里親希望者さん
ある日のこと。お店のドアベルが鳴り、一人の女性が来店してきた。
「こんにちわ。今日もいいかしら」
彼女も常連客のひとり。とてもお店を気に入ってくれている。
「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」
ナナさんは笑顔でお客様を出迎えるといつも通り注文を聞く。
「お決まりになりましたらお声掛けください」
「わかったわ……。あのねナナちゃん。あの……実は。あの猫ちゃんをおうちで飼いたいと思っているのですが……」
彼女が指差したのはナナさんが保護した子猫と母猫だった。
「あの親子ですか。ありがとうございます。ふたりで一緒に引き取っていただけるなんてうれしいです。少々お待ち下さい。オーナー呼びますね」
お店の猫たちは里親希望があれば申込用紙に記入をしていただき面談をする。その後、ご自宅に猫ちゃんを連れて行き、トライアルというお試し期間を数日から数週間過ごしてもらい問題なければ譲渡をしている。それは日本にいたときと同じスタイルだ。必要事項を書いてもらい伺う日時を決めた。ちょうど一週間後に連れて行く約束をした。
譲渡へ行く前にたくさんお客様やナナさんにふれあってもらう。目一杯遊びたくさんなでて新天地でも元気でいられるようにみんなで元気を注入した。
そしてお試し譲渡へ出発の日。
「じゃ、ナナさん行ってくるのでお留守番お願いします」
「はい、任せて下さい」
猫たちと挨拶を交わしナナさんに見送られ新しいおうちへと出かけた。
おうちに着くと猫ちゃんの説明や飼う場所をチェック。少しお話をして滞りなくお試し譲渡の手続きが終わりお店へ戻り引き続き営業を続けた。
ナナさんは少し寂しげだった。それもそうだろう。初めて保護した子たちだから沢山可愛がっていた。ナナさんは猫エリアへ行くとその場にしゃがみ込み猫たちに話しかけ始めた。
「キミたちにも素敵な家族がすぐ現れるからそれまで一緒に楽しく過ごそうね」
猫たちもそれに応えるように鳴き声を上げる。
「よし! それならもっと可愛がってあげますね」
ナナさんは立ち上がるといつも以上に張り切って接客を始めた。
それから数日が経ち、いつものように開店準備をしていた。そこにいつもより少し早くナナさんがやってきた。
「おはようございます。オーナー、ちょっといいですか?」
「はい、どうしました?」
ナナさんは猫エリアへ入りひとりの猫を抱き抱えてきた。
この子は日本にいたときからお店にいた子だ。三毛猫の可愛い女の子。名前はロコ。
「えぇ……もしオーナーがよろしければ私この子を飼おうと思うんです。居候の身でワガママかもしれませんが……」
「全然! 大丈夫ですよ。ナナさんになら安心して飼ってもらえるわ」
了承すると彼女は嬉しそうに笑った。
「にゃー」
ロコも嬉しそうに返事をする。
「よろしくね……ロコ」
ナナさんはロコを撫でながら優しい声で呼びかけた。ロコも気持ちよさそうな表情を浮かべている。きっと幸せな日々を過ごしていくに違いない。
「さて、そろそろお店オープンしましょうか。少しの間、ロコさんにはお店にいてもらってからおうちへいきましょう」
「はいっわかりました。ありがとうございます」
今日も私達はお客様を迎え入れる。
ここは癒しを求める人たちが集まる場所。
そして猫たちの家族を探す場所。
★登場人物
常連の女性:親子猫の里親さん。
ロコ:ナナさんに貰われた猫。
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