ギルド訪問とこの世界
「ここがギルドですか。思っていたよりも大きいです」
「ソウカ?ワシはよくわからん」
デンさんと一緒にギルドにやってきた。中へ入ると広いロビーがあり両サイドに受付が並んでいる。奥の方には応接室や資料室などの入口がある。壁には世界地図のようなものが貼られていた。
「すみません。お尋ねしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「おはようございます。どうかされましたか?」
「おはようございます。ええと……。トウギさんからギルドが共有しているという資料があるからと言われまして、それを見に来たのですが……」
「あぁ。保護猫カフェの方ですか?。お話は伺っております。少々お待ちください」
彼女は後ろの机から資料を持ってきた。
「とりあえず一年分の資料になります。持ち出しはできませんのであちらの場所で閲覧してください」
「ありがとうございます。デンさんちょっと見てきますね」
「オウ。まってる」
早速目を通す。大きさはA3用紙くらい。二ヶ月くらいに一枚のペースで出ていた。内容としてはトウギさんの言う通り農作物の収穫量、狩猟の収穫量、近隣にいる危険生物の様子、国のイベント案内。これがどの国も共通して出す話題。ちなみにここトークオ王国の他に六カ国あるみたい。サホロ国、ナーゴ国、オーカサ国、コチ国、フクカ国、オキ国。王国なのか共和国なのか帝国なのかは記載されていない。規模もわからない。いつも出ている情報なので初見向けではないかな。
ロビーに世界地図があったのを思い出しそれと資料を見合わせる。世界地図の全体像はなんとなく日本の形に見えなくもない。国の名前もそれっぽかったし……。位置もなんとなく同じで地球に当てはめると、北極にサホロ国、本州のような大きな大陸が赤道を超えて広がり、その下にコチ国。隣にフクカ国。南極あたりにはオキ国の島々がある。
日本とこの世界は関わりがあってもおかしくない。内藤さんもこのことはわかっているはずだけどそんな話は一度もしたことがない。何かを隠している可能性もある。デンさんもなにか関係があるのかもしれない……。
たしか内藤さんが来たのは30年ほど前。それまでは普通の小国だったのにあっという間に発展した。そんなにうまくいくものだろうか?古い資料や歴史などの文献がないかを尋ねるもすぐには用意できないと言われてしまった。図書館があると言っていたので後日行くことにして資料室で再び調べ直す。
「つぐちゃんは勉強熱心だねぇ」
急に声をかけられる。びっくりして振り返るとそこには国王、内藤さんがいた。
「……。なにかご存知なのですか?」
内藤さんは少し笑みを浮かべながらゆらりゆらり近づいてくる。怖くて助けを呼びたいがデンさん近くにいない。
少し沈黙が続く……。
「似ているよね。地名や地図の形。日本に。話したよね。ボクも日本の東京から来たって。少しその話を聞いてくれるかな?」
「でも、デンさんが今いなくて」
「大丈夫。あとで伝えておくよ。奥の部屋へ行こうか」
そう言って半ば強引に奥の部屋へ連れて行かれた。
「てきとうに座ってね。コーヒーでいいかな? といっても簡単に淹れれるのはコーヒーしかないけど。……さてと、それじゃちょっと聞いてね」
コーヒーを渡すと彼は話し始めた。
「ボクがこの世界、この国に来たのはおおよそ三十年前。ボクがまだ二十歳の頃……いや、少し超えてたかな。中学卒業後ずっと自衛隊関係にいたけど二十歳で一般の大学へ通うことにしたんだ。
ある日、大学のゼミ帰り遅くなったからコンビニで弁当を買って帰っていたんだ。今でも覚えているよ。いつもならゼミ終わりでも遅くまで仲間と遊んでいるんだけどその日はたまたま早く帰ってね。うちのマンションの前まで来たら道路に猫が飛び出してね。で、とっさに体が動いてて案の定車が来てて轢かれたって。
そう思って目を開くとなーんもない原っぱに立ってる訳よ。車も猫もいなくて手にはコンビニで買った弁当しかないわけ。ゼミのオタクくんがよく言ってた転生ってやつかと思ってスマホを取り出して聞こうと思ったけど電波繋がらないし。腹減ったからとりあえず弁当食ってさ。歩くのもダルいからぼーっとしてたら助けた猫とは違う猫が居て、なんとなーく着いて行ったわけ。
少し歩いたら町があってさ。人いるじゃんと思ったけど日本人じゃないのよ。あ、これ令和の日本と違うわって。とりあえず話しかけたら不思議と会話ができるのよ。
迷子だからどうにかならないかって聞いたらギルドを紹介されてそこであの日本の形によく似た世界地図をみたのよ。国名も調べてあってちゃんとした地図だって。もうわけわかんなくてさ。とりあえず寝るとこ教えてもらって寝た。考えたら日本は夜だったし弁当も食べたからね。眠くなるよね。
んで次の日、もう一回地図見て考えてみたんだけど。やっぱわからなくてとりあえず暮らせるようにしないといけないってことで仕事と住むとこ紹介してもらってさ。力仕事には自信があったから雑用とか色んな仕事を片っ端からやっていたらお城からも仕事をもらえるようになってね。その頃にデンさんと知り合ったんだ。で、なんだかんだでいつの間にか王様になってつぐちゃんが来たって感じ」
話の内容としては内藤さんの経緯を教えてくれたのだが30年中29年分をなんだかんだで飛ばされてる。
「ええと、色々と聞きたいことが……」
「うん。なんなりと」
「自衛隊にいたのですか?」
「うん。高等工科学校っていうのがあってね。中学卒業してそこに通ったんだ。そこから自衛官候補生に進んで自衛官になった感じ」
「でその後に大学ですか」
「そっ。T大で経済系いってたの」
「すごいですね……」
「あれ? 三十年前に来たんですよね? でも令和って……」
「ん? そうだね三十年前はたしかに令和四年の何月だったかなーそこはすっかり忘れたよ」
「ちょっとまってください……私がこっちに来たときも令和四年だったんだけど……」
「へ? まじで? えー!? 同じ年に来たのになんでそんなに差があるの!?」
「いやいやいや私も知りたいですって」
「うーん。もしかすると日付も同じだったり。ごめんね。そこまでは覚えていないんだ。しかしこれは偶然じゃないよね」
「私、本当はデンさんや内藤さんがなにかこの転移に関わっているのかと思ってました」
「あーごめんね。それはまったくないわ。ボクもデンさんもなにもわかってないのよ。いや。面白い収穫があった。ちょっとボクの方でも調べてみるよ」
「わかりました。デンさんにはこのこと……」
「きいてイタゾ」
「デンさん……」
「すまナイナ。ワシもよくわからなくてナ」
転移に関係なければわからないのも無理もない。誤魔化しているならともかく。とりあえずまた後日会うことにして今日は帰ることにした。
そういえば、かなり衝撃的なことだったけど意識はなくならなかったな……。しかし頭の中は色々と考えが巡っている。
ふらふらしながらもデンさんに支えられ帰宅する。ごはんもお風呂も入らずにそのまま自室に籠もる。
内藤さんはなにも調べてなかったのかまったくわかっていない様子。わかったところで日本へ戻る選択肢はあるのか。同じ令和四年の四月に転移している。他にも転移者がいるのかも?
悶々としながらもカフェは営業をしないといけない。ナナさんやミキちゃん。ジェフさん、デンさんハチくん。シルフィさんにも誰にも話せず数日が過ぎた。
ずっとあの日のことが頭から離れないし考えも出てこない。様子がおかしいことにみんな気づいているけど気を使って誰もふれないでくれている。何をどう話したらいいのか本当にわからない。内藤さんはどうしているのだろうか……。
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