第9話

白い大地の上で、金色の乙女<シエルニエス>が歌を歌う。

嗚呼、その歌は竜たちの心を癒し、大地を輝かせる。

彼女は踊りながら楽しげに歌い、くるくると回る。

それはいつか誰かが作った歌だった。


「愛しい人 貴方を想い 貴方に捧げる


 世界が どれだけ 醜い世界 だったとしても


 貴方を 思い続けるのを やめることはない」


離れた場所で<クラエ>が聞いている。

彼女の歌が止んで、彼は彼女に近づいた。

あれから二人は共に行動し、共に時間を過ごす様になった。

まるで最初から二人でいるかのように。


「俺は、お前と出会えてよかったかもしれない」


「私は、貴方と出会えてよかったんだよ」


お互いの存在がお互いを支えあう。

二人の手が重なり合い、二人の歌が大地に響く。

金色の乙女<シエルニエス>が歌い、黒の男<クラエ>が歌う。


「クラエが教えてくれた」

「シエルが教えてくれた」

「「この世界は、こんなにも輝いているのだと」」


二人の歌声を聴いて、白の王〈ユエルミハニス〉は微笑んでいた。

いつまでもこの世界が続けばいいのに。

いつまでもこの時間が続けばいいのに。


「世界は元はとても美しかった。

 しかし世界は歪んでしまった。

 殺しあうことでしか己の存在意義を示すことができない世界。

 なんて哀れで、辛い世界になってしまったのか。

 それでも<クラエ>、お前が望むならば、

 この世界は本来の形いろに戻るかもしれない。

 それは長くて辛い道のりかもしれない。

 それでもお前が望むならば、きっとその願いは叶う。

 何故ならば お前は、この世界で初めての」


一羽の鳥が空を舞う。

嗚呼 と白の王が嘆く。


黒いその鳥は、黒き竜〈クロヴォルケイト〉によって食われてしまう。

白の王が竜たちに囁いた。


「黒の王が、<クラエ>を殺しに来る」


竜たちの咆哮が響く。

金色の乙女<シエルニエス>と、黒の男<クラエ>はお互いに抱き合った。

離れたくない。けれど、彼は行かなければならなかった。


「行ってしまうの?死んでしまうかもしれない」

「俺は死なない。お前を置いていったりしない」


彼の口づけに、乙女は顔を赤らめた。

死を恐れぬ召喚士は騎士となり、白き大地から旅立つ。

彼は知っている。


「死は、恐れるものだ」


決して死ぬために戦うのではない。

生きるため、愛しい彼女のために戦う。

それがなんと心地よく心穏やかになるのかと。


「俺は、この世界に色彩いろを取り戻してみせる」


戦い、苦しむ世界を、変えて見せる。

一人の騎士は再び戦場へと馬を走らせた。


これが、最後の戦いになるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る