第7話


兵士たちは走る。


剣を携え、我らの色を領地に変えん為に。

此度の戦は、青の王〈クロニケルレイズ〉と赤の王〈アレクンサトラ〉との闘い。

両者は剣を携え、相手の首を刈り取ろうと剣を振り回す。

兵士たちは巻き込まれ、色が赤と青で混ざりあい、紫の色を創り上げる。

兵士たちの血が大地を濡らし、誰にもその色をかき消すことができない。


赤い炎が美しく燃え上がり、

青い氷が大地を崩しながら飲み込んでいく。

木々はへし折られ、川からは水が氾濫する。

兵士たちは巻き込まれ、次々と死に絶える。

残されるのは二人の王のみ。


誰かが死のうと構わない。王たちの戦いは、激しいものだった。


そこへ、〈クラエ〉がやってきた。


彼は白い馬に跨り、両者の間に入り込む。剣を振り回し、両者の剣を弾き飛ばした。

突然現れた彼の者の姿に驚くのは青の王。


「君は、ボクが殺したはず黒の召喚士ではなかったか」


しかしその乗っている馬は、なんとも美しい白馬。

馬に乗る〈クラエ〉は、剣を構えた。


「俺はもう、お前たちのようにはならない。この戦、無意味だ」


彼の言葉に、激怒するのは赤の王。


「我らは、戦ってこそ意義がある。

 尽きる命を戦いで燃やし、残る命を戦いで果たさねばならぬ我らに、生き恥を晒すなど、もっての他」


同じく答えるは青の王。


「もし我らが生きねばならないと言うならば、我らが血を流して領地を増やさねばならない。

 我らはそのために生まれ、そのために死ぬ。これに無意味など、ありえない」


彼らの言葉は、動くことのない岩のように固く、強き意志を持つ。

〈クラエ〉は、彼らの言葉をしっかりと受け止め、剣を構えた。


「戦うことがすべてではない。共に共存もできないのか」


赤の王が笑う。


「有り得ん。我らは領土を増やすために戦ってきた。これ以上何をする?」


青の王が失笑する。


「共存なんて、虫唾が走る。ボクたちはそう創られていない」


嗚呼、無理なのだろうか。

彼は悲しい顔を見せ、馬から降りた。

彼の背後から現れるのは黒い影を纏う牛の頭蓋骨。


王たちは笑う。

ただの召喚士が我々に敵うはずがないと。


しかし、彼はもうかつての〈召喚士〉ではなかった。


牛の頭蓋骨は、白き色に姿を変え、大きな竜へと変貌した。

白き大きな竜〈ユエナホーチス〉は、大きな咆哮を上げる。

美しい竜の姿に目を奪われる王たちに、〈クラエ〉は命じた。


「歌い、喰らえ」


竜の咆哮はまるで歌のように響き渡り、大きな口を開けて王たちを丸のみにしていく。

成す術もなく食べられていく王たち。

〈クラエ〉はその様子を見ながら目から涙が落ちた。


初めてだった。


何故こんなにも苦しい思いがするのだろうか。

嗚呼、誰かを殺すことでこんなに苦しみを覚えたことはない。何故こんなにも苦しいと感じるのだろうか。


「俺は、間違っていることをしているのか?」


落ちる涙を止めることができず、〈クラエ〉は唖然としている。

白き竜〈ユエナホーチス〉は〈クラエ〉に寄り添い、共に泣いた。


「ああ、お前は王の言う通りになった」

「お前の心はこの世界の理から変わった」

「それは素晴らしいこと」

「嘆き悲しむことは、とても大事な感情こころだ」

「我々はお前のその感情を、心から喜ぼう」


白き竜〈ユエナホーチス〉が流した涙は、地面へと沁み込み、やがて大地を白へと変えていった。


青と赤の領域は、白き大地へと変貌していった。


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