第2話 俺の隣に犬猿の仲の子が来たんだが、どうすれば良いんだ!?
「えっとー、たしか宝条菫さん?」
「はい、そうです」
「遅刻は厳禁だぞ、まぁ今回は許してやる。ほら席に着け」
「はい、本当にすいません」
菫はそう言うと、俺の隣の席に座った。は? なんでなんで? え、ええぇぇぇ。
それから生徒全員の自己紹介が終わると、最初の一時間目が終わった。とうとうやってきた休み時間、俺は自分の席から動こうとはしなかった。
一方、俺の隣にいた菫も動こうとはしなかった。その時だった、隣に座っていた彼女が俺の存在に気づいたのだ。
「あれ? もしかして神島くん?」
久しぶりに聞く菫の声。俺はその声に聞き惚れていた。この際この声を魔性の声と名付けようか。
「な、なに?」
「いや別に、呼んでみただけだよ」
彼女はうっとりとした表情で微笑む。
耐えろ! 耐えるんだ俺! この笑みに今までやられたんだろ? 俺!
そんなことを心の中で思いながら、俺は彼女に対し苦笑を浮かべた。
「そういえば中二以来だよね、こうやって二人で話すの」
「——ッ。そ、そうだねー……」
マズイ、中二の話を話題に出してはならん! もし出したら宝条は絶対に俺の悪評をクラス中に撒き散らすに決まってる! 『昔神島がさぁー、私に告ってきたんだよねぇー』とか! 絶対にバラすに決まってる! しかもこのクラスには穂状もいる、これはどうにかしないと……。
「そ、それよりさ、な、何で遅刻してきたの?」
「あぁそれはね」
よし! 話題を変えることが出来た! あとは俺はこの話を聞いて逃げるだけ!
「私実はアイドル活動しててさ、そのアイドルの会議が朝からあって……それで遅れちゃったんだよね」
ふーん! なるほど! もう俺は帰るね!
「へぇー、アイドルやってるんだ。それじゃあ俺はこれで」
逃げようと俺は席から少しづつ離れようとする。が、その時だった、俺にも予期できなかった事態が起きた。
「神島くん、私がアイドルしてることは秘密にしててね」
菫は俺の耳元で囁くように言ってきた。
「——ヒェッ、わ、分かりました」
つい俺は変な声を出してそう言ってしまうと、菫はウインクをして笑顔でこう言った。
「ありがとう」
や、ヤバい、好きになりそうだ……。
俺が彼女の魔性の笑みと声の虜になりそうになっていた時だった。どこからともなく声が聞こえた。
『神島くん! 神島くん! 惑わされちゃダメ! 貴方には私がいるじゃない! スミスミという私が!』
スミスミの魔性の声が、俺を元の状態に引き戻してくれる。その時だった、俺の両肩に手が乗った。
「神島! 誰と話してんの?」
そこに居たのは穂状だった。彼女はふと俺が視線を向けていた方向を見る。そして、穂状と宝条の目が合った。あ、なんかヤバそう……。
「あ、えっと、わたし穂状瑠衣って言います!」
「私は宝条菫と言います」
「んじゃぁ、スミミはさ! どこ中から来たの?」
「す、スミミ?」
「いやなんか菫さんていうのはなんかアレだから、あだ名としてスミミ!」
良いねースミミ! 俺もそう呼ぼうかな、いやなんか俺が言うとキモイな、やっぱやめよ。俺が一人でそんな事を考えていると、菫は絶えない笑顔で言った。
「はい! ぜひそう呼んでください!」
「やった! スミミはさ! どこ中から来たの?」
「すまん、ちょっと俺トイレ」
と口実を付けて俺は、自分の席から立ち上がった。さて、一人になるし、どっか人気のない場所で時間でも潰すか。
ポッケからスマホを取り出し、俺は人気のない階段裏に行くと、そこで推しアイドルのライブ情報などを検索していた。
お、今日あのライブハウスでライブやんのか……最近金欠だけど推しに貢ぐためなら良いや。
休み時間の間ずっとそこでSNSをしていると、気づけば休み時間が終わる寸前だった。ヤバいと思った俺はダッシュで教室に戻る。
教室に戻ると俺は、少々驚いた表情をしてしまった。何故かそれは俺の隣にいた菫の席に、沢山の人が集まっていたからだ。
「あ、ようやく帰ってきた」
驚きながら立ち尽くしていると、穂状がむすーっとした顔で俺に駆け寄ってくる。
「ど、どした?」
「どうしたも何も神島がいつまで経ってもトイレから帰って来ないから心配したんだよ?」
「あぁなるほど……それより、俺、席に座れないんだけど……」
俺は宝条の元に人集りが出来ている所を指すと、穂状は気まづそうにそのわけを話した。
「い、いやそれが私がスミミと話してたら、まず男子達が宝条さんに寄ってきて、んでその数分後に女子達が寄ってきた結果あーなりました」
なるほど、まぁ男子や女子が寄ってくるのは分かる。なんせ、彼女は俺が言うのもなんだが結構可愛い、その綺麗な長い黒髪、そしてその青い水晶のような目、どう見ても美人と言う言葉が似合うマドンナだ。ま、俺にとってのマドンナはスミスミだけどネ!
そんなこんなしていると、次の時間のチャイムが鳴った。チャイムが鳴ると、人集りが出来ていた菫の席から人が段々と減っていく。
「遅かったんだねトイレ」
俺が自分の席に着くと、隣にいた菫はそう言ってきた。
「あ、いや、ちょっと人が混んでてな」
「ふーん、そうなんだ」
彼女は机に膝をつき言うと、こちらを見て謎の微笑みを見せた。
それからというもの、何事もなく初日の学校の日程が終わった。午前で終わったせいなのか辺りはまだ明るかった。
一人で学校を出た俺は駐輪場から自分の自転車を出し、そのまま家へ帰ろうとしたその時、後方から聞き覚えのある声がした。
「おーい! 神島!」
「ん?」
俺は何だ? と言わんばかりの表情で振り向くと、そこにいたのは穂状瑠衣だった。
「なにその死んだ魚の目……しかもなんか目つきがちょっと怖い」
「あっそじゃあな」
彼女に対し塩対応をすると、すぐさま俺は家に帰ろうとする。が、その時、俺の服の袖を穂状が掴む。
「なんで先に帰ろうとするわけ? 女子がこうやって話しかけてきたら普通一緒に帰るでしょ! 普通!」
「そ、そうか……じゃあ一緒に帰るか?」
「うん!」
穂状は元気な声で言うと、そのまま俺と彼女は一緒に帰ることになった。今更になって気づいたが俺は、こうやって女子と一緒に帰るのは初めてだった。しかし、何故か穂状と帰る事に緊張はしなかった。昔よく公園で遊んでいたからなのかも知れない。
「てか神島とこうやって話して帰るの、て幼稚園以来だね!」
「あぁまぁそうだな……てか今日、宝条さんと何話してたんだ?」
「えーっとねー、どこの中学から来たの? とか普段何してんの? とか聞いてた。……てかもしかして神島さ……スミミの事好きなの?」
彼女はどこか不安そうな顔で言ってきた。俺はそんな彼女の顔を見るのは初めてだった。
「正確に言うなら「好きだった」な」
俺がそう言うと、彼女はどこか安心した様な表情をした。
「え、もしかしてフラれたの?」
「——ま、まぁな」
「だ、だよね〜、神島があんなに可愛いスミミからOK貰えるはずないもんねー」
「うるせ」
そんなたわいもない会話をして、俺と穂状は分かれ道で解散し、俺は自分の帰路に着いた。
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