ちょっとエッチな全肯定三姉妹アンドロイドとまったりモノづくり生活

石の上にも残念

アンドロイド三姉妹と僕

剣が閃き、魔法が轟き、モンスターが跋扈する。

中世ヨーロッパ風のよくある異世界。


「よーし、出来たぞー」

その中でどちらかと言えば大きい街の中にあるちょっと大きいという以外平凡な造りの家の中で、僕は出来上がった透明でぷよぷよした布のようなものを掲げる。


「さすがです!」

「素晴らしいのです!」

「凄すぎますわ!」

そんな僕を涙を流す勢いで褒める真っ黒な服の3人の美女。

足首まで隠す長いスカート、手首まで隠れたフリルのついた長袖。首元まで隠れる高い襟のシックなメイド服。

手に嵌る手袋だけ白い。

風合いの違う黒い布地を組み合わせた上品な出で立ちは、この世界で見ることの無い意匠の服だ。

3人とも20代半ばほどの超美女。


マリ。

ミチ。

エリ。

の三姉妹のアンドロイドである。


背が高く華奢でスラリと長い手足にビックリするほど大きなおっぱいの長女のマリ。

背が高くボボーンキュッボーンとしたマリより大きなおっぱいの次女のミチ。

背が高く、全体的に控え目な印象を受ける。しかし、脱いだら凄いのだ! 三姉妹で一番おっぱいが大きい3女のエリ。

肌の露出が極限まで抑えられ、身体のラインする絶妙に隠すこだわりのメイド服の上からはどう見ても完全なる清楚な淑女だ。

しかし、その下はとてつもない。

肉体的にも性格的にも。


腰まで、肩甲骨まで、肩までと長さは違うが3人とも夜闇を溶かしたような艶やかな黒髪ストレート、細いつり目、薄い唇の超絶美女だ。


なぜなら僕の好みだからだ!


日本で適当な大学生生活を送っていた僕は、神を自称するおっさんに、なんかよく分からん理由で、3つのチート能力を得てこの世界へと飛ばされた。


その3つのチート能力の一つがこの3美女だ。


アンドロイドらしいが、本当にアンドロイドかどうかは分からない。

見た目も触った感じも何した感じも生身の人間とさっぱり区別はない。

ただめちゃくちゃ頭がいい。

10頭身以上ある小さな顔だが、その頭脳は量子コンピュータを数十台並列させた以上の処理能力がある、超ド級AIだとかなんとか言ってた。

文系の僕には異世界以上の異世界の話だ。

街を歩けば落ちてた小石の数に場所まではっきり記憶している。


そんな高性能マシンがこの未開の中世風世界にあって故障とかあったらどうするんだ!?という心配も無用らしい。

三姉妹がお互いをメンテナンスする技術を持っているからだとか、素材の復元能力があーだこーだとかなんか言ってた。


万が一壊れるような事があったら僕の手に負えないので、大変に助かる。


「惚れ惚れしますね!」

透明な布のようなものを怪しい手つきで撫でるマリ。

「ご主人様にかかればゴミですら宝なのです」

少し飛んだような目のミチがふふふと笑う。

もう慣れた。


そして、この透明な布のようなものを作り出す能力こそが僕のもう1つのチート能力。

『錬金魔法』だ。


にゅるにゅると滑らかな表面を撫で回されている透明な布は、元はスライムの皮だ。


割りとアチコチにいる害獣(モンスター)、スライム。スライムの体液に触れると石や金属の劣化が進む。

そんなスライムは薄い皮にドローっとした体液が詰まっていて、中心に核がある。

この核は砕くと保水力を上げる作用があるのでそこそこ使われる。

しかし、この薄い皮は脆すぎて使い道がない。


そんなスライムの皮も僕の手にかかればあら不思議。

あらゆる衝撃を吸収する緩衝材へと作り替えることができる。


錬金術の一つ、組成変更。

大量に廃棄されるスライムの皮を、一山に銅貨2枚『貰って』引き取る。

それを魔法でコネコネすればこの透明な布になる。


薄さ2mm程だが、耐刃、耐熱、耐衝撃、通気性に優れた高級緩衝材だ。

高級鎧の内側などに貼られて使う。


売値は元がスライムの皮ゴミだとは思えない程、高い。

しかも原価がタダどころか、仕入れるだけでお金が貰える。小銭だけど。


「セクテアの騎士団長が予約待ちですので、今回の売値は金貨22枚と銀貨18枚にしますわ。いかがでしょうか?」

エリがしれっととんでもない値段を付ける。

金貨1枚で4人家族が1年暮らせると言われる。

「金貨22枚? ふっかけるね?」

「「「ふっかける?」」」

三姉妹が揃って首をかしげる。

「ご主人様のお創りになられる素材を買えるのです。本来であればこの100倍でも格安ですわ」

「素材費がそれとして、加工賃が金貨35枚と銀貨82枚です」

耐刃性も耐衝撃にも強い素材は加工も難しい。

簡単に言うと、僕の魔法以外では加工出来ない。

「全財産叩けば買えますので問題ないのです」

「ぜ、全財産!?」

騎士団長さんの家にいるであろう執事長より、うちの三姉妹の方が騎士団長さんの家計に詳しい。

持っている金額、出せる金額、作れる金額全て見通した上で、その上限いっぱいを提示している。


「その値段じゃ要らないって言われたらどうするのさ?」

オンリーワン素材なので相当なわがままを通していることもあり、悪評もそこそこだ。

「自らで求めておいて、反故にするような愚物が所属する所とは今後一切取引する必要はないのです」

グイッと胸をはる。

思わず触りたくなる。

触っても怒られることはないけど。

「そ、そう?」

「ゴミのせいでご主人様の素材が手に入らなくなると知れば、騎士団長を処刑し謝罪に来るでしょうから、問題ございません」

「処刑!?」

「「「当然です」」」

この3人は揺るがない。

ぷるんぷるんだけどね。



☆☆☆



「そ、そんなご無体な!?」

緩衝材の金額が金貨22枚と銀貨18枚、採寸後の加工賃が金貨35枚と銀貨82枚と聞かされた防具商の悲鳴が響いた。


「では、クレドロ氏の方へ」

悲鳴なんざ聞こえないとばかりにマリが立ち上がる。

「ご主人様、参りましょう」

「お、お待ちを!?」

慌てて止めにかかるおじさん。

しかし、そんなおじさんを生ゴミを見るように一瞥すると、緩衝材を片付け始める。

「ぜ、前回は合わせて金貨35枚だったのですよ!?」

「前回は前回。今回は今回。思い込みなど知らないわ」

容赦の欠片もない。

おじさんの顔がみるみる青くなり、涙が滲む。

予約相手は騎士団長という話だった。

物理的に首が飛ぶこともあるのだろう。

おじさんの泣き顔というのは……何とも言えず、悲しくなる。


「ま、まあ、マリ。相手にも生活があるはずでね」

思わず口を挟む。

「かしこまりました」

途端、ピタッと手が止まると、綺麗な顔に綺麗な笑顔を浮かべて、頷く。

「ご主人様のご慈悲に感謝なさい」

そう言うと、また座る。

「素材の金額が金貨22枚と銀貨17枚と銅貨99枚、採寸後の加工賃が金貨35枚と銀貨81枚と銅貨99枚」

きっちり銅貨1枚ずつ値引きされた。

良かったね、リンゴが2つ買えるよ?




「しかし、良かったのかね?」

僕の左手を両手で掴み、大きな胸の間に埋めるように抱えて歩くマリに尋ねる。

「何がでしょうか?」

マリの方が背が高いので、上目遣いとはならない。

「いや、あの値段、かなり厳しそうだったから」

「問題ありません」

即答だった。

「ご主人様が、もし脳筋騎士が戯言を吐いて赤字になるようなら返金対応するとまでお約束されたのです。感謝こそされ、非難される言われは砂粒の欠片ほどもございません」

曇りなき笑顔で断言されると反論もはばかられる。

ま、いいか。


そんな話をしながら歩くと、1つのゴミ箱が目に止ま「どうされました?」

僕がなんだあれ?と思うと同時に尋ねられる。

察するのが早すぎる。


「いや、なんかはみ出てんなぁって思って」

「アグマディアの皮ですね。別名、サメ肌エイです。成体で全長1m程になる大型魚です。近隣海岸沿岸の比較的浅瀬に幅広く生息する種です。無害ですが魚型モンスターに分類されております。身は臭みが強く余り食用に向きませんが脂が多いため松明などの燃料油や食用油を絞られます。魚市場での買取価格は一匹銅貨15枚から23枚です。魚油の売値は一斗缶で1本銀貨2枚から銀貨2枚と銅貨50枚程度です。皮は鋭い無数の鱗があるため使い道がなく、あのように処分されます」

「はぇー、魚の皮ね……引き取れるかな? あ!あれか。引き取りはミチの仕ご

「大丈夫です! 大丈夫ですとも!」

食い気味に賛成される。


三姉妹の能力にはほとんど差はない。

本人たちとしては得意分野があるらしいが、全員が100m5秒代、フルマラソン1時間、走高跳4mみたいな成績を出しながら、どれが得意種目とか言われても、一般人からすれば全部化け物だ。


差は無いが、いや、差が余り無い分からかもしれないが、役割を細かく決めている。

例えば、今回のように素材の引渡しにはマリが付いてくる。加工品の引渡しならエリだ。日用品の買い物ならミチが、食料品の買い出しはマリ…のように僕では計り知れない高度な計算により、公平になるように役割分担されている。

らしい。


そして、原材料の仕入れはミチの担当だ。

この職域……本人たちの言う所の聖域の侵犯は大罪らしいが……。

「さぁ!参りましょう!行きましょう!」

めちゃくちゃ楽しそうだから、まぁいいか。



☆☆☆



「酷いのです……」

さめざめと泣き崩れるミチ。

よしよし、と頭を撫でる僕。

それをじとーっとした目で睨むエリとマリ。


1人が僕を独占するのが嫌なのだ。

独占はしたいけど。


「ご主人様!」

そこそこな時間そうやって満足したのか、泣くのを止めて顔を上げる。

「あの不届き者には、罰が必要なのです」

キッとマリを睨みつける。

睨まれたマリは気にした風はないが。


「罰って例えば?」

「今から12時間ご主人様とのスキンシップを禁止するのです!」

したり顔のミチ。

「いやぁ?」

スキンシップが好きな三姉妹ではあるが、禁止が罰かどうかも微妙だし、12時間てもっと微妙だし。

「「な゛っ!?」」

しかし思ったより反応が大きい。

しかも、エリまで反応している。

「あ、あ、あ、悪魔か! 貴女は!?」

「よくそんな恐ろしい罰を思いつきますね…」

真っ青になってガタガタ震えている。

どうやら大変なことらしい。


「私の聖域を侵したのです! 当然なのです!」

「殺す気ですか!?」

「あ、でもいいかもしれませんね」

衝撃から立ち直ったエリが続く。

「私とミチ姉さんがご主人様に可愛がって頂いているのを、隣の部屋で1人待つだけ」

「あ、あなたまで!!」

まあ、いつも3人仲良くだけどね。

「同じ部屋でじっと見とくだけ、もいいのです」

「ふ、ふざ

「ま、まあまあ。まあまあまあまあ落ち着こう」

パンパンと手を叩いて場を静める。

うっかり喧嘩が始まると、物理的に辺り一帯が灰燼に帰してしまう。

全然そうは見えないが、歩く最終兵器なのだ。3人とも。


「12時間の放置プレイがそれほどのことかと思うけど

「「「とんでもない事です!!」」」

3人が騒ぎ出した。

口々にいかにとんでもない事かを説明している。

聞いてるこっちが恥ずかしい。

「ま、まあそれだとバツが重すぎるみたいだからね」

落ち着くのを待って話を続ける。

「こうしようと思う。ミチとエリには新しい下着をプレゼントする。でも、マリには無し」

えっちぃやつを着てもらおう。

既に着てるけど。

「「「…………」」」

「ん?」

うんうんと、えっちぃ姿の三姉妹を想像していた僕を3人が凄い顔で見ている。

あ、ヤベ。

罰にならないか?

どちらかと言えば僕へのご褒美だし。

「あ、あの、そ、それは…」

マリが、血の気が引いて今にも倒れそうな顔でプルプル震えている。

そして、

―――パタっ―――

「え?」

「お姉様!!」

「お姉さん!」

倒れた。



「ご主人様…いくらお姉様の犯した罪が重いとは言え、流石に罰が重すぎるのです」

マリを介抱しながら青い顔のミチが責める。

「はあ……?」

いや、たくさんあるしね?えっちぃ下着。

「12時間のスキンシップ禁止は12時間過ぎれば解放されるという希望がありますが……1秒が10万年にも感じられるとは言え、です。自分だけご主人様に頂いたものが無いという状態は未来永劫続きます」

そう続けるエリの手も震えている。

「そんなになんだねー」

「想像するだけで絶望して意識を失う程に、です」

「お姉様のグラリセオルバ並の精神力があればこそ失神で済んでいるのです」

この世界の創世物語において、堕ちた神を切り裂いた剣の素材と言われる伝説の金属がたかが下着の1枚や2枚で折れていいのだろうか?

「そうか」

正直殆ど理解は出来てない。

しかし、愛されているのだ。頷くのが度量というものだろう。

「じゃあ、3人にプレゼントしよう!」

「「はい!!」」

小躍りする2人。

仲良し三姉妹だ。


一番得してるのは、僕なんだけどね。



☆☆☆



「さて、やってみよう」

銅貨10枚の処理代を貰って引き上げた大量の魚の皮。10kgぐらい入った袋が20袋。

軽々と持ち運ぶマリの恐ろしさである。

アグマディアの皮には短いが硬くて鋭い棘がびっしり生えていて、なかなか危ない。

深海魚っぽい感じのヌルヌルぶよぶよしている。


「……匂いがこもりますね」

古いせいもあるのだろうが、生臭い。

「ま、まあ加工すれば匂いは消えると思うし…ちゃちゃっとやってみよう」

へへーっと愛想笑いを浮かべながら、ヌルヌルのぶよぶよに手を当てる。

「何が出来るのですか?」

「さあ?」

力を込めると、手のひらを通じて頭の中に情報が流れこんでくる。

大きい丸、小さい丸、三角に四角に星型……。

多分、元素?分子?なんかそんなのが簡単に表されるんだろう。

それらを適当に組み合わせると、こういうことが出来るという情報が流れてくる。


ふーむ……。

この辺りはゴミだなぁ……。

これは……お!

おおっ!?


これは!!

これはいいぞ!


くにくにと柔らかな丸と、小さな四角、ジリジリと伸び縮みしている台形を組み合わせる。

こうか?

組み合わせ方によっても性質が変わる。


こうだと?

いや、違うな。


こっち……あ、これだ!!

来た!!


よし!

これだ!


組み合わされ!!

形をくっつけて大きくしていく。

この時の大きくする手順でも性質が変わる。

奥が深いのだ。

全部感覚で把握できるんだけど。


水分が多すぎると保管しにくいので、水分は少なくして固形に。

形は、まあ握りやすいように小判型でいいか。


「ふぅ…出来た」

「ご主人様、これはなんでしょう?」

そう言うマリの足元には、薄ピンクで透明な楕円形の掌サイズの固まりが40程転がっている。

一袋で4つか。

歩留まりは悪いな。

「ああ、それは〖美肌ローション〗だ」

「「「!!」」」

答えるなり3人が一斉にその塊を拾い集める。

細かい説明を挟む余地すらない。


「あ!こら!エリ! それは私のです!」

マリの拾おうとしたヤツをエリが横からかっさらう。

腕の残像が見える勢いだ。

「お姉様のみっともない貧乳に使う場所はありません!」

エリのサイズがとんでもないだけで、マリのも顔ぐらいの大きさはあるのだが。

「貴女こそぶよぶよだから使う意味ないでしょう!」

モッチリであって、ぶよぶよではない。

ムチムチって程ですらない。

マリが細いのだ。

「お姉さんもエリちゃんも浅ましいのです」

やれやれと肩をすくめるミチ。

その手には20程のローションが収まっている。

「取りすぎです!」

「分けなさい!」

2人がケンカしている間に掠め取ったらしい。

「嫌なのです。私はこれでご主人様と、ヌルヌルのツヤツヤのスベスベを楽しんで頂くのです!」

チート製法による超微細コラーゲンは、経皮で成分が染み込んだ後、肌の表層でコラーゲンとして生成されるという仕組みだ。

そして、その過程で水も生成されるため、内側からピンポイントで保水することも出来る。

更に、アグマディアのぶよぶよに含まれる成分は少しいじると、シミやシワなどの弱った箇所、擦過傷などの怪我で破損した箇所に浸透し、若返らせたり、修復することが出来るとんでも成分になった。

つまり、これを塗り込めばシミやシワはもとより傷跡すらツルンツルンの赤ちゃんの肌に早変わりだ。


……美容のつもりだったけど、ヤケドの後遺症で苦しむ人が助かるすごい薬になるんじゃ?


「なあ、コレ…販売し

「「「!!」」」

「なんでもないです」

三姉妹は既にスベスベのツヤツヤのモチモチで、シミもシワの影すらない、真っ白な肌をしている。

美容ローションが必要な理由も分からんが、逆らうのは怖い。

まあ、材料はまた手に入るだろうし……。



☆☆☆



美容ローションを作り残ったゴミの処理。

そのままだと邪魔なので、これも分解していく。

有機物は大体、水と空気に分解出来る。

当てはまらないいくつかのミネラル質は適当に集める。

大体、ナトリウムと混ぜれば塩になる。

人口天然塩だ。

意味が分からない。



「ん? なんだこれ?」

大量の素材の中から必要なものをかき集めていく中、とても小さな変なものを見つける。

紫色と黄色に交互に光りながら、ゆっくりと丸、四角、星型と形を変えている。


摘むというより撫でるような感覚でそれを集める。

しかし数が恐ろしく少ないので、全部からかき集める。


しかも、くっつけようとしても上手くくっつかない。

くっついた!と思ったら形が変わる途中で分離してしまう。

こんなの初めてだ。


舐めるなよ!

こちとらチーターだぞ!?


何度も試行錯誤を繰り返す。

何度も何度も何度も何度も。


何度目の挑戦か、500か1000か。

いや、100ぐらいかもしれないけど。

「くっついた」

黄色から紫に変化する直前のほんの一瞬のタイミングかつ、星型から丸へと形が戻るほんの一瞬のタイミング。

このタイミング同士の2つをくっつけるとくっつき、大きくなる。

そして、また同じように色と形を変え始める。

変化のタイミングは個体によって少しずつ違っており、ほぼ待ちだ。


根気強くタイミングの重なる個体を見つけ、くっつけていく。


少しずつ、少しずつ大きくなっていき、数が減る。

あと10。

あと4。


そして遂に、全部がまとまる。


出来上がった一塊に加工の魔法をかける。

紫と黄色の間、透明になった瞬間。

形は丸。それも真球。


「うおっ!?」

思わず声が漏れるほど力を吸い取られる。


しかし、それで塊は変化が止まり、透明な真球で固まる。

直径2cm程の透明な丸い玉。


「………出来た…?」

気が抜けた瞬間クラッとして、尻もちを

「ご主人様、大丈夫ですか!?」

着く前にエリが支えてくれた。


「あ、ああ大丈夫。ありがとう」

「すごい汗なのです」

ミチがふかふかタオルを持って顔の汗を拭ってくれる。

世間一般に流通しているタオルの10倍以上の吸水率を誇るふわふわタオルもチート製法だ。

ふわっふわのふわっふわだ。

服屋から端切れを買い取り――これはお金を払っている――パパっと加工して大金持ち相手に売り払う。売値は原材料の1000倍以上だ。

同じくチート製法の柔軟剤を使って洗えば、20回ぐらいはふわふわが維持出来る。

潰れたタオルはそれでも普通のタオルよりかなり質がいいので、小金持ちに払い下げられる。

そこでも使い潰され、ぼろ布になったら僕の所に端切れとして帰ってくる。

そしてまたふわふわタオルに再生され1000倍以上の値段で大金持ちに売られる。

値段に文句を付ける人もいるらしいが、一度このふわふわタオルを知ってしまうと、普通の布っきれタオルにはもう戻れない。

我ながら傑作だ。


もうすっかり作り慣れたので、まとめて100枚作るのに5秒ぐらい。


「ご主人様ぁ〜〜」

「あ、ごめんごめん」

空想に耽りながら無意識に枕にして感触を楽しんでいたエリのおっぱいから頭を上げる。

エリの顔が赤い。

エリに触発されたように、ミチも顔が赤い。

目に怪しい光が灯っている。

このままだと全ての作業が中断されることになる。


別になんにも困らないけど。


「まあ、落ち着こう」

しかし、部屋の中に塩とかが散乱しているので片付けるのが先だ。

「はい。夜まで待ちます」

聞き分けが良くて助かる。


「……ところでご主人様?」

マリが僕の手をじっと見ている。

エリが1人だけおっぱいを触られていることに抗議を上げる余裕すらないほど真剣な顔だ。

「何?」

「その手にあるものはなんですか?」

「ん?」

改めて手の中を見る。


3人の視線が刺さる。


そこにあるのは透明な丸い石。


改めてみると、なんと言うか妖しい程綺麗だ。

1日中眺めていても飽きなさそうな、形容しがたい吸引力と迫力がある。

見てると頭がボーッとしてくる。

「ご主人様?」

「あ、いや、さっきの魚の皮から採れたんだ。全部かき集めてこれだけ」

視線を無理やりマリに向ける。

「ちょっとよろしいですか?」

「どうぞ?」

そう言うと手袋の上に更に白いハンカチを広げて石を載せる。

この世界ではそもそも超高級なシルク。

そのシルクをチート製法で更に滑らかに柔らかくつややかに、しかもタフで汚れにくく仕上げた特上品だ。

この20cm四方程度のハンカチだが、冗談抜きで屋敷が建つ。


もう取引がめんどくさ過ぎて、作ってない程だ。


ハンカチの上に鎮座した丸い石を三姉妹が顔を近付けジーーーっと見つめる。



目が時々キラキラ光っているので、分析機能が働いていると思われる。

「まさか?」

「しかし、間違いなく」

「でも?」

見つめながらヒソヒソと何やら相談している。


相談が終わったのか、ハンカチでそのまま石を包み、差し出される。

「ん?」

受け取りながら何やら嫌な予感がする。

「ご主人様」

恐ろしく静かな声のマリ。

「常々ご主人様以上に偉大な存在はこの世に存在し得ないと我々は確信しておりました」

大きく頷く妹2人。

前提がおかしいが、突っ込まない。

話が荒れるから。

「しかし、ご主人様は我々の浅はかな想像を遥かに超えるお方でした」

そう話す目が怪しい。

とても静かだが、その内心が興奮で大騒ぎになっているのが伝わる。

迫力が凄いから。


「それはつまり、この石が何やら問題があると?」

「問題ではございません。ただ余りにも尊いのです。この石は『ベクレトリア』です」

「はあ? 綺麗な石だよね」

「古代、ミシテニア、マルキニス、ハルベイの三国が100年に及ぶ戦争をしたのはご存知でしょうか?」

「バセトレンジュ大陸を三分する大国による大決裂。獄炎の100年戦争だよね?」

「さすがでございます。そのきっかけはご存知ですか?」

「いや、知らない。ごめん」

「いえ、瑣末なことですのでご存知である必要もないのですが、失礼しました」

三姉妹がぴしりと腰を折る。

惚れ惚れするようなお辞儀だ。

「メルクという絶世の美女の取り合いだったと言われております」

「……理由からして地獄だね」

「はい。そのメルクという女性が婚姻したければ差し出せと求めた秘宝を巡って起こった戦です」

「ははぁ」

なるほどなぁ。

「はい。その差し出すよう求められたものが『ベクレトリア』です」

「それは、アレだね。大変なことになったね」

「はい。その際、争われたベクレトリア、銘を〖コイツェルの飛沫〗と呼ばれ、現在では北の大帝国『ガレンシア』の国宝ですが……」

「ガレンシアかぁ……また大物が出てきたねぇ」

ここバセトレンジュと細い海峡を挟んで広がる大陸『ディセー』。その9割を武力による支配で治めているという危険極まりない国だ。

欲しいなら殺して奪え!を地で行くヤツらである。


「『カインツェルの飛沫』は、直径1mmほどです」

「ん?」

「直径5mm程の歪な形のベクレトリアが国宝です」

丸まったハンカチを見下ろす。


「直径1.8cmの真球のベクレトリア。この存在が公になれば」

「世界大戦?」

いやいや。

ハッハッハと笑うが、3人とも真剣だ。


「ハッハッハ………どうしよう!?」

ゴミから何で作れてるんだよ!?

経緯がおかしいだろうが!


「ご安心下さいませ、ご主人様」

混乱する僕の手を柔らかな手が包む。

マリの優しい顔が近い。

ああ、心が落ち着く。

「この不肖マリがこのベクレトリアは責任を持って管理いたします。ですので、どうぞ私に御下賜下さいませ」

「え? いいの?」

マリのキラキラした顔に救われる。

「はい! もちろんで

「こら!」

「おい!」

そのマリの肩を後ろから掴むミチとエリ。

言葉遣いが乱れている。

「何、抜け駆けしようとしてるのよ!?」

「さりげなく自分のモノにしようとしてんじゃないわよ!?」

「何がよ!? 私が最適じゃない!?」

やいやいと争い始める3人。


この誰が管理するかのケンカはなかなか終わらず、最終的に後2つ改めて作るということで話が落ち着いた。

危うく大陸が比喩ではなく割れて沈む所だった。


見つかると戦争が起こる、とか言う割に3人とも隠すつもりは微塵もないらしく、むしろ見せびらかすように身に付けている。


……嬉しそうだから、まぁいいか。

あ!後。 美肌ローションはめちゃくちゃ良かった。



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