異国の料理?

 多くの観光客がさまざまな露店を巡っている。

 貝殻や木の実で作ったアクセサリー。

 見たことのない果物、日本で見たことがあるような果物、見たことのない料理、やっぱり日本で見たことがあるような料理。いろいろと目移りしてしまう。


「つむぎーいくわよー」


 カイリ様に呼ばれる。


「どう?この島は」


「キレイで穏やかで気分がとてもいいです。こんなところがあったんですね」


「気に入ってもらえたかしら?私たちのお気に入りのひとつなの」


「ありがとうございます。こんなに素晴らしい所へ連れてきていただいて。とても嬉しいです」


「いいのよ。ただ少しだけお仕事の相談もあるからそのときはよろしくね」


「はい。わかりました。こちらこそよろしくお願いいたします」


「ありがとう。それじゃまずは荷物を宿に置きにいきましょう。それから改めて外に出るわよ」


 宿までの道のりでめぼしいお店をキープしておく。狙いは食べ物と果物。カフェで出すメニューのヒントがあるかもしれない。

 到着した宿は豪華なホテル。ではなく。よく街中でみかける普通の宿。


「普通でびっくりした?私たちは寝るときにしか宿に来ないのよ。だから寝ることができればそれで十分なわけ」


「その分たくさん遊んで買い物して楽しむわよー?」


 カイリ様もマリーさんもすごく合理的。そしてこのパワー。ついていけるかが心配。部屋に荷物を預け繁華街へ行く。


「まずはごはんを食べましょうか。今日はなににする?マリー」


「そうね。せっかく紬がいるんですからなにかリクエストが聞きたいわ」


「私ですか?うーん。ここならではという現地の美味しいものが食べたいです」


「そうね……本当に現地の人が食べるようなものでもよいのかしら?」


「はい。ぜひとも!」


「それなら……あそこね」


「あそこかな?マリー。場所をおぼえている?」


「もちろん。こっちよ」


 マリーさんとカイリ様に手をつながれてそのまま少しだけ歩くと一軒の屋台の前に来た。


「ここよ!」


「あら。こんなに近かったのね」


「そうよ。やだわ。忘れちゃってて」


「ふふふ。ごめんなさいね。うっかりしていたわ」


「もう。カイリったら。ふふふ」


 ふたりともまったりしてとても似ている。姉妹というより双子に近い。


「紬ちゃん。ここよ」


「そう。ここがオススメのお店」


「屋台ですか。てっきり飲食店かと思っていたのでびっくりです」


「そりゃ美味しい高級なお店はあるわ。でもこういうところも美味しいじゃない」


「そうそう。気張らずに食べられるのがいいわよね」


 貴族や王族なのに庶民にとても近い。みんなに好かれる理由はこれなのかもしれない。


「ちなみにこれはなんという食べ物なのですか?」


「なんていうのかしら……ごめんなさいね。わからないわ。でもとても美味しいのよ。食べましょう。3つくださいな」


「そうそう。今回の旅の費用は全部出すから気にしないでどんどん注文してね」


「いえいえ!そういうわけには」


 といいかけたところでカイリ様に口を押さえられる。


「そういうときは、ありがとうございます。だけでいいのよ。あなたにはいろいろお世話になっているしね」


「そうよー遠慮しないでね」


「わかりました。カイリ様。マリーさん。ありがとうございます」


「あ、あと私も様じゃなくてさんでいいわよー」


「わかりました。カイリ……さん」


「ふふふ。いい子いい子」


 カイリさんに頭をなでられた。


 改めて注文をする。


 この屋台の食べ物は


 カツオのたたきみたいにあぶってある魚がダイス状になっている。その他にアボカド、ネギ、ゴマ油、しょうゆそれを混ぜ合わせてある具をごはんの上に乗っている。ただこれらは日本で言うところの材料なのでこの現地ではなにかさっぱりわけらない。見た目はポキ丼。。

 受け取ってテーブルに運ぶ。カイリさんとマリーさんも席についた。


「紬は飲み物はいいの?」


「あ、はい。お水で大丈夫です」


「あらそう?このごはんにはお酒が合うのよ」


「お疲れさまー。さぁこれからも頑張るわよー」 


「いただきますー」


「お疲れさまです。いただきます」


 まずカツオのタタキのような切り身を食べる。

 口いっぱいに薬味と調味料と絶妙なバランスの魚の味が広がる。ホロッとくずれるその先に弾力のある身。アボカドらしき野菜も一緒に食べる。ねっとりとした食感が合わさって魚のうまみをさらに引き出す。ごはんがどんどん進む感じ。

 ふたりを見るとポキ丼風のごはんに手をつけず飲み物を一気に飲み干している。


「はぁーーっ!美味しい!もう一杯買ってくるわね」


 よく見ると三杯目……たぶん。お酒。

 二人ともほろ酔いになりながらごはんを食べ始めた。


「どう?紬。美味しいでしょ?このお酒も美味しいのよ」


「そうそう紬は飲まないの?」


「飲めることは飲めるのですがそのあとどうなるかわからないのであまり飲まないようにしているのです」


「そっかー飲まないと強くならないわよー」


「マリーみたいに強くなりすぎるのもよくないわよ」


「そうね」


 と笑い合っている。あっという間にお酒とごはんを食べ終わると。


「さて!次はなにを食べましょうか」


「さっきは魚とごはんだったからお酒と合うおつまみ系かしら?」


 おつまみ……南国……イカとか貝の炉端焼きかなぁ……。


「ここはどう?」


 と言われた屋台にはカニとコロッケの絵が書いてある。カニクリームコロッケかな?注文をして席に座る。二人はまた飲み始める……。


「おまちどうさまでした」


  出されたものはやはりカニクリームコロッケに見える。


「いただきます」


 まず半分に割る。行儀は悪いけど片方をバラバラにしてみる。

 具材はカニのほぐし身、玉ねぎ、香草が目立つ。ジャガイモは入っていない。他はコロッケに似ているので牛乳、パン粉、マヨネーズが入っていると思う。


 ふと、会話がないことに気づき顔をあげると二人がこちらを見ていた。


「あ、ごめんなさい。せっかくのお料理を……」


「ううん。紬を連れてきてよかったわ」


「研究熱心というか。その探究心はとてもいいわよ」


「お店の何かいいヒントになるかしら?」


「はい。知らない料理や知らない食材がたくさんあってとても楽しいです」


「それはよかったわ。さぁ食べたらまだまだいくわよー」


 この旅行は新しいメニュー開発のためのくいだおれツアーになりそう。

 他には柑橘果物のジュースや梨のような果物を使ったパイなどを食べた。

 このあたりで暗くなってきたので宿へと戻る。


「紬。お疲れ様。大丈夫だった?」


「あ、カイリ様」


「様はやめてと言ったわよ?ふふふ」


「ごめんなさい。カイリさん。マリーさんはもう寝ましたか?」


「ええ。すっかり酔ってしまってすぐ寝たわ」


「おふたりともたくさん飲むのでびっくりしました」


「マリーも紬がいて嬉しかったのよ。で、どうだった?この国の料理は」


「はい。とても美味しいものばかりです。見たことのない物もたくさんですっごく楽しいです。ありがとうございます」


「よかったわ。それなら明日も行きたい。と言うところだけど、ちょっと会ってほしい方がいるの。いいかしら?といってももう会うことになっているからよろしくね」


「あ、はい。わかりました。大丈夫です」


「ありがとう。それじゃもう寝るだけだから……飲もうか!ちょっとでもいいから。お酒も美味しいわよ?」


「わかりました。せっかくですからね」


「さっすか。つむぎ!わかってるじゃなーい」


いつの間にか起きたマリーさんに抱きつかれる。


「さー。のむぞー」


こうして朝方まで飲み続けることになった……。


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