第4話:冒険者ギルド

「ここが冒険者ギルドの本部だ。

 ここに来るまでに話させてもらった事は基本中の基本だ。

 細かい事が聞きたければ、飲食部でチップを払って聞いてくれ」


 俺とサクラは、何とか都市に入る事が認められた。

 冒険者ギルドのマスターが、責任を持って見張ると約束してくれたお陰だ。

 それなければ、サクラを危険視した門番の上司に追い返されていただろう。


「分かりました。

 お金はそれなりに有るので、職員にただ働きさせないようにします。

 それにしても、ギルドハウスは僕が使った門の反対側にあったのですね。

 わざわざ来ていただいてありがとうございます」


 冒険者ギルドの建物は、俺とサクラが入って来た城門の反対側にあった。

 俺とサクラが使ったのが南門で、冒険者ギルドのあるのが北門だそうだ。


 この都市は三重の構造になっているようで、中央部に領主の住む城区域。

 その外側に家臣である騎士や徒士が住む家臣区域がある。


 俺達のような平民が住むのは、ドーナツ状の領民区域になる。

 その所為で、都市防壁の内側を周って遠回りの移動をしなければいけなかった。

 日本の都市のように広さではないので、それほど苦にはならなかったけど。


 まあ、凶暴な獣や魔獣から人々を守るには、高く厚い防壁が必要だし、防壁を護る騎士や徒士、冒険者を結構な密度で配置する必要がある。

 だからどうしても、限られた面積の中に人を押し込む都市構造になるのだろう。


「気にしなくていい。

 こちらとしても有望な冒険者はどうしても確保したいのだ。

 わざわざ来てくれたのに、門番の所為で他所のギルドに行かれたら大損だ」


 そう言って笑うギルドマスターは、この都市でもかなりの有力者なのだろう。

 領主直属の家臣である門番の上司に、命令口調で話していた。

 筋骨隆々の見るからに戦士という姿からも、その実力がうかがえる。


 閻魔大王のお知らせに有った、冒険者ギルドが半官半民というのが本当なら、マスターは領主が送り込んだ重臣なのだろう


「そう言ってもらえるのは光栄ですが、本当に何も知らない田舎者なのです。

 サクラが強大な魔獣という話なのですが、本当なのですか?」


 ギルドマスターが直接教えてくれるうちにできるだけ情報を引き出そうとした。

 突き放されるかもしれないと思っていたのだが、親切に教えてくれた。


「ああ、本当だ、間違いないと思う。

 500年ほど前の文献に記録があるのだが、大山猫を十五年愛情を込めて飼うと尻尾が二股になり、大山猫又になるという」


 親切に説明してくれるが、マスターともなると色々と忙しいのだろう。

 足早にギルドに向かう間に説明してくれる。


「家のサクラは九本の尻尾がありますが……」


「まあ待て、まだ話は終わっていない」


「はぁ」


「その文献には、更に十五年、都合三十年大山猫を愛情を込めて飼うと、尻尾が三又となって大山猫魈となり、同時に三つの魔術を使えるようになるとある」


「家のサクラは最初から尻尾が九つありました。

 全く別の生き物なのではありませんか?」


「ああ、その可能性がないわけではない。

 だが、普通に考えれば、百三十五年生きた大山猫だと考えられるだろう?

 そして、尻尾が九つもあれば、同時に九つの魔術が使えるのではないか?」


「想像だけで強いと判断されたのですか?」


「冒険者ギルドのマスターは、それほどお気楽な性格では務まらないさ。

 ちゃんと実戦で確認させてもらうよ」


「はあ、そういう事ですか」


「そういう事だよ。

 最初は一番下の木片級冒険者として登録してもらう。

 指導役として、このギルドで一番腕利きの冒険者を付ける。

 そいつの査定によって、銀級までの階級に振り分ける」


「木片級ですか?

 入ったばかりの見習は、簡単に手に入る木でギルドカードが作られているから、そういう呼び方をするのですか?」


「よく分かったな、これが木でできているのが木片級だ」


 ギルドマスターが首からかけていた自分の金片を見せてくれた。


「木片級の上、鉄片級は鉄で造られているし、銅片級は銅で造られている。

 どの階級も初級、中級、上級の三段階があるから、銀片級になれるのは百人に一人くらいで、田舎の小さなギルドだと十人もいない。

 いや、銀片級に成れたら田舎から稼げる所に移動する奴が多いから、銀片級が一人もいなくなってしまうギルドもある。

 家のような、近くにダンジョンと魔境の両方がある大きなギルドでも、百人程度しかいない」


「話を聞いていますと、銀片級に成れたら尊敬されるのですか?」


「流石に尊敬されるとまではいかない。

 尊敬されるのは、万人に一人と言われる金片級からだな。

 銀片級は一人前の冒険者と思われる程度だ。

 もっとも、銅片級の中級や上級でも十分食べて行ける。

 女房子供のいる冒険者は、無理をせずに確実に狩れる獲物を狙うからな。

 銀片級昇格に必要な、強力な魔獣討伐を拒否する者も多い」


「俺もそれが正しいと思います。

 名声を得ても死んでしまったら何にもなりません。

 まして女房子供を泣かせるようでは半人前以下です」


「手厳しいが、その通りだ。

 ギルドとしても、無謀な挑戦をして死んでしまう冒険者よりも、確実にコツコツと魔獣や猛獣を狩って、都市を潤してくれる冒険者を望んでいる」


「だったら僕にも無理はさせないですよね?」


「ああ、無理などさせない。

 数少ない金片級冒険者を指導役につけるが、金片級冒険者を付けるほどの力量がないと分かれば、直ぐに指導を中止する」


「それを聞いて安心しました。

 それと、念のために聞いておきたいのですが、金片級が冒険者ランクの最上位なのですか?」


「いや、過去には白金片級や魔鉄片級、魔銅級や魔銀級といったランクもあったのだが、今では条件を達成できる冒険者がいないのだ」


「それは、この国がという事ですか?

 それとも、この領地がという事ですか?」


「嫌な事を聞くなぁ~」


「すみません、田舎者で礼儀を知らいないもので、ごめんなさい」


「まあ、いい、受け入れなければいけない現実だ。

 領地と国の両方だ。

 嫌な事を聞かれる前に言っておくが、他の国には白金級がいるそうだが、魔鉄級以上は大陸の何処を探してもいない」


「そうなのですね、教えてくださってありがとうございます」


「気にするな、その大山猫魈に期待して、通常とは違う指導をするのだ。

 多少の手間はかける。

 ああ、それと、ギルドマスターとして正式な冒険者レベル称号を教えたが、普通は片などつけずに、木級や鉄級と呼んでいるから、君もそう呼ぶように」


「分かりました」


 そんな話しをしているうちに冒険者ギルドのマスター室に到着しただけでなく、必要な書類へのサインまで終わっていた。

 あれよあれよという間に初ダンジョン入りする手続きか終わってしまった。


「俺がお前の指導をする金級冒険者のポルトスだ。

 さっさと済ませるからついて来い」


 マスター室に入って来た、ひと目で力自慢だと分かる巨躯の男が言ってきた。


木級:ギルドメンバーの認識票が木製

  :見習中の冒険者とも言えない者に与えられる。

  :初級、中級、上級があり、昇級時には木片に印を加える。

  :中級になるには牙兎級を5匹以上斃す必要がある

  :上級になるには牙兎級を10匹斃す必要がある。


鉄級:見習を終えた駆け出しギルドメンバーに与えられる。

  :初級、中級、上級があり、昇級時には鉄片に印を加える。

  :初級になるには灰牙鼠級50匹か赤角兎級を3匹斃す必要がある。

  :中級になるには灰牙鼠級100匹か赤角兎級を6匹斃す必要がある。

  :上級になるには赤角兎級20匹か灰角鼠級を1匹斃す必要がある。


銅級:最低限の魔獣を狩れるようになったギルドメンバーに与えられる。

  :初級、中級、上級があり、昇級時には銅片に印を加える。

  :初級になるには灰角鼠級10匹か灰魔兎級を1頭斃す必要がある。

  :中級になるには灰魔兎級10頭を斃す必要がある。

  :上級になるには灰魔兎級100頭か灰魔豹級を1頭斃す必要がある。


銀級:一人前と認められたギルドメンバーに与えられる。

  :初級、中級、上級があり、銀片に印を加える事で昇級

  :初級になるには灰魔豹級10頭か灰魔猪級を1頭斃す必要がある。

  :中級になるには灰魔猪級10頭か灰魔鹿級を1頭斃す必要がある。

  :上級になるには灰魔鹿級10頭か灰魔熊級を1頭斃す必要がある。


金級:一流と認められたギルドメンバーに与えられる。

  :初級、中級、上級があり、金片に印を加える事で昇級

  :初級になるには灰魔熊級10頭か茶魔熊級を1頭斃す必要がある。

  :中級になるには茶魔熊級10頭か赤魔熊級を1頭斃す必要がある。

  :上級になるには赤魔熊級10頭か灰魔蛇級を1頭斃す必要がある。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る