第8話


黒の王〈ドルヴェールオルガ〉が高笑いする。

何が楽しいのか、何が面白いのか。兵士たちは誰一人分からない。

玉座に座り、笑う黒の王は、突然立ち上がって叫んだ。


「赤と青の王が消えた!新たな赤と青の王が生まれ出でない!これは革命か、変革か!それとも世界の異変か!」


近くにいる兵士たちを殴り飛ばす。

床が黒色に染まる。黒の王はまるで踊るようにその場で回る。

彼女の黒いドレスが、暗闇を生み出す様に、まるで音色を奏でる様に。

彼女は面白おかしく嘲笑っている。


「私の召喚士はもう私のものではない。この世界を創り変えようとする邪悪な存在と化した!嗚呼 なんと可笑しいことか!

実に愉快!実に爽快!実に喜劇!実に悲劇!


こんなことは初めてだ!」


王の笑い声は城の外にまで響く。

嗚呼、今日の黒の王はとても機嫌が良さそうだ。

兵士たちはそう思うしかなかった。

彼らにそれ以上の感情は存在しないのだから。


そして、開かれた扉の向こうからやってきた兵士が頭を垂れた。


「報告します、我らの王よ」

「簡潔に述べよ」

「例の者が黄金の森へ現われました。彼の者はこう名乗っておりました。


<クラエ>と」


黒の王の踊っていた足が止まる。

顔を上げて、兵士を睨んだ。

まるで息が止まるような威圧感だった。


次の瞬間、兵士の上半身が吹き飛んだ。

また床が黒く染まる。

黒の王は肩を揺らして笑い、無表情になる。

そして、全ての兵士に告げた。


「<クラエ>を殺せ」


一斉に兵士たちが走り出す。王の命令一つで動き出す兵士たち。

それは人形のように規則正しく、足並みそろえて進んでいく。

そんな兵士たちを見ながら、黒の王は両手を広げて嗤う。


「白の大地より 帰還せし 我が人形クラエ

 お前が 何者になろうと 構わない

 しかし この世界 この世界の理を 変えると言うならば

 我々は容赦なく お前を殺すまで 追い続けるだろう」


黒の王は歩き出す。兵士たちの後ろに立つために。


城門を出て、走る兵士たち。

そこへ突如 空から落ちてくるのは鎖の群れ。

兵士たちの頭を吹き飛ばし、次々と落としていく。

地面を彩るのは緑の色。


黒の王は汚された地面を睨む。


「あぁ、汚い。なんて汚らしい色だ」


近くにいた兵士の頭を掴み、地面に叩きつける。

再び地面は黒く染まる。緑が黒で塗りつぶされる。

空を見上げると、城門の柱に緑の王〈ジルクスメギト〉の姿。

緑の王は黒の王を見つけるや否や、飛び降りて襲い掛かる。

黒の王は剣を抜き、飛んでくる鎖を叩き落していく。


金属が弾ける音が響く。

巻き込まれる兵士たちの身体が飛び交う。

王たちは気にすることなく戦いを繰り広げる。


「緑の王よ、よくここまで入ってきた」

「お前と戦うのは骨が折れるが、とても愉快だ」

「気色の悪い。お前の色は嫌いだ。黙って斬られて死ぬがいい!」


戦ってこそ意義がある。

それがこの世界の掟。

いつできたか分からない掟。


それなのに、何故 奴は違うのだろうか。


鎖を叩き落した黒の王は、転ぶ緑の王の頭を足で踏みつける。

潰さないように、力加減をしながら、黒の王は呟いた。


「お前も知っているか?」


その問いに緑の王は笑いながら答える。


「お前の召喚士だろう?噂はかねがね聞いている」


黒の王は腕を組みながら緑の王を見下す。


「奴が私のものではない存在いろになった。これはどういうことか」

「それは知らない。俺だって知りたいところだ。それでだ」


緑の王は黒の王の踵を掴んだ。


「あれが、この世界の異端者はぐれものならば、俺達がやることは分かるだろう?」

「無論。殺さねばならない。この世界は戦いを続けてこその世界。

 なのに奴は戦いを拒むどころか、王を喰らう獣となった。

 そして王は復活しない。赤も、青も、どちらの王ももう存在しない」

「なんて、気が狂いそうな話だ」


ゲラゲラと笑う王たち。

それは悍ましくて、不気味すぎて、重々しい。

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