ヒーラーデビュー

 今日は保護猫たちの予防接種や健康診断。かかりつけの治療院へやってきた。予防接種といっても魔法で病気にかかりにくくするみたい。


 元々大人しい子たちばかりなので病院はあまり苦労しないけれども、ケット・シーのデンさんがいるおかげで診察がさらにはかどる。


 どこが痛いとかどんな体調かなど自己申告になるのでピンポイントで処置ができる。


 魔法があるからといっても、いつも全身に治癒魔法をかけていると何かしらの副反応が出ることもあるみたい。薬と同じで用法用量を守らないといけないのかもしれない。小さい傷程度ならいいけどやりすぎなのはよくないので治癒することはなるべく控えるようにしている。


 みんなの体調に問題はなく大丈夫だった。


 最後の子の診察が終わったその時だった。急に院内が慌ただしくなった。


「どうかされましたか?」


「ああ。森の警備に出ていた兵士たちが魔物に襲われて怪我をしたらしいんだ。いまこちらへ運ばれている最中だ」


「魔物にですか!? 大変じゃないですか。邪魔になるといけないのですぐ帰りますね。」


「そうだ嬢ちゃん。簡単な治癒魔法ができたよな。軽傷の患者いたらみてやってもらえんかね? 大体、動物も人も一緒だから同じようにやれば大丈夫だからな」


「え、私がですか!? 本当にうちの猫たちにしかやってませんよ。あ、自分の切り傷とか治してた……」


「それで十分だ。状況次第で頼む」


 この治療院は動物だけではなく人外種族も診察できる。もちろん人用の治療院もあって、そちらでも人外種族はみてもらえる。混雑時に動物の治療院も使うことがあるらしい。


 すぐさま猫たちをお店へ届けて治療院へと戻った。ちょうど兵士たちが運ばれてくるところだった。人数はかなり多い。比較的、軽傷の方の治療を手伝うことになった。数人治療して次の方の治療しようとすると


「紬さん?」


 と声をかけられた。常連のエルフのティリさんだった。


「あんた。こんなこともできるのか。ありがとう」


「いえ、本当に簡単な治療だけですから……あの何があったのですか?」


「あぁ。実はな……」


 ティリさんや兵士さんの話では、いつもの見回り中、休憩していると突然狼のような大きな魔物に襲われたらしい。不意打ちだったこともあり体制を立て直すために逃げたところ崖から落ちて負傷した。


「それで、魔物は討伐されたのですか?」


「俺たちも逃げるのに必死だったし相手も逃げたようで……まだ見つかっていないんだ」


「そうなのですか……」


「あぁ。しかし心配には及ばん。すぐに追い払ってくれるわ」


 彼は治療が終わると他の兵士たちの様子をみて回り始めた。


 その後、軽傷者が何人かいた為、そちらの対応に追われることになった。治療が終わるとティリさんが声をかけてくれた。


「お疲れさま。紬さん」


「ティリさん。お疲れ様です。大丈夫ですか?」


「ありがとう。すっかりよくなったよ。まさか治癒魔法まで使えるとは思っていなかったよ」


「簡単なものだけですよ。それで次の捜索は決まったのですか?」


「あぁ治療が早く終わって装備も問題ないから明日行くみたいだ」


「そんな直ぐなんですか!?」


「あぁあれだけのヤツを放置している間に、ここにきたら大変なことになるしな。治癒師も同行して一気にかたをつける予定だ」


「それなら私もお手伝いします。みなさんの助けに少しでもなりたいんです」


「そりゃ治癒してくれる人は少しでも多いほうが助かるが……危ない魔物相手だからもしかすると守ってやれないかもしれないぞ?」


「はい。気をつけます」


「ナラ、ワシもイッショにイコウ」


「あれ? デンさんいつの間に」


「ウム。ソレと、チトキニナルんデノ」


「紬さん? こちらの猫さんは?」


「あぁケット・シー様です。守り神の」


「おお! ケット・シー様でしたか!? 大変ご無礼いたしました! ご同行していただけるとは大変心強い! ぜひともお願いいたします!」


 こうしてデンさんと一緒に魔物の討伐に同行することになった。デンさんの気になることとはなんだろう……。お店に戻り明日のことをナナさん、ジェフさん、ミキちゃんに話してお店のことをお願いしてきた。


 朝早く起きて準備をし、王都の門へ向かう。


「あれ?デンさん大きくなっている?」


「アァ。もりニハおそってクルヤツもいるからナ」


「大きいデンさん。素敵です。ちょっと失礼しますね」


「アァ、オイ! ヤメロ」


 デンさんの静止を聞かず目一杯抱きつく。たまらない。ずっとこの大きさでいい。


 そんなことをしているとティリさんたちがやってくる。


「みなさん。おはようございます」


「おう。紬さん。早いな」


「はい。今日はよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくな。おおう!? デン様。今日は大きいですね……。よ、よろしくお願いいたします」


「ウム。マカセテオケ」


「よし。じゃ出発するか」


 大きいデンさんやティリさんたちがいるとはいえ魔物と対面するのは初めて。気を引き締める。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る