第3話 俺の推しアイドルがあの子だったんだが、どうすれば良いんだ!?
家に帰ってきた俺は早速準備を始めた。何をって? もちろん推しのライブを見に行く準備さ。
推しのうちわとペンライトを持った俺は早速、会場のライブハウスに向かっていった。
電車を使って一時間で着いた隣町。俺は駅から徒歩6分でライブハウスに着くと、そのままライブ会場に入っていった。
仮面アイドル、いわばSNS界の大物アイドル、いつも動画サイトでしか見たことがなかった彼女達の姿を生で見ることに、俺は感動すら覚えていた。
そんなことを思っていると、目の前のステージにライトが当たる。そして、ステージに上がってきたアイドルに、俺とその他のファンたちは歓声を上げた。
「みんな〜! 来てくれてありがとう!!」
「うおおおおぉぉぉ!!」
推しのスミスミがそう言って、俺は思わず叫んでしまう。
「今日は夜までだから! みんなも私たちに付き合って!」
スミスミのその掛け声に、俺達は大きな歓声を上げた。夜までとか最高かよ! スミスミと夜まで入れるなんて天国だ!
「それじゃあ! 最初の曲は「君とあの空」!」
スミスミがそう言うと、ライブハウスから聞き覚えのある神曲が流れ始めた。それが流れると、俺は身に忍ばせていたスミスミのメンバーカラーに合った青いペンライトを振る。
いつも画面の奥でしか見たことがなかったスミスミの踊る姿。そんな姿を生で見られている事を実感した俺の目に、涙が浮かんだ。
「うおおぉ! 頑張れ! スミスミ!」
咄嗟に俺は彼女の名を呼んだ。そのとき、自分の勘違いだと思うが、スミスミと目が合った気がした。やった! スミスミと目が合ったんだけど! マジパネェ!
「みんなみんな! 大好きだよ!」
曲の最後のダンスを終えたアイドルは言うと、再び歓声が上がった。こうして、俺は仮面アイドルのライブを最後まで楽しんだ。
「んじゃ! ここまで残ってくれた皆さんに朗報があります!」
スミスミは言うと、ライブハウスはざわめき始めた。
「この後は私たち仮面アイドル達と握手会をします! 握手をしたい人はステージに上がってきて並んでください!」
それを聞いたファンたちは歓喜の声を出し、ステージに上がると、順番に並んだ。ファンの一人一人がそれぞれの推しと握手をしていく。
そして、俺の番が来た。もちろん俺はスミスミの元へ行って握手をした。スミスミの手はとても柔らかくあったかかった。
「カニカマさんですよね! いつもライブに来てくれてありがとうございます!」
俺のファンネームを呼んだスミスミは、絶えない笑顔をしていた。可愛い! 可愛いすぎる!
「これからも頑張ってください!」
「はい! 頑張ります!」
数分のひとときだった。俺はその時間を堪能すると、ライブハウスを出て行った。スミスミの笑顔も確保出来たし俺は今日死んでも悔いは無い!
そんな事を考えながら帰ろうとしていると、ふと俺はライブハウスの方へ視線を向ける。すると、めんどくさい事に一人の女の子が、チャラ男に絡まれてるではありませんか。
「や、やめてください!」
「えー、良いじゃんか! どうせ今日暇なんでしょ? 俺と遊ぼうぜ〜」
さて普通この場面に出くわしたらゲームや漫画の主人公は女の子を助けるだろう、だが俺は違う見捨てるの一択だ。周りだってそうだ、めんどくさい事に巻き込まれたくないから見て見ぬふりをしているではありませんか。ま、なんて言うクズがこの世の中にはいます、皆もそういう奴と関わるのはやめましょう!
「良いじゃん良いじゃん! すぐ終わるからさ!」
チャラ男はそう言うと、彼女の肩に手を伸ばそうとする。そんな奴の腕を俺は強く掴む。
「あぁ? 誰お前?」
「通りすがりの者だ、彼女が嫌がってるだろ」
「んな事お前には関係ねぇだろ」
「ま、たしかに俺にとっては関係ない事だ、だがな俺は困っている人をそう易々と見捨てる奴でもない、だからその腕を今すぐしまえ」
俺は得意分野の死んだ魚の目を使い、男を鋭い眼光で睨みつける。
「——わぁったよ」
男は俺の死んだ魚の目が効いたのか、彼女に伸ばした腕をしまい、どこかへ去っていった。
それを見た彼女は俺にお礼を言うために、俺の方へ向かってくる。あれ? どっかで見覚えがある人間だな……。
「あ、ありがとうございま——」
その子がそう言おうとした時、彼女はその場で石につまづいて転んでしまった。すると、彼女の持っていたバッグから物が散乱する。
「だ、大丈夫ですか?!」
「は、はい何とか」
俺が散乱した物を拾っていると、ふと、あるものを見つけた。それを拾った俺は驚愕した。そう俺が拾った物は、自分の推しアイドルのスミスミが着けている仮面だった。
「こ、これって……もしかして、スミスミ?」
俺がそう言った時、彼女は顔を上げた。そのとき、俺はまた驚愕した。
「宝条……さん?」
「あ……」
沈黙の空間が生まれた。俺はこの時、頭が真っ白になった。なんせ、自分が推していたアイドルの正体が、過去に俺を凄惨にフッた宝条菫だったことに。
「あ、あのこれはその……」
宝条は少々焦り気味な様子で呟く。しかし、俺はそんな彼女を置いてずっと放心状態のまま。
宝条菫がスミスミでスミスミが宝条菫? ダメだ頭がパンクする。
「あ、あの! このことは絶対に誰にも言わないでください!」
宝条はそう言い残すと、俺が持っていた仮面を取り、散乱していた物を拾って、兎のような速さでその場を去っていった。まだ状況の理解が出来てない俺は、ポカンと立ち尽くしていた。
と、とりあえず帰るか……。
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