暖炉とモーニングとギルド

「さぁ今日も頑張ろう!」


 気合を入れてお店へと向かう。同じ敷地内だけど中庭を通るので外の寒さが身にしみる。季節はすっかり冬。


 この国にも四季がある。気候も日本にいたときとそれほど変わらない。雪はまだ降っていないけど少しは積もるらしい。


 街の中央に温度調節施設があって一年中快適に過ごせる温水を各家庭、お店などに供給している。足りないときは個々で追加の暖房を使う。うちは……暖炉を自宅のリビングとカフェで使っている。憧れていたからというのもある。


 暖炉の着火は火の魔法が込められた石を使う。ケースから取り出して専用の紙の上に置くと火がつくようになっている。紙がなくなると消えるので次回は新しい紙に乗せれば再利用できる優れものアイテム。


 薪の組み方は色々あるけど長持ちさせたいのでシンプルに横一列に並べるだけにしている。火をつけるとじわじわ暖まってくる。ついぼーっとしてしまう。少し暖まりみんなにごはんの準備をする。


 開店時間になり、カウンターの中でお客様をお出迎えする準備をしている。


 チリリン♪ お客様が入ってきて挨拶をする。


「いらっしゃいませ」


「いらっしゃいマセ」


「おぉ〜今日もケット・シー様は可愛いですのぉ。よろしくたのむよ」


「はい。ごゆっくりどうぞ」


 おじいさんが入ってきた。朝イチ常連さんのひとり。


「こんにちは。今日も寒いですね」


「そうじゃのう。寒くて敵わんわい」


「いつものホットコーヒーにしますか?」


「ありがとう。いただこうかのぅ」


「はい。かしこまりました。少々お待ちください」


 注文を受け、キッチンのジェフさんに伝票を渡す。その間に砂糖、ミルクなどカトラリーを用意して淹れ終わったコーヒーと一緒にテーブルまで運ぶ。


「熱いですから気をつけて下さいね」


「あぁ。あんがとう」


「あとこちらがモーニングのパンです。」


「いつもありがとう」


 東京でお店をやっていたのだけど出身は愛知県。愛知県名古屋より西、岐阜、一宮近隣を中心にモーニング文化がある。コーヒーを注文すると朝ごはんもついてくる。知らずに朝ごはんのメニューも注文してしまうとお昼ごはんが食べられない量になる。そういう喫茶店文化に慣れ親しんでいた。

 この国にきて食事の提供を始めたついでにモーニングをはじめた。といっても近所のパン屋さんのパンを温めて提供するだけだけ。


 そういえばこういうときって新聞を読む方が多い。


「シンブン?」


 デンさんが反応する。


「あっ独り言が出ちゃいましたか。ええと。私のいた国であったのですが、毎日、前日やそれまでにあった出来事を地域や国別に政治の話からご近所のお店の紹介とかいろんなことが書いてある物なんです。それを床に広げて読んでいるとその上に猫が乗ってきてくちゃくちゃになって読めないということがよくありました」


「毎日ではないがギルドで似たようなものはあるぞい」


 常連のおじいさんが会話に混ざってきた。


「あぁ。ギルドでは各国の情報を共有するからのぉ。定期的に国や地域の出来事をやりとりしておるんじゃ。内容としては交易のための農作物や狩猟や採掘などの収穫在庫状況。国や地域の祭り事のお知らせ。要人の訪問に関して。また魔物などの発生状況なども共有しておる。流石にお店の紹介などはしておらんけどなぁ」


「へぇお詳しいんですね。えぇと……」


「おぉ。自己紹介をしておらなんだな。ワシはこの地区のギルドマスターをしておるトウギじゃ」


「そうとは知らずに申し訳ございませんでした」


「よいよい、知らぬ方が普通じゃ。もし興味があればギルドにくるとよい。ある程度は閲覧できるようになっとるからの。それじゃまたくるからのぉごちそうさま」


 そう言ってトウギさんはお仕事へ向かっていった。


「ありがとうございました。またのご来店お待ちしております」


 お店が終わり、猫のお世話をナナさんにやってもらいカフェの暖炉の火を消す。この暖炉は魔法の火だから消すのは簡単。魔法石を取り出してケースにしまうだけ。あとは薪の燃えカスが残るのでホウキで集めて灰用のゴミ箱に入れる。明日のために発火用紙を敷いて薪を並べる。明日の朝は薪の隙間から紙の上に魔法石を置くだけ。薪はエルフのさんたちが見回りついでに集めてきてくれるのでみんなで分け合って使っている。


 自宅へ帰り一足先に戻っていたみんなと一緒に夕食。そのあとはお風呂。シャワーのみが一般的だったけど国王の内藤さんが湯船につかることを流行らせた。室温調整のお湯をそのまま使っている。


 お風呂から出ると暖炉の前へ。おうちの暖炉はシルフィさんがやってくてれる。コーヒーを飲みながらまったりする。特に何もすることもなく過ごして自室のベッドに入ろうとするが、そこにはすでに先客。今日はデンさんがいた。スヤスヤ寝ているのを邪魔しないようゆっくり端っこに入る。ふとギルドの共有情報のことを思い出す。


「デンさん。ちょっといいですか?」


「ンー? どうした?」


「明日ギルドに行ってみたいのですが一緒にいきませんか?」


「ワカッタ。いこう」


「ありがとうございます。起こしてごめんなさい。おやすみなさーい」


「おやすみ」


 ★登場人物

 

 トウギ:トークオ王国ギルドマスター


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