第2話:プロローグ2:修行と転生転移
内心もっと早く審理を終えてくれると思っていたのだが、本当に32年間も時間をかけるとは、俺が余計な交渉をした事で怒らせてしまったのかもしれない。
だが、32年の年月は無駄ではない。
地獄にいた多くの剣豪や武士、剣闘士や騎士に武術を教えてもらえた。
黒縄地獄だけでも1000年、大叫喚地獄の8000年。
殺人を重ねるのが当たり前の、剣豪や武士、剣闘士や騎士は全員地獄にいたのだから、どのような武器の扱いでも教えてもらえた。
宮本武蔵の二天一流を学んだ。
塚原卜伝からは鹿島神道流を学んだ。
上泉信綱には新陰流を教えてもらった。
中国出身者からは、大好きな呂布、関羽、張飛、趙雲、馬超、黄忠、項羽、岳飛、尉遅、楊大眼、韓世忠、檀道済、蕭摩訶、衛青、典韋から学ばせてもらった。
現世の歴史的に近い人では、八極拳の李書文からも学んだ。
もちろん個人的な武勇だけでなく戦略戦術も大切なので、それも少しは学んだが、地獄の責め苦の中で勉強するのは難しかった。
西洋の剣闘士や騎士にも教えてもらえた。
ドナルド・マクベインとジョゼフ・ブローニュ・シュヴァリエ・ド・サン=ジョルジュ、エル・シッドからはフェンシングを学んだ。
アキーレ・マロッツォからは、ダガー、両手剣、盾などの武具の扱い方だけでなく、格闘術や寝技まで教えてもらえた。
那須与一のような、弓術が大切にされていた時代の武士はもちろん、イングランド長弓兵やモンゴル弓騎兵からは、弓術を学んだ。
こうして書いて説明できた人数などほんの少しだ。
有史以来、名の知れた武人は数限りなくいる。
発明された武器も数え切れない。
その数えきれない武器全てに精通しようと思えば、一つの武器に十年二十年、いや、凡才お俺では百年はかかったかもしれない。
今こうして思い出すと、地獄にいたのは32年と言われたが、とてもそんな短い年月だったとは思えない。
地獄と現世では時間の流れが全く違うというのを忘れてしまっていた。
修行が面白過ぎて夢中になっていたから、時間の事など忘れていた。
少なくとも1000年、いや、1万5000年は地獄で修業していたのではないだろうか?
もう普通にこの世界で輪廻転生した方が良いのではないか?
そう思ってしまうくらいの月日が経ってしまっていた。
★★★★★★
「ようやく皆の意見を統一する事ができた」
今日は十三人もの地獄の王が椅子に座っている。
しかも、一段高くなった壇上で椅子に座っているのだ!
一方俺は、御白州に正座させられている。
なんやねん、この待遇は!
「秦広王、俺は罪人になったのか?!」
「罪人ではない、が、身分差がある。
地獄に一時滞在している人間と地獄の王では身分が違う」
「仏とは思えない発言ですね!」
「尊格の本地と地獄での役割は違うのだよ」
「そう言われてしまっては、もうこれ以上言う事はありません。
それで、俺はどうなるのですか?
サクラと一緒に異世界に行けるのですか?」
俺は地獄でも一緒だったサクラを抱きしめた。
「みゃあああ」
サクラも同じ思いだと言ってくれいるはずだ!
「高橋翔、お前を異世界に転生させる事は随分と前に決まっていた。
問題となっていたのは、どれほどの保証補填をするかだ。
ようやくその条件が決まったので、転移させる事になったのだ」
「転生ではなく転移なのですね」
「そうだ、せっかく地獄で鍛えた身体を失うのは嫌であろう?」
「はい、嫌ですね」
「向こうの世界は、高橋翔の望んだ剣と魔法の世界だ。
魔術に関しては無敵の才能は与えられないが、現世の知識と経験を上手く使えば、どうにかなるようにしてある。
それに、地獄で鍛えた身体があれば魔法が必要とは思えない。
問題はサクラの件なのだが、向こうの世界には猫がいない。
そこでサクラを転生させるにあたり、魔法の才能に恵まれた猫に近い動物に転生させる事にした」
「みゃあああ」
「サクラが納得しているようなので、文句はありません。
ただ、先に出していた衣食住のレベルを日本基準にして、俺が受け取れるはずだった、豊かで便利で安全な生活の保障はどうなるのですか?」
「それで揉めに揉めたのだ!
なかなか意見の一致が見られず、これほど長くかかってしまった。
今回は地獄の失態だから、特例中の特例だ。
もう二度とこのような大盤振る舞いはないと思え!」
「そんなにハードルを上げて大丈夫ですか?
ちゃちな保証だったら思いっきり文句を言いますよ」
「ふん、聞いて驚くな。
現世で高橋翔が愛用していた、奉天市場などのネット環境を使えるようにしてやったぞ」
「まさかとは思いますが、地球のモノを異世界でも買えるのですか?」
「そうだ、恩に着ろ」
「対価は何になっているのですか?
異世界に日本の通貨などありませんよね?
向こうの通貨を大量に使ってしまったら、異世界の経済が破綻しませんか?」
「そこも色々問題になったのだ!
それでなくても金属の精錬や鋳造が未発達なのだ。
最低額面の小銅貨でも、日本円の百円に匹敵するのだぞ。
とてもではないが、異世界の通貨で地球のモノは買わせられない。
そこで、異世界で退治して欲しい魔獣や猛獣を我らが買い取る事にした」
「……異世界で退治して欲しい?
秦広王、地獄はこの期に及んで俺を利用しようとしていませんか?!」
「利用する気などない!
これは正々堂々とした交渉だ。
高橋翔が断りたいのなら、よろこんで受け入れよう。
もうある程度地獄での償いが終わっているから、現世に輪廻転生させてもいい」
「腹立つなぁ~
俺の望みを見抜いているくせに、そんな言い方するかな!
だけど、ここで断ったら地獄で修業した意味が何もなくなってしまう。
断らないのを分かっていて、余計な仕事を押し付けるか?!
だったら、俺が現世に残した財産は絶対に保証してくださいよ。
現金はもちろん家や土地、死亡保険分も異世界の通貨で保証してもらいます。
異世界行って直ぐに餓死するなんて嫌ですからね!」
「……地獄で修業した身体だぞ、そう簡単に死ぬか!
向こうの世界で恐れられている魔獣でも殴り殺せる身体だぞ!」
「以前口にしましたから、仏になる修行はします。
ですが、貴方達が期待しているような戦いや狩りはしません!
誰が好き好んで、間違えて人間を殺した地獄の王達に、好き勝手に使われるというのですか!」
秦広王の尊格本地は不動明王だから、俺に同情はしてくれてはいても、基本は武闘派なのかもしれないな。
「秦広王、高橋翔の言う通りだ。
今回の事は全て地獄側の落ち度だ。
これほど長く地獄で過ごさせてしまったのも、愚かで身勝手な王達が地獄の失敗をなかなか認めなかったからだ。
これ以上高橋翔を苦しめるような事があれば、尊格の本地によって我々が地獄に落とされても仕方がいないのだぞ!」
「閻魔……」
閻魔大王が俺に味方してくれるようだ。
「他も者達も文句はないな?!」
「閻魔がそこまで言うのなら、我は何も言うまい」
「失敗したのは我の配下ではないが、償うのは当然の事だ」
「言いたい事は色々あるが、本地の尊格が許してくれないのは分かる」
「我はこのまま輪廻転生させるべきだと思うが、決には従おう」
「では、地球の品物を異世界の物品と高橋翔の遺産で買えるようにする。
サクラは九尾の大山猫として転生させる。
異世界全ての言語と文字に精通させる。
遺産と保険金合わせて1億5744万円を保証する」
「方々も高橋翔もこれで良いな」
「「「「「よかろう」」」」」
「かまいません」
「みゃあああ」
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