海外旅行
「こんにちは。紬ちゃんいるかしら?」
朝イチにそう言って入ってきたのはマリーさん。
「こんにちは。どうかされましたか?」
「ふふふ。前にお話したこと覚えているかしら?」
「前に話したことですか……?」
「やだ。忘れちゃってるの?ほらここの開店一周年のときにカイリ王妃と話してたじゃない。南の国へ旅行するときは一緒に行こうって」
「本気だったんですね……」
「モチロンよ。来週行くから予定を空けてね。2泊3日だからね」
そう言い残して帰っていってしまった。
「いくらなんでも強引すぎるわ……お店だってあるのに。ね?」
みんなに話を振るが
「いいんじゃない?お店はやっておくから。いってらっしゃーい」
とあっさり答えられた。こうしてこの世界へきてはじめての海外旅行へ行くことになった。
出発当日。マリーさんには着替えだけ持ってくるようにと言われたので本当にそれだけ用意してお店の前で待っている。
「「おはよー紬ちゃん!」」
挨拶と同時にマリーさんとカイリ様に抱きつかれた。
「おはようございます。カイリ様もご一緒なのですね」
「あら?言ってなかったかしら。いつも一緒だから言うの忘れてたわ」
ふたりは笑い合っている。
「おふたりとも本当に仲がよろしいのですね」
「そりゃそうよー姉妹ですもの」
「知らなかったです……」
「あら?そう?話すのを忘れてたわ」
また笑い合う。たしかにそっくり。
「それじゃあ。行きましょう」
「はい。それじゃみんなお店のことはよろしくね」
「オウ。たのしんでこいヨ」
「いってらっしゃいませ」
「オミヤゲヨロシク」
みんなに見送られて出発した。
しばらく歩いてると建物の間から港みたいなものが見えてきた。
「こんな所があったんですね。全然知らなかったです」
「そうね。普通の人は用事のない場所だから仕方ないわ」
「倉庫や工場や加工場しかないから業者の人以外はほとんどいないわね」
「それなら今日、どうやって行くかも知らないかしら?」
「ええと、あそこに見えている船ではないのですか?」
「ふふふ。そうね。たしかにあの船には乗るわ」
「楽しみにしててね。あ、お手洗いは先にすませておくのよ」
疑問に思いつつも手続きを済ませ乗船する。
どうみても普通の船。日本で例えるなら隅田川の屋台船のような感じ。
「そろそろ出発だから座ってね」
カイリ様とマリーさんの間に座る。
係員が安全ベルトのチェックや荷物の固定の確認をする。思いのほか厳重にしている。
「まもなく出発いたします。行き先はコチ国になります。お間違えのないようご確認お願いいたします。移動中は可能な限りご着席のままお過ごしください。移動時間は三時間となります。それではお気をつけて"空"の旅をお過ごしください」
「あの。カイリ様?マリーさん。いま、空の旅って言ったような気がしたのですが……」
急に船の周辺が暗くなる。
「あのー……」
「紬ちゃん。ちゃんと捕まっておくのよ?」
大きな振動。船が揺れる。船の左右に黒い何かが引っかかる。
光沢があり猫の爪のような形をしている。
次の瞬間。少し船が沈んだと思ったら上昇した。
バサッバサッ!いやもっと大きな音。羽ばたくというレベルじゃないほどの音。そのまま一気に上昇する。
「あ、あの……これって……」
「そっ。ドラゴンよ」
やっぱりーーーーという言葉とともに一気に加速して目的地へ飛び立った。お手洗いへ寄るのを忘れたまま……。
気を失うことはなかった。そっと目を開ける。飛んでいる高さは雲より下。羽ばたきで多少揺れるけど気にならない。それでも飛行機と違って機内?を歩くことはできなさそう。
快適ではないけど速度はかなり速そう。
残念ながら座席は真ん中あたりで眼下の様子がわからない……帰りは窓際をお願いしよう。
高所恐怖症だけど飛んでしまえば逆に怖くなかった。
無事にコチ国へ到着。トークオ王国とくらべ暑いけどカラッとしている気候。
「お疲れ様。大丈夫?紬ちゃん」
「はい。なんとか。驚きましたがなかなか楽しかったです」
「よかったわ。次は小型になって少し揺れやすいから気をつけてね」
小型の船に乗り換え少し小柄なドラゴンに目的地の島まで運んでもらう。
今度のは窓際。というかどの席からでも外が見えそう。コチ国から次の島まではあっという間。さっと海を飛び越えて終了してしまった。とてもきれいな海でした。
到着したのは有数なリゾート地のカワ島。
「うわぁキレイ」
思わず声がもれる。海がとても透明で波も穏やか。泳いでいる魚がすべて見える。今すぐにでも飛び込みたいくらい……無理だけど。
話は少しずれるけど私は高所恐怖症。
底が見えても見えなくても深い海も怖い。落ちないのだけど落ちる気がしてしまうから。
そして港を出るとそこはまさにリゾート地だった。
期待に胸を含まらせる。
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