いようだ。その後の議論は何もなく軽く準備をして一日が終わっていく。
そして私はまた夢をみる。神樹の前に十三人は集まりエーカムが神樹に未開拓地の事を聞いている様だった。エーカムは神樹に質問する際に神紙を使い皆に見せていた。エーカムは神樹からの啓示を話し、皆は目を見合わせ安堵する。エーカムは続けて話す。更に上付いた表情を浮かべたのだった。私はその表情である程度察しがついてしまった。恐らく未開拓地には危険な動植物等はいなのだろう。かつ、我々の他にも人族が居たのだろう。それからの行動は速かった。それぞれが防具を身に着け、武器を携えていく。準備が出来た者からエーカムはそれぞれに紙を配っていく。全員に配り終えるとエーカムは皆に向けて鼓舞をする。其れに大きく頷く男達はそれぞれの方向に旅立っていく。私はエーカムと共に未開拓地へ行く。そして夢は覚めた。
翌朝、エーカムに夢の事を話すと最初は信じてくれなかったが夢で着ていた防具の色や形を言い当てた。そこからエーカムは事細かく聞いてきた。神樹に何を訊いていたか、夢で渡した紙の内容等。夢では声が聞こえなく皆の仕草でしか考えられないという事を前提にして話していく。
「まず皆が神樹の前に集まって、多分エーカムさんが未開地には危険な動植物はいるのだろうかと聞いたんだと思う。皆の表情を見た感じだと危険な動植物はいない感じでした。其れから神樹に未開地の地図を貰っていたと思う。それを配っていたんだと思う」
「地図はどういう物が書いてあった?」
「ただ紙を配っていたのを見ただけで内容までは見えませんでした。ごめんなさい」
「そうだったんだね。有難うそれだけでも助かったよ」
そう言い足早に神樹に向かって行くエーカム、それに慌てて付いて行く私。先に着いたエーカムは神樹に未開拓地の危険性について尋ねていた。神紙を何枚か用意してあり次々に未開拓の地図を作っている。私はそれを見て驚愕する。私たちが住んでいるこの広大な森の周りを囲うように未開拓地が地続きになっていたのだ。其れもこの森がいくつも入ってしまう程大きい。ふと思った。私は最初、どこからか流れ着いて彷徨っていた。明らかに十数日でこの森の付近にいたとも思えない。エーカムと出会う事が奇跡と思えるほど広大な山の面積と渺渺の湖と平野であった。
エーカムは神樹の前まできた兄弟たちに神樹に訊いた事を話す。未開拓地には危険な動植物はいない事そして開拓地が大き過ぎる故、十二組に分けて未開拓地を探索する考えを提案した。事前に合意を得ていたのが良かったのかエーカムの提案はすぐに承諾され皆が準備に走る。
準備が終わった者からこの全世界を記した地図を渡される。それを見たものは皆、驚いた。全員が揃った所である程度の割り振りをする。そして、十二の方向に分かれてそれぞれ発向して行く。
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