第12話 一団
僕たちは探索途中だった西のカタコンベに向かう。四つのカタコンベの構造が似ているなら、女神の断片は分散されているのではないかという考えに至ったから。
まずは前衛は柚月さんのところの
そして回復と防御魔法は
サポートの司祭は
そもそもの話、板金鎧を作れる技術があるなら余程の理由が無い限り板金鎧を統一して量産した方がいいんじゃない? ショップには何故か鎖鎧や小札の鎧が置いてあったが、種類が多いとメンテナンスも手間がかかるだけで、それらを用意する必要性を感じなかった。金額差はあったが、高価な宝飾品でもないんだから統一して量産すれば価格も抑えられそうなものなのに。
そして僕は後衛。司祭に転職したばかりなのでいちばん弱いらしい。どこで判断するのかと思ったけれど、
最後に盗賊。斥候と後方の警戒に当たる。最初は柚月さんのパーティの
地図は僕が作ったものを、出発前にもう一組だけ写しを作って柚月さんたちに提供した。代わりに僕たちは南のカタコンベの地図を貰っている。こちらが受ける恩恵が大きいと思うのだけれど、朱莉を助けた分と抜けた穴を考えると損はしていないと彼は言う。朱莉は僕が勝手に助けただけだけどね……。
◇◇◇◇◇
一団は抜群の安定感で地下二階まで進んだ。戦士が三人並ぶと、クロウキンどころかブリードフィーンドが複数現れても容易にあしらうことができる。
「すごいね。前衛三人が戦士だと圧巻だね」
「でも柚月さんところは司祭も板金鎧だったからもともと安定してたでしょ?」
「そうでもないさ。白木くんみたいな攻撃重視の面子は居なかったから」
二階の途中まで進んだところで交代を行う。四階までに一度入れ替えておこうという話。白木と宮下、それからさやっちさんと四島さんが交代する。三島と佐伯さんについては魔法が残っているうちはやる気満々なのでそのままでよさそう。
「さやっち、気を付けてね」
「ありがとっ」
さやっちは斥候として少し先行する。二階はあのゾウリムシ……いや、スライムと呼ばれている怪物が天井に居る。他にもウーズという石の床に擬態するよく似た生き物も居るらしい。地下六階に居たムカデ……そのまま
「沙耶ちゃんかわいいよね、見た目とギャップもあって」
確かに変貌以後、あの一見、大人しそうな見た目とフレンドリーさは平瀬くんの言う通り魅力的かもしれない。
「ダメだよタカフミくん。彼女は先輩の
小指を立てるな! 昭和のオッサンか!
「やめろ三島、彼女とはそういうのじゃないから」
「ええっ、自分の彼女を取り戻すために一人で地下まで行ったんっしょ? 愛の戦士っしょ?」
「その変なあだ名やめてくれ……あとまだ付き合ってなかった段階の話だったんだけど」
平瀬が言うには、僕が朱莉のために単身乗り込んだことで既にそのあだ名は定着してるらしい。
「先輩はただの二股ッスよ」
「「二股!」」
「まさかミナトお前ハーレムとか望んでないよな?」
柚月さんのパーティの面々が驚き、そして吉川くんが問いただしてくる。
「そんなこと望まないよ……」
「沙耶ちゃんマジか……」――項垂れる平瀬くん。
「四島さんには手を出すなよ! 絶対に――」
「うっざ。黙れ吉川」
「――くっ」
四島さんの辛辣な言葉に吉川くんは黙る。僕はとりあえず二股じゃないのでと、そして前に集中しましょうと告げておいた。それはともかくとして、仮にハーレムを祭壇に望んだ場合、どうなるのだろう。複数の望みが錯綜した場合、どうなるのだろう。色々と捻じ曲げられていく気がした。
◇◇◇◇◇
僕たちは無事に地下四階に辿り着いた。柚月さんの話では、地下四階の構造は少なくとも南と東では似ているらしい。中央に巨大なホール。その周囲をぐるりと回る通路。階段は対角にあるためホールを直進するか、通路をぐるりと半周する必要がある。
南のカタコンベでは
東のカタコンベにはドラゴンが居る。かなり厄介な相手で、火を吐き硬い鱗を持つ。そこのドラゴンは群れないのが救いだが、偶然複数を相手取ることもあるそうで、東のダンジョンではこのドラゴンのせいで先の探索が滞っている。
そしてここ、西のダンジョンの怪物は不明。先行しているパーティからの情報も得られていない。
「迂回して五階を探索するか、一度四階のホールの怪物を確認するか――かなあ」
「後で知って困るより先に知っておいた方がいいよ柚月」
四島さんの意見に同意する。特に反対意見もなく、余力のあるうちに確認することになる。斥候は出さず、戦士三人を前にしてホールに顔を出してみる。暗いホールの内からなら丸見えだろう。やがて――。
ガッ――何かが五十嵐の張った盾の魔法に阻まれる。そして立て続けに前衛の盾や鎧に飛んでくる。矢だ! 盾と鎧に阻まれるが三島達に当たるとまずい。
「三島、障壁を掛けておいた方がいいかもしれないぞ」
三島と佐伯さんは障壁の魔法を使う。今の彼らなら十分な回数を使えるだろう。
暗闇には何か人型の怪物が蠢いている。そして弓を持っており矢を放ってきていた。
防御を敷いて幾度かの射撃を耐えると、そいつらは姿を現した。
山羊頭の背の高い人型の怪物だ。
「ありゃブルーって呼ばれてるやつだな。頭もそこそこいい」
吉川くんが言う。――ついでに手持ちの武器が厄介で鎧を貫いてくる――と。
「後ろから射られると厄介だね。通路に引き込んで倒そうか?」
柚月さんの指示通り、後退しながら
山羊頭はどいつも皆、棘付きの棍棒や金属製の尖った鈍器を持っていて凶悪極まりない。佐伯さんが眠りの魔法を使うと、接近してきた7体の内の4体が倒れる。
「おっ、効いた効いた! 速攻するぜカズ!」
佐伯さんの合図で三島と共に破壊の魔法で前衛を援護し、あっという間に山羊頭3体を蹴散らした。弓で射てきた山羊頭は逃げたようで、その間に眠った4体の止めを刺していった。櫃が湧いて出たため、前衛はホール側の警戒に当たったまま、サポートの五人で鍵と罠の解除に当たる。
櫃は常に床から湧いて出る。そして怪物たちも同じだという。
四島さんが担当したが、問題なく櫃を開けることができた。中には金貨の山。
「うひょー! やったぜ!」
「やったな!」
佐伯さんと三島がハイタッチしている。
「このくらいならこの先いくらでも手に入るぜぇ」
「まじかよ! やったなカズ!」――佐伯さんは目を輝かせて言う。
「君たちは先に装備だね。帰ったら整えた方がいいよ」
柚月さんの提言通り、少なくとも僕は板金鎧を調達するべきだ。
ホールに巣くうのが
ウーズというのは厄介で、気付かずに踏みつけると電気が走ったような感覚と共に麻痺し、そのまま飲み込まれるそうだ。そして見分け方を教わる。注意していれば気付けるようだけれど、他の怪物と共に出現した場合は要注意らしい。
◇◇◇◇◇
地下五階への階段を降りると幾つにも分かれた通路と数多くの扉。南と同様に部屋の数が多い。そしてこの五階の部屋に限り、中はほとんどががらんどうらしい。
「南も構造が似てましたね。ただあそこ、人間によく似たのが居ますよね」
えっ――と声を上げる柚月さんたち。
「見たことないな。人間なの?」
「見た目は人間ですね。それもどこかの学校の制服を着ていて――ただ、顔が青白くて瞳も白くて黄色い炎のようなものを纏ってます。それから、会話のできる友好的なのと、いきなり襲い掛かってくるのが居ました」
僕は遭遇したその三人の詳しい話をする。
「ちょっと思ったんだけど、というより話そうかと思っていたんだけれど――」
柚月さんが言い淀みながら続ける。
「――ここってさ、どこかに似てると思わない?」
「えっ」
「宿舎?」
僕は気づかなかったが、さやっちさんが即答する。確かに印象としては宿舎だ。そして柚月さんが近くの扉を無造作に開ける。中は言った通りがらんどう。ただ、もちろん球の照明だけはある。
「個室じゃなく六人くらいかな。そのくらいで使う部屋に思えない?」
「六人ですか?」――僕は問う。
「そう。六人。ひとつのパーティ分」
「思うんだけどさ、この部屋の照明、ちょっと明るくね?」――宮下が言う。
確かに明るい。廊下は薄暗いと言う印象だけれど、部屋の中は文字の読み書きくらいなら問題なくできる明るさだった。
「照明ですけど、その三人と遭遇した場所って照明がひとつ壊れてたんですよね」
「あー、それハルトっしょ。こいつが何もない部屋続きでキレてぶち壊した」――と平瀬くん。
「ちょうど壁のこの辺りに四角い穴が開いていて――」
杖で小突くと軽い音がした。皆が注目する。
「ちょっと吉川、ここ殴ってみてくれない?」
吉川くんは柚月さんの指示で武器にしているハンマーで僕が小突いた位置を殴る。
パリン――硬い板が割れる音と共に壁に穴が開く。ガラスではない。薄い石の板か何かに見える。そして穴の中には――ブレザーを着た人間が寝ていた。板を完全に取り払う。高校生くらいの男子。
「これどこ高?」
「どこだろう。見たことない?」
「近くじゃないよね」
「死んでるの?」
「死んでんだろさすがに」
顔は青白い。眠っているように見える。もしかして――僕は同じ壁の別の場所を杖で小突いて行った。すると――。
「ここも音が軽いですね。――こっちも。――ここも。そっちもそうじゃない?」
壁の中央から反対側を三島が叩いていく。すると二か所、音が軽い場所がある。
「確かに六人分、同じようなベッドが壁に二段になってるんじゃないかな」――僕が言うと――。
「えっ、この壁に死体が六人分あるのっ?」――怯えたさやっちさんが僕の腕を掴んでくる。
「カタコンベ――確かそう呼ばれてるよね」――柚月さんがそう言うと静まり返った。
「やだやだ怖いっ」
そしてその死体に対する洗脳は行われていなかったのか、さやっちさんを始め、みんな普通に怯えていた。
「ここ全部そうなの? 南も」――四島さんがそれを口にする。
ここに一体どれだけの死体が眠っているのだろうか。そしてその死体は動くし喋る。
「オレ、もしかして照明割ったのマズかった……?」
「たぶん、上の連中はこの球に触れて欲しくなかったのだろうから秘密にしておいた方がいいけれど、割らなければ分からなかったと思うよ」
僕はそう吉川くんに言いながら、屈みこんで死体の制服を探った。
「ミナトっち、やめてよ、怖いよ」
さやっちさんが止めようとする。他の面々も引いた様子。
「僕からしたら怪物の生々しい臓物の方が怖いけどね。はい」
探り当てた彼の生徒手帳を差し出す。さやっちさんはぎょっとするが、柚月さんが手に取ってくれた。僕は他のポケットも探ってみる。
「他県の高校だね。だけどこれ日付が――学年からすると平瀬と同じ年だね」
「柚月、それって最近の死体ってこと?」――四島さんが問う。
「いやいやいや、こえーよ。こいつらいつここに来たのよ」――宮下が怯えている。
「それよりこれを見てみて。彼の呪文書」
柚月さんに渡した呪文書。それにはおそらく彼らの頃の呪文が記されていた。ヒール,キュア,ファイアボルト,スパイダーネット,シールド,ファイアボール……。
「なんかカタカナなんだけど」
「いろいろ違わない?」
「魔法使いと司祭の魔法がごっちゃに書いてあるじゃん」
言うべきかは迷った。まだ信用できる段階じゃない。だから――。
「あまり上の連中の言うことを鵜吞みにすべきじゃない。怖いことになるかもしれない」
僕はさやっちさんと頷き合った。
その後、他の
そしてもうひとつ。呪文書。全員が呪文書を持っており、どれもよく似た感じの魔法が記されていた。これはつまり僕たちが今、常識としている
「クラスが無いとどうなるかな?」――僕の常識では判断できないこともあるから聞いてみる。
「みんなどの魔法も使えて便利じゃん」
「全員が治癒できるならいいかもな」
「全員万能ってのはゲーム的にどうなのよ」――とは三島の意見。
「パーティを組む必要性が薄くなる。人も選ばなくなるから同じクラスで固まってたのか」
なるほど柚月さんのいうことも尤もだ。僕と朱莉が最初に直面した問題もそれだった。でもなぜわざわざそんな問題が起こるようなことをするのか。
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