第2話 一行

「えっ、無理無理。バランス的に魔法使い二人は無理だって」


 僕たちは荷物を整えて、また別のホールに居た。そこでは既にパーティと呼ばれる一行の構成、つまり組み分けが行われていた。そして怪物退治のパーティとやらは六人までの制限があるらしい。既に三人集まっているパーティに声をかけたところだ。


「仕方が無いッスね。先輩がどうぞ。私は他を探してみます」


「いや、僕はいいよ。篠崎さんがどうぞ」


「それよりさ、二人ともどんな魔法が使えるの?」


 ええっと――使える魔法の説明をする。さっきの男が残りの二人と相談する。


「彼女がいいや。君は他をあたってよ」


「まあ、そうだよね。じゃあ僕は他を探すから」


「あっ、先輩。帰らないでちゃんと居てくださいね?」


 篠崎さんは慌てて声をかけるが、彼女が望んで来たのに比べて僕は……目的がないからね。


「……善処するよ」


 ただ、これって皆、自由に選んでいるわけだから、バランスとか言うと、最後に余ったパーティってまともに機能しないんじゃないのかな?


 それぞれに話を聞いていくと、大抵はゲームに詳しい男子とかが取り仕切っている。前衛クラスに三人、後衛クラスに三人が基本とか言って。しかも皆納得しているようだった。そしてクラスの種類なんかも全員が把握していた。僕が寝ている間に、皆そこまで真剣に教わったのだろうか。



 ◇◇◇◇◇



 結局、僕が見つけられたのは最後の最後、どこからも余った六人になってしまった。まだ六人居るだけいいのかもしれないけれど。


「そんじゃ、オレがいちばん詳しいからオレがリーダーでいいよね。三島 和樹みしま かずき。よろしく」


 六人のうち、なんと三人が魔法使い。そしてその内の一人の男子が仕切り始めていた。そういえば彼、篠崎さんの同級生の集まりに居たような気がする。


「あんた、探知の魔法しかないのか。使えないなあ」


 そしていきなりこれ。


「あー、いや、君、篠崎さんの同級生だよね」


「篠崎? ああ、そうだけど。あんたは?」


「彼女の部活の……先輩の佐枝 湊さえだ みなと


「あっそ。何にしても探知の魔法だけじゃお荷物だから。分かって」


 これとやってかないといけないのか。早いとこ帰った方が良さそう……。


「佐伯は眠りがあるから使える。優秀な魔法だから温存して」


「は、はいっ」


 へぇ、そうなんだ。篠崎も持ってたな。そして佐伯と呼ばれた彼女は、女子にしては高めの身長と長い黒髪、そして大人しそうな印象だった。ちょっとかわいいななんて思ってしまう。


「宮下とそっちのあんたは戦士だっけ。鎧は好きなの買うように言われてるんだよな」


「そうそう。少し多めには金貨貰ってる。たださ、板金鎧って高いんだよねー」


 宮下と呼ばれた、短い茶髪をツンツンさせた彼は、剣と盾を持っていた。


「オレは侍になりたかったんだが、能力が足りないって言われたんだよな」


 ツーブロックの長めの髪を後ろで束ねた彼は、背丈ほどもある剣を持っていた。


「あ、わかるわ。オレは聖騎士に足りないって言われたわ」


白木 恒しらき ゆずるだ。よろしくな」


宮下 信之みやした のぶゆき。ノブでいいぜ。みんなも」


「オレもユズルでいい」


「あーしは柊 沙耶ひいらぎ さや。さやっちでいいよー」


 篠崎さんを思い起こさせるショートヘアの彼女は、篠崎さんよりも明るい茶髪で、より砕けた印象の女子だった。短い剣と盾と弓を持っている。


「長くなってる……」


「いーじゃんー? 佐伯ちゃん? 下の名前は?」


あかりです……」


「あかりっちね」


「長く……」


「さやっちさんのクラスは?」


 見た目だけではよくわからないので聞いてみる。


「さらに長くしないでいーから。さんは要らないし。あーしは盗賊」


「盗賊……って何するの?」


「えっ」


 皆、何故か顔を見合わせる。


「さっき聞いたっしょ? 分かってるよね?」


 当然のように言われ、僕は――まあだいたい――と、苦笑いで返す。

 おかしい。この柊さんって子も真面目に説明を聞いて把握してるのか? 他のクラスなんかのことも合わせると、日常から外れた、しかも結構な情報量だと思うのに、さっきも含めて当たり前のように返される違和感。



 ◇◇◇◇◇



「佐枝さんさぁ、どうせ金貨余るし宮下の鎧代に回してくれね?」


 僕は何故かパーティの仲間であるはずの三島からカツアゲされていた。白木くんは身軽な鎧が良いと、小札の付いた鎧を買っていたので予算内に収まったようなのだが、宮下くんはどうも板金鎧が欲しいらしい。場所はまた移動して、展示ブースのような簡素な印象のが並ぶホールだった。


「佐伯もいいって言ってるし、オレも出すしさ」


「いや、佐伯さんにも結構強引だったでしょ? 君」


「そんなことないよなー、佐伯」


「は、はいっ」


 三島は佐伯さんの肩を抱く。何かイラつく。


「パーティの壁なんだから、ノブには防御力上げといてもらわないと困るの」


「壁ってなんだよ……」


 納得いかない上に三島の態度が気に入らないが、確かに金貨は余るので――貸しだからな――そういって彼に渡す。


 金貨を受け取ったノブこと宮下は――サンキューカズキ――とだけ言って鎧を買いに行った。いや、僕や佐伯さんに礼はないの? その後、鎧の調整とかでしばらく時間を開けて集合することにした。



 ◇◇◇◇◇



「佐伯さん、嫌ならちゃんと断った方がいいよ」


 彼女はちょっと心配なところがあったので声をかけてみた。


「い、いえ、大丈夫です。あと私はあかりっちで構いませんので」


「ええ……嫌だったんじゃないの?」


「せ、性格とか生き方を変えたいんです。ココ、コミュ障なので」


 ますます心配になってくる。ちょっとかわいいって思ったのもあるけれど。


「でも何でも周りに合わせてると困ったことにもなるよ?」


「私が望んだことなので。ミナトさんは何を望んだんですか?」


 名前覚えててくれたんだ。


「え……それってさっきの集会の話?」


「はい。残る人は必ず望みを決めるように言われましたよね?」


「えっ? ああ、そうだね。うん、ちょっと秘密かな」


「そ、そうですよね。人には言えないこともありますよね、失礼しました」


 皆、本気なんだろうか。そしてちょっと怖い。というより、こんなのに参加する時点で十分に性格も生き方も変わってるよって思う。


「まあ、困ったら言ってよ。ちゃんと自己主張するのも大事だよ」


 そんな感じで会話は終わってしまった。篠崎さんと接するのに慣れてるのもあって、僕はあまり喋らないでも平気な方だけど、佐伯さんはそうでもないらしい。そわそわと落ち着かない様子で、やがて何も言わず離れて行ってしまった。


 その後、色々なショップを眺めたりしたが、篠崎さんや佐伯さんを見かけることもなく、集合場所へと赴いた。



 ◇◇◇◇◇



「遅せーよ」


 三島に言われる。けれど、スマホの時計は予定よりも少し早いくらい。それを見せる。


「時間ずれてるんじゃねーの?」


 彼のスマホの時計を確認すると確かにずれている。他の人とも見比べるが、何故か僕のだけ20分近く遅れている。そして電波は入っていない。それで遅れるにしても極端だ。


「悪い。何かずれてたみたいだ」


「ったく頼むぜー。初カタコンベって時によ」


 はぁ……。この三島ってのと話してるとイラつく。そしてカタコンベって何? 聞くとおかしな顔をされるだろうから聞かないが、知らない知識が多すぎるので後で篠崎にでも聞いてみよう。



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