3話 地獄の支部長には色々な道具があります

 前回のおさらい

 地獄には鏡がない。

 事務所に帰ったら、裸の青年が寝ていて消えた。

 違うわ、アカが消した。




「いまの、何?」

「……? いまの?」


 頭を抱えるアタシに、アカはきょとんと首を傾げた。

 ため息交じりにうつむくと、確かに彼が履いているのはローカットシューズだ。

 アオをチラッと確認すると、うん。足首が隠れている。



 ……絶対わからん。


 

 八つ当たりをしてやろうとアオを睨むと、アオは顔面蒼白で、汗を浮かべていた。せっかく固めた髪型も、ピンと情けなくはねてしまっている。

 一瞬その様子に疑問が浮かんだけど、そうだった。アオはだった。

 ガックリとデスクに手を付いてうなだれている。


「ごめん……えんま様。変なもの見ちまったよな……」


 あまりの動揺に様付けなんだけど。

 逆にこっちが心配になるわ。

 確かに驚いたけど、別に青年が裸だったからじゃない。


 誰もいないはずの事務所になぜか横たわっていて、当たり前のようにアカが消したから驚いているのだ。

 それに、


「裸ぐらいお風呂で先代の背中流してあげたりしてたし、見慣れてるわよ」


 アタシにとってはそんなものだ。


「あんのクソじじい……」

「コロス」

「あ! コラ! それに囚人だって、溶岩風呂なら裸でしょ!」


 ビシリと、アオが手をついていたデスクにひびが入った。

 それより問題なのはアカだ。

 アオよりも物騒な言葉を口にして、デスクが……うん。粉。


「落ち着きなさい二人とも。家族が背中流すなんて普通でしょ?!」




「「えんま様はわかってない!!」」




 ……なんだかすっごいハモって怒られた。この双子ホント理不尽。


「えんま様、オイラが顕現するからお願いだから鏡見ようよ!」

「イヤ」

「一回だけ、ね? 一回だけでいいからさ」

「ゼッタイイヤ」


 なんだか必死にアオが訴えてくるけど、規律は守るから規律。断る。

 それに言い方もなんだか怖い。


 確かにアタシは自分がどんな顔か知らないし、自分の顔を見たいと思わない。

 ……違うわね。見たくない。


 アタシは小さい時に、気づいたら先代の支部長えんまであるおじいちゃんの所にいて、育てられながら仕事を教えてもらった。親がいるのかさえ知らない。

 でも、それだけ。

 アタシのことを、先代は家族だと言ってくれた。なら、似てないかも知れないアタシの顔なんて、知りたくないじゃない?


「そんなことよりアカ、さっきのは何?」


 粉になったデスクをほうきとちりとりで片付けながら、アタシは話題を戻す。

 隣でまだぶつぶつ言っているアオにも、片付けを手伝うよう睨んだ。


「さっきの?」

「なんでキョトンなのよ。すごい存在感あるのが寝てたでしょうが!」

「ああ、えんまちゃ……さま。あれ金棒、です」

「……もう一回言って?」

「金棒」


 アカの返答に、アタシは思考を巡らせる。


 金棒。かなぼう。


 あの、オニと呼ばれる職員が顕現する。武器。

 地獄の囚人が暴れたり、指示棒がわりに使うアレ。


「人間だったわよね?」

「金棒でしたよ?」

「は?」

「え?」


 ダメだ。アカは素直だから、嘘は言ってない。けど、意味がわからない。


「アオ、説明」

「はーい。でもえんまちゃん、いまアカが言ったことで全部ですよ? さっきのはホントに金棒」

「認めない。説明」


 元の調子を取り戻したアオに、詳しい説明を求める。


「しょうがないなぁ。じゃあ水晶玉、お願いするっすよ?」


 アオは少し困った顔をしたが、そう言って、アタシのデスクの横に置かれた巨大なスライド台を、粉になったデスクのあったスペースに設置する。


「おっ! ピッタリ。アカ、結果オーライじゃん。えんまちゃんお願いするっす」

「備品壊してオーライじゃないわよ。で、何を映すの?」

「現世の舞台劇っす」

「はいはい」


 アタシはアオに指示されるままに、水晶を起動させた。



 支部長えんまには、顕現で代用できない三つの専用道具がある。


 一つがこの水晶。

 一つが杖。

 一つが手帳。



 水晶は、昔は現世で鏡だと噂されていたみたいだけど、違う。

 もっと純粋で、どの方向から見ても透明だ。台座に乗せていないと見失うんじゃないかしら? そういうことがないように、ずっと台座からは動かさず、使用していない時にはテープが貼ってある。

 支部長が求める時には、現世の見たいところを映し出してくれる。不思議な道具。



 杖は人頭杖とも呼ばれていて、支部長に危険があったときに守ってくれるらしい。

 ……双子が居るから、そんな危険なんか遭ったことないけど。

 名前のわりに頭はない。

 使わないから、いつも傘立てに入っている。



 最後の手帳は、囚人の名前や現世での行いについて詳細に記載されている資料だ。

 現世の影響か、最近は紙じゃなくて、石の板みたいになってしまった。

 紙をめくるんじゃなくて、指をすべらせて使う。

 アオに現世が衰退したのかと聞いたら、めちゃくちゃ馬鹿にされた。腹立つ。



 あともう一つ、嘘をついたときに舌を抜く道具があったらしいけど、先代が「手でできる」と使わず錆びてしまったらしい。

 まぁでも、手帳があれば調べられるし、そもそも支部長のアタシに囚人への責め苦の内容について決裁が上がってくるときには、その辺の取り調べはもう終わっている。


 

 そんな支部長用の水晶から飛び出すように、現世の様子が映し出された。

 何人のも若い武者が戦っている、時代劇の舞台のようだ。


「ただの時代劇じゃない。これが何?」

「これ、金棒です。あっちは刀」

「ん?」


 アオが指さす舞台上では、何人もの武者が戦い。声高に競っているその様子は煌びやかで、何人もの観客が上げている。

 その一人に確かに金棒をもって立ち回っている演者が居る。衣装は昔の鬼のそれではなく、豪華だ。


「普通の金棒ね」

「あれ? あー、違うっす。その金棒持っている男が、金棒っす」

「は?」

「え?」


 アタシが首をかしげると、アオはその反応に困ったように笑い、改めて説明する。


「だからっすね。最近現世では、武器を人に見立てることが主流なんです。金棒持っている派手なのが、金棒。刀構えてるのが、あれは名刀国綱かな? なら国綱持ってるのが国綱っす」

「??」


 アタシは混乱した。


「オイラの方はそこまで影響されてないっすけど……」


 そうアオが自分の金棒を顕現させると、そこに現れたのは、金棒のように黒光りした人だった。


「ね?」

「……いや」


 それ、ね? じゃ済まなくない?

 アタシは言葉が出なかった。




 

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