第3話:入都市検査

 気がつくと爽やかな風が吹き抜ける丘の上に立っていた。

 丘一面に丈の短い草が生い茂っている。

 傍らにいるのは……サクラなのか?


「みゃあああ」


「でかくなったなぁ!」


「みゃあああ」


 九尾の大山猫に転生させられると聞いていたから、地球のオオヤマネコと同じ大きさだと思っていたのだが、見事に裏切られた。


 マンモスとまではいわないが、バーバリライオンよりも遥かにでかいぞ!

 俺が乗った事のある、サラブレッドよりも遥かに大きい。

 サラブレッドでも体重が500キロ前後あるのだぞ。


 推測でしかないが、1トンを超える重種馬よりも大きいのではないか?

 これだけ大きいと、身体の使い方によるが、乗れるんじゃないか?

 

「みゃあああ」


「乗れっていうのか?」


「みゃあああ」


「分かった、分かった、だが馬具がないから毛をつかむ事になる。

 少し痛いかもしれないし、ゆっくり歩いてくれないと落ちるからな」


「みゃあああ」


 裸の九尾の大山猫、サクラに乗っているというのに、全く振動がない。

 振り落とされる恐れを全く感じない。

 サクラが気をつけてくれているからだろう。


「ありがとう、サクラ」


「みゃあああ」


「ステータス・オープン」


 都市につく前に、地獄の十三王から手に入れた能力を確かめてみた。

 審理が長引いた分、調べる時間もあったのだろう。

 ラノベやアニメの定番通りに使えた。


名前 :タカハシ・ショウ

年齢 :29歳

職業 :なし

レベル:9999

体力 :99999

魔力 :99999

攻撃力:99999

防御力:99999

俊敏性:99999

スキル:鑑定

   :アイテムボックス

   :所持金・1億5744万円

特例 :ネットスーパー

   :奉天市場

   :ママゾン

   :ヤホー

通知 :1件

地図 :切り替え


 レベルも各種ステータスもカンストしている気がする。

 やはり地獄で1万5000年くらい修行していたようだ。


 日曜学校で教わった話が本当なら、現世とあの世では時間の流れが違うと教えていたから、地獄で1万5000年修行したとしても現世では一瞬なのだろう。


 通知というのが気になる。

 どう考えても地獄の王達からの知らせに違いない。

 開きたくないが、開くしかない。


差出人:閻魔王

件名 :注意事項

詳細 :高橋翔、言語と文字は理解できるようにしてある。

   :だが、その世界全ての国や地方の常識を教える事はできなかった。

   :基本的な共通知識しか与えていない。

   :国や地方によって違う常識は、冒険者ギルドに入って学べ。

   :ギルドは完全独立組織ではなく、国や地方の有力者の影響を受けている。

   :それでも半官半民のような組織なので、ある程度の自由はある。

   :領主の影響力が少なくギルドメンバーに優しい都市を選んだ。

   :必ず冒険者ギルドに所属するように。

   :それと、都市に入るには入都市税が必要になる。

   :その都市は大銀貨1枚だから、前もって準備しておくように。

   :そうそう、店や宿によって使える貨幣が違っている。

   :金銀銅の全てを用意しておくように。


 閻魔大王は親切なのか不親切なのか分からないな。

 店側が受け取る貨幣を選べるというのなら、日本の江戸時代と同じだな。

 そうなると、金銀銅の相場が日々変動しているのか?


 だが、俺の頭の中にはある程度の貨幣知識がある。

 物凄く大雑把な比較だと分かってはいるが、定額貨幣だよな。


 ああ、そうか、パッと頭の中に浮かんだわ!

 ダンジョンでドロップされる硬貨が共通硬貨なんだ!

 ドロップである程度のモノが手に入るから、文明が発達しないんだ!


大金貨:30g:日本の物価で100万円

小金貨: 3g:日本の物価で10万円

大銀貨:30g:日本の物価で10万円

小銀貨: 3g:日本の物価で1万円

大銅貨:30g:日本の物価で1000円

小銅貨: 3g:日本の物価で100円


 今から行く都市の物価を教えておいてくれればいいのに、気が利かない。

 国や都市で大きく違うとは言っても、最初の場所くらいは教えておいてくれてもいいのに、不親切だな。


 常識的に考えて、普通の宿に泊まるなら小銀貨1枚くらいだろう。

 細々とした物は銅貨で売買する事になる。


 いや、中世ヨーロッパでも初期と後期では全然違うし、日本の江戸時代や中国の明清時代のような物価という可能性もある。


 予測し過ぎるのは良くないかもしれない。

 現実に合わせて対応するしかないな。


 入都市税が大銀貨1枚というのは高すぎる気がするが、危険なよそ者を排除するためだとしたら、仕方がないのかもしれない。


 念のために金貨は大金貨1枚だけ換金しておこう。

 銀貨は大銀貨9枚と小銀貨10枚。

 銅貨は大銅貨90枚と小銅貨100枚だ。


 財布も麻袋のないが、ポーチのようなものを身に付けている。

 背中には背嚢、バックパックを背負っている。

 何も入っていないのか、とても軽い。


「サクラ、少し止まってくれ。

 今更だが、今の自分の状態を確かめたい」


 思っていた以上に動揺していたのが分かった。

 サクラと周囲の状況は確認していたのに、自分が身に付けている物を、全く確認していなかった。


 何故だか分からないが、ズボンの上にロングスカートをはいている。

 あっ、ダンジョンなどで排便する時に恥ずかしくないようにか!

 疑問に思ったら思い出す知識って役に立つのか?


 裁縫が荒い革製の衣服が普通で、綿や麻などを原料をする布はとても高価なのか。

 なるほど、魔獣や猛獣が多いから、農業が難しいのか。

 それに伴って穀物や野菜が高く、肉が安いのだな。


 ウエストポーチもバックパックも空だが、そこから取り出したように見せかけて、アイテムボックスからお金や物を出し入れすればいいのか。


 画面を切り替えたら地図が表示されるのも助かる。

 方向音痴の俺には絶対に必要な機能だ。

 最初は文句を言ってしまったが、閻魔大王には感謝しなければいけない。


「待たせて悪かったね、都市に向かってくれるかい?」


「みゃあああ」


 小一時間ほど色々と試した後で、俺はサクラに進むようにお願いした。

 サクラは軽快に走り出してくれた。

 マップで確認したが、小山を越えた直ぐ先に目的の都市があった。


「止まれ、お前は何者だ?!」


「冒険者に成りたくてやってきた田舎者です」


 とても頑丈に見える、木と鉄で造られた城門の前には、物々しい鉄の装備を身に付けた門番が、左右に二人立っている。


 城門の中にも内側にも門番がいる。

 何かあった場合は、直ぐに城門を閉めて都市を守れるようにしている。


「田舎者だと、ただの田舎者が、そのような見た事もない従魔を連れているか!」


「そうは言われましても、子供の頃から家で飼っていたので、特別な従魔だとは思ってもいませんでした」


「なに、家で飼っていただと、そのような魔獣を家で飼うなどありえん!」


「そんな事を言われても、嘘をつくわけにはいきません」


「嘘を言っているようには見えないが……本当に他の国や都市で冒険者登録した事もないのだな!?」


「ありません、ここで初めて登録する予定です」


「この都市を拠点にして活動するのだな?」


「住み難くなければ、この都市を拠点にさせていただくつもりですが、何か問題でもあるのですか?」


「普通なら、正体の分からない魔獣を連れた者を城壁の中に入れる訳にはいかない。

 だが、ここを拠点に活動するというのなら、大きな利があるかもしれない。

 俺達だけでは判断できないから、上司と冒険者ギルドの幹部を呼ぶ。

 大人しく待っていろ」


 都市を護るためだから仕方がないとは思うが、偉そうに言われるは腹が立つ。

 文句の一つも言って立ち去りたいのだが、閻魔大王からのメッセージがある。

 この都市で学ぶことがあるのが分かっているから、我慢するしかない。


「ああ、それと、ここで商売する気なら荷物を改める。

 入都市税とは別に、商品の四割を税金として徴収する」


「商売をしないなら、何を持ち込んでもいいのですか?」


「禁制品以外なら何を持ち込んでも構わない。

 ただし、嘘を言って持ち込んだものを売ったら、全ての持ち物を没収されるだけではすまないぞ!

 奴隷に落とされて、死ぬまで危険なダンジョンで働く事になるぞ!」


「嘘などつきませんよ。

 ですがそれは全ての商人に適用されるのですか?

 それでは商人が育たないでしょう?」


「バカヤロウ、商人がどれだけ儲けたなんて誰にも分からないのだぞ!

 商品を持ち込んだ際に税金を取らなければ、お前が成る気でいる冒険者や農民に不公平だろうが!」


 なるほど、冒険者は斃した魔獣や猛獣、採取した物の四割を税に納め、農民は収穫した作物の四割を税に納めるのだな。


 しかし、全てに領民に何らかの四割負担を強いるとなると、商品が全て馬鹿高くなると思うのだが、大丈夫なのか?

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