地獄の手違いで殺されてしまったが、地獄の十王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全

第1章

第1話:プロローグ1・死と交渉と転生転移

 ゴォオオオオ!

 目の前に迫ってくる大型トレーラー!

 前にいるクソガキ共の会話に怒りを感じ、注意力が散漫になっていた。


 同級生を虐め殺した話を自慢げにしていた連中がはねられていく。

 命懸けで天罰を下してやろうと思っていた男の頭が破裂した。


 虐め殺した同級生の死に様を嘲笑った女が、タイヤに踏み潰される。

 他の虐め連中も、1人残らずはね飛ばされ、ひき殺されていく。


 ざまあみさらせ、と大声で叫びたい。

 こんな連中に天罰を与える神様によくやったと言ってやりたいが、ダメだ。


 なんで何の関係もない俺を巻き込むな!

 いや、俺だけならまだ我慢してやる。

 俺も人間だから、無意識に誰かを傷つけているかもしれない。


 だが、何の罪もないサクラまで巻き込むとは何事か!

 すまん、サクラ、こんな事なら動物病院に連れて行かなければよかった。


★★★★★★


「高橋翔、起きてくれ」


「あ、はい!」


 俺は何事かと飛び起きた。

 起きた途端、大型トレーラーにはねられた事を思い出した。


「みゃあ!」


「おお、サクラ、生きていたのか?!

 あれは夢だったのか?」


 俺は、胸の上で香箱座りをしているサクラに話しかけた。


「すまぬがあれは現実だ」


 俺とサクラ以外に、誰かいるのに気がついたが飛び起きたりはしない。

 サクラが驚かないように、優しくゆっくりと胸の上から降ろしてからだ。


「うっわ!」


 思わず驚きの声をあげてしまった!

 俺とサクラから少し離れた場所に、恐ろしい顔の巨人達がいる!


「驚くのは無理もない、だが、落ち着いて話を聞いてほしい。

 高橋翔、君が死んだ事は間違いのない事実だ」


「……そうなのですか、それは仕方ありませんね。

 偶然の事故、運命ならどうしようもありません」


 俺がそう言うと、俺に話しかけていた巨人だけでなく、他の巨人達も苦虫を噛み潰したような表情になった。


 何かおかしい!

 ここが俺の知る死後の世界なら、最初に俺を裁くのは地獄の泰広王、不動明王だけのはずだ。


 一人二人三人……十人、これは明らかにおかしい。

 現世に伝えられている地獄の裁判は、通常七王だけで行われる。


 七回の審理で決められない難しいケースだけ、平等王、都市王、五道転輪王が加わって再審理が行われる。


 だが、再審理は救済措置として行われるだけで、普通は四十九日に行われる泰山王の審理が終わったら、どこかの地獄に送られるはずだ。


「高橋翔の考えている通りだ。

 普通なら、初七日に行われる我の審理に、十王が揃って加わるのは、今回の高橋翔の死が異常事態だからだ」


「……何か手違いがあって、死ぬはずのない俺が死んでしまったという事ですか?」


「よく分かったな」


「俺がよく読んでいたライトノベルでは定番ですから」


「現世の小説通りの事故が地獄で起きてしまったのだ、前代未聞の不祥事だ!」


 泰広王以外の王が吐き捨てるように言った。

 罰当たりな俺は、小説を書くための知識はあるが、信仰心は全くない。

 だから姿形で誰が何王なのかさっぱりわからない。


「我が誰なのかなどどうでもいい。

 問題はお前、高橋翔の処遇だ!」


 さっきから心の中まで覗いて返事しやがる。

 地獄の王なら、人間のプライバシーなど知った事ではないというのか!


「ライトノベルによくあるパターンだと、俺の身体はもう焼かれてしまっていて、生き返らせる訳にはいかないのですね」


「その通りである!」


 名前の分からない王が答えてくれる。

 生き返らせてもらえないのなら他の保証をしてもらうべきだ。

 だが、この様子だと一筋縄ではいかないのだろうな。


「その通りだ、こちらの手違いで死なせてしまったとはいえ、倶生神からの獄録を見れば、天国に送るわけにもいかぬ。

 かと言って、地獄に送るわけにもいかないから困っておるのだ!」


「ラノベによくあるのは、チートを与えて異世界に転生させる、ですが?」


「この世界の輪廻転生から外れてもいいというのか?」


「異世界で死んでから、もう一度審理する、ではいけないのですか?」


「ちょっと待っておれ」


「ああ、もう一つ、小野篁のように地獄で働かせてもらってもいいのですよ?」


「高橋翔が小野篁のように優秀ならその方法もあった。

 だが、高橋翔の能力では下級極卒も務めさせられぬ。

 今回の失態も、人手不足を解消しようと、能力のない者に役目を任せた事が原因なのだ!」


 初七日担当の泰広王が答えてくれた。


「審理に時間が掛かるようでしたら、転生させてもらえた後の事を考えて、勉強をしたり身体を鍛えたりしたいのですが、駄目ですか?」


「もう転生する事が前提なのか?」


「いえ、そんな事はありませんが、今回は地獄の失態ですから、何らかの補填くらいはしてくれると思っているだけです。

 多くの人間を裁いて地獄に送っておられる王の方々が、自分達の失敗を棚に上げて、これからも人間を地獄の送り続けるとは思えませんから」


「……言うのう、我らが怖くないのか?」


「公明正大な方々だから、地獄の審理を任されておられるのでしょう?

 少なくとも、俺が全うするはずだった寿命分は、現世で仏になる機会を与えてくださるはずです。

 現世で得られるはずだった生活レベル、衣食住を保証してくださるはずです。

 俺だけではなく、サクラにもね」


「異世界での行動次第では、今地獄に落ちるよりも長く苦しい地獄生活になるかもしれないが、それでもいいのか?」


「記憶と知識を残して転生や転移をさせてもらえたら、特に今回の件を覚えていたら、お天道様に恥ずかしくない生き方をします」


「その言葉、忘れるではないぞ」


「はい」


 俺を前にして地獄の十王が頭を寄せて話し合っている。

 中には俺に事を見ながら怒っている王もいるが、それは一人だ。

 ほとんどの王は苦しそうな表情をしている。


 地獄の十王といえば、尊格の本地は六菩薩と三如来に不動明王だ。

 少々文句を言っても大丈夫だと思ったのだが……

 地獄の王としての振る舞いが優先されるのだろうか?


「審理が定まるまで、等活地獄で戦いの鍛錬をするがいい。

 異世界に転生する事に成ったら役に立つ。

 極卒に技を教えるように命じておく」


  泰広王こと不動明王が、十王を代表して話してくれる。


「等活地獄にいる日数は、次に地獄の落ちる時の前払いにしてください」


「抜け目ないな、よろしい、前払い扱いにしてやる。

 ならば他の七地獄も回るか?

 死傷に対する痛み耐性が得られるだけでなく、素早さも得られるぞ」


「痛みに対する耐性だけでなく、異世界で受ける攻撃をものともしない防御力が得られるのなら、前払い扱いで巡らせていただきます」


「十王だけでなく、十三王全員が協議する場合は、三十三回忌32年かかる。

 それだけの長さに渡って地獄を巡る事になるが、それでもいいのか?」


「構いません。

 清廉潔白に生きてきたとは言い切れない身です。

 黒縄地獄だけで1000年。

 大叫喚地獄の8000年と灼熱地獄の6000年が加わったら、三つの地獄だけで1万5000年も苦しむ事になるのです。

 32年くらいなら、前払いしておいても損にはなりません」


「できるだけ早く結論を出すが、悪いようにはしないと約束しよう」


 泰広王は俺に同情してくれているようだ。

 だったら、一番大切なお願いを頼む相手は泰広王しかいない。


「お願いいたします。

 できれば、サクラの言い分も聞いてやってください。

 俺は一緒に転生したいですが、サクラに無理強いする気はありませんので」

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