第6話


ここは、世界の最果てにある白き大地ユエルミタニスタ

ここは、白きユエルニーベルン

全てを拒む。全てを受け入れる。

ただそれだけの世界の最果て。


未だ眠る彼を抱きしめながら、彼女は城へ向かった。

霧の中は、様々な竜<ドラゴニスタ>達が眠っていた。


全てを破壊する赤の竜<ヒヒイロドグマ>

全てを拒絶する黒き竜<クロヴォルケイト>

全てを包み込む青き竜<ドラグネルシズ>

全てを生み出す翡翠竜<エメラルダロイド>

全てを与える黄金竜<ゴルバゼハイド>

全てを無に帰す白き竜<ユエナホーチス>


彼の竜たちはすべてを誘う世界の管理者。

白の大地ユエルミタニスタに来るものは、全て彼らの餌食となって二度と生き返る事すら許されない。

そんな彼らが唯一、可愛がっているのが、彼女<シエルニエス>だった。


彼女が城へと着いた頃、召喚士の身体はもう、息をしていなかった。

彼女は悲しげに膝をついて、その場で泣き喚いた。


「あぁ、私のせいだわ。私があの地へいったばかりに彼は死んでしまった」


彼に出会った時、私のすべてが変わると思った。

彼に出会った時、私のこころが変わると思った。

彼に出会った時、私がうれしくてたまらなかった。


知らない世界に、足を踏み出して、恐怖を感じた時。

彼の瞳を見て、心が躍ったのよ。

それが、どれだけすごいことだか。

今あなたに伝えられなくて辛いの。


召喚士の身体を抱いたまま、彼女は城への階段を上った。

彼女が向かったのは王の間。王の間にいたのは白の王<ユエルミハニス>。

美しい白髪を輝かせながら彼女の元へ降り立った。

いつもの優しい顔で、囁くように歌う。


「泣かないで。彼は眠っているだけ」


彼の身体に手を差し伸べ、王は歌った。


「苦しい思いをしたことがない召喚士。

悲しい思いをしたことがない召喚士。

愛情をもって生まれなかった召喚士。

全てを否定して生きてきた彼が、この子を守ることで変わろうとした彼を、私は褒めたたえよう」


そして、彼を白い光が包んだ。


彼が目を覚ました時、彼女は心から喜びの声を上げて舞い踊った。

何が起こったか分からない彼は、王を見て目を見開いた。


「あんたは、白の王<ユエルミハニス>?」

「そう、お前たちが一度も入ったことがない白の大地の《ユエルミタニスタ》の王」

「どうして、俺を助けてくれたんだ?」

「あの子を助けてくれたから。あの子は私の可愛い子供。あの子を助けてくれてありがとう」


お礼という言葉を聞いたことない召喚士に、少女はにっこりと笑って見せた。

彼は彼女のその笑顔が忘れられなくて、彼女に笑ってほしいと思ってしまった。

しかし、彼はどうしたらいいの分からない。

そうして生きてきたことがないのだから。


「歌は好き?」

「……嫌いじゃ、ない」

「好き?」

「……好き」

「私も好き!ねぇ、あなたの名前を教えて!」

「なまえ…そんなのない。召喚士というだけで」

「お母さま!彼に名前をあげて!私と同じ、素敵な名前を!」


まるで風のように走り回る彼女に、心を奪われていきそうだ。

けれど自分は黒の兵士。戦いだけに生きてきた存在。

そんな存在がこんな場所にいては、と思う前に王は彼の手を取り、微笑んだ。


「素敵な召喚士さん。あなたに名前をあげましょう。

昔はいろんな名前で呼ばれていた時代があった。

世界はいつの間にかこんな世界になってしまったけど、それでも、あなたは初めての<変わり者>。

そんなあなたに相応しい名前をあげましょう」


<クラエ>と語り継がれるように。


全てが広がる感覚がした。

鳥の囀りが聞こえ、川の流れる音が聞こえ、木々が揺れる音が聞こえ、笑い声が聞こえてくる。

この感覚はなんだろう?何もかもがわかるようなこの感覚は。


いつしか彼は、召喚士の名を捨て、<クラエ>と名乗っていく。

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