遭遇

 魔物討伐。討伐といっても追い払うだけ。出発して二時間ほど歩いたところで休憩となった。


「よし、ここらで野営の準備をするから手伝ってくれ」


「はい。わかりました」


 兵士さんたちがテントを張っている間、調理担当の方と一緒に食事の準備を始めた。といっても簡単に携帯食を食べながらお茶を飲むだけ。


「おや? これは? いい匂いですね」


「お疲れさまです。よかったらどうぞ」


「ありがとう。いただきます」


「ええ。簡単なものですが……」


 とサンドイッチを渡すとすぐに食べてくれた。


「美味しい! これキミが作ったのか?」


「はい。料理は好きなので」 


「そうですか。この具材は?」


「それはハムチーズサンドです」


「ほう? 俺にもくれ」


「似たようなものはあるけどこれは絶品だなー」


 他の兵士さんたちも寄ってきた。少し緊張が解けてみんなの顔がやわらぐ。


「そういえば昨日は食事中にアレが現れたんだよな」


「そうそう」


「あの時は焦ったよな」


 




 ガサッ。前方の草むらが揺れる。




 一瞬にして緊張が高まる。


 武器を取りいつでも応戦できるよう身構える。


 




 徐々に音が近づいてくる。




「大きいぞ!」




 さらに緊張が高まる。




 そして。




 音の主が現れる。




 狼でなく大きなヘビ。




 そのへびをくわえるケット・シーのデンさん。




 一同緊張が溶けてどっとその場に座り込んだ。


「デ、デンさん! なにしてるんですか!?」


「イヤナニ、キュウケイとイウカラショクジのジュンビヲしてキタんジャ」


「もー脅かさないでくださいよ! てっきり例の狼の魔物がでたと思ったじゃないですかー」


 みんな腰を抜かしたまま笑いあった。


「ソレはスマンカッタの。ソコにオルカラスッカリナカヨクナッタノカトオモッタワ」


 ソコ? 


 振り返ると……


「「「!!!」」」


 気づくとそこは森の中ではなかった。宙に浮かびながら移動している気分だ。雲の上? とてもモフモフしている。すごく気持ちいい。いい匂い。デンさんに乗せてもらってるのかな? 少しくらいならかいでもいいよね?ふんふん。あぁこれはたまらない。


「もうかぐのハやめてくれないか?」


 その声でわれに返る。声はデンさんじゃない。下から聞こえる。どうやら巨大な生物にのせてもらっているみたいだ。


 隣にいるデンさんが説明をしてくれた。


 今のせてもらっているのは狼ではなくフェンリルという妖精さんらしい。


 先程の話。


 デンさんに言われ後ろを振り返ると私達のお弁当を食べるフェンリルがいた。その大きさに驚いて気を失ってしまったらしい。

デンさんは昨日、フェンリルだということになんとなく気づいたらしい。ふたりは知り合いだった。


 昨日の一件は、野営中のごはんのいい匂いにつられてきたフェンリルに兵士さんが驚いて逃げまわって崖から落ちたりして怪我をしたとのことだった。

 襲う気は全くなかったのだけどこの体の大きさでは仕方ない……昨日の一件の状況説明などするためにお城へ同行することになった。途中で降ろしてもらい見届けてからお店へと戻った。


「ただいま戻りました」


「オーナーおかえりなさい」


「紬お姉様! おかえりなさい!」


「あら? デンさんは?」


「デンさんはちょっとお城へ寄ってくるのでまだ戻ってません」


「そうなのね」


 すると外から物音が聞こえたので見に行くとそこにはデンさんと兵士さんたちがいた。


「デンさんおかえりなさ……えっ!? どうしたのですか!?」


 デンさんのからだ中包帯だらけなのだ。


「アァコレハの……フェンリルとな」


「実は……」


 兵士の方が言うには。あのあとお城へ向かいデンさんがフェンリルさんのことを国王を丁寧に説明。フェンリルさんはずっと伏せて猛省していたのと誤解もあったため少しの罰で解決したのだ。

 報告が終わって外に出たところで、デンさんがかばってくれたことにフェンリルさんが感動して飛びついた結果、階段を踏み外してもつれ合いながら下まで行ってしまったらしい。ケガをさせてしまったフェンリルさんは伏せの状態で猛省していた。


「兵士さんここまでありがとうございました。国王様にもお礼をお伝え下さい」


「かしこまりました。フェンリル殿の罰についてはまた後日ケット・シー様にお伝えいたします。それでは失礼します」


 兵士さんを見送り


「さて、とりあえずふたりともお店へ入ろう。温かい飲み物をだすね。フェンリルさんは大きいね……どうしよう……」


「だいじょうぶ……デス」


 と言うと立ち上がりシュルシュルっと人の形になった。年は中学生くらい? 幼さが残る感じの美少年だった。つい眺めてしまったがこれなら大丈夫とお店へと案内した。


 ホットミルクをふたりに出すと美味しそうに飲んだ。


「当然のようにフェンリルさんを迎えてしまったけどよかったのかしら? デンさんがいるから大丈夫かな? それに罰って大丈夫なの?」


「ソウ、マズはワシのコト、ワシラノコトをハナソウカの」


 そう言って包帯をはずす。もう傷跡はない。ケット・シーは怪我をしてもすぐ治るそうだ。そして懐かしい思い出を話すようにゆっくり丁寧に教えてくれた。


 デンさんは元々この国の出身ではなくて違う国から来たこと。その国は人間と獣人が仲良く暮らしていて平和だったこと。しかしある日に突然大地震が起きてその影響で火山も爆発。それを抑えようとみんなで奮闘したのだけど困難を極めたくさんの人が亡くなってしまった。デンさんもその時に受けた大怪我で死んでしまったとのこと。

そのあと魂だけの存在になり、彷徨っていたときに彼、フェンリルと出会った。

フェンリルも同じように死んでしまい彷徨っていて、偶然出会い彷徨い続けていた。ある日彷徨うことにも疲れていたころにこの地に辿り着いた。そして生活をしているときに今の姿になったこと。


「そんなことがあったんですか……私と出会う前に……デンさんも苦労したんですね」


「ウム。しかしソノコトモもうワスレタヨ」


「それで私はどうしたらいいですか?」


「ソウジャの。ナニもシナクテよイ。タダ、コヤツをナカマにイレテやってくれ。ジツはバツのナイヨウはココデハタラクことラシイ。ワシからもタノム」


「わかりました。人の姿なら大丈夫でしょうし。国王やデンさんのお願いなら受け入れます。いつものようにしますね。皆さんもよろしくお願いいたします。フェンリルさん。そういうことみたいなのでよろしくね」


日々の日常が再びめぐりだした。  


 ★登場人物


 フェンリル:オオカミのような妖精。人型になれる。見た目は中学生くらい

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