第5話
赤き
大きな剣を片手に、襲い来る敵を薙ぎ払っていくのは赤の王<アレクンサトラ>。
美しい長髪を風に靡かせ、敵の身体を真っ二つに切り裂いていく。王は声高らかに叫ぶ。
「我らが兵士よ、戦い踊れ。生き残れ。我らはこの世界で最も誇り高き戦闘種族。彼の者たちに負けてはならぬ。王の命に従え。戦い、死に、負けることは許さない。さぁ逝け。逝け!」
王の声に兵士たちは鼓舞され、走る。
数多の戦場を生き残り、数多の屍を踏みつけて走る彼らを横目に見るのは、黒の王〈ドルヴェールオルガ>。
美しい髪を煙で舞い上がらせて、赤の王を睨みつける。王は低い声で問う。
「死は救済。死は真実。死は祝福。
それを何故拒む?どうせまた生き返り戦うのだ。
古より続けられてきたこの戦いに終わりなど一生来ない。我々は殺すか殺されるかの存在。さぁ、何度でも繰り返そう。円舞曲のように!」
剣をとり、王たちは剣を交える。
美しい女王たちが、その地を傷つけながら長い長い時を、まるで楽しむように踊る。
ぐる ぐる ぐる
それはまるで手を組んでいるようだ。
ぐる ぐる ぐる
それはまるで足を揃えているようだ。
ぐる ぐる ぐる
それは、美しい踊りだった。
嗚呼、王たちの踊に気を取られた兵士たちは次々と命を落としていく。
それが当然かのように。それが普通であるかのように。
「黒よ、お前にこの戦いに決着が着くはずがないと言ったな」
「赤よ、その通りだと思わんか。我々はそう生かされているのだ」
「これ何度も殺されようと」
「何度行かされようとも」
「「我々の戦いに終わりなど存在しない」」
その様子を離れた場所で戦い見る召喚士。
王たちの潔い戦いにただただ目を奪われていた。
しかし、彼の耳には、別の音が聞こえていた。
違う。歌だ。
彼女の歌声が、まるで自分にしか聞こえないかのように、囁いて聞こえてくるのだ。
その声に誘われるように、彼は駆け出した。
まるで後ろを振り返らんばかりに。
全てを振り払うかのように。
何もかもを捨てるかのように。
「殺せ」
王の言葉を切り捨てるかのように、ただひたすら走り続けた。
やがて、彼がたどり着いたのはあの白い大地の境目だった。
息を切らし、ただそこを見つめていると、霧の中から彼女が姿を現した。
彼女は召喚士を見るや嬉しそうに微笑み、歌った。
「あぁ、約束を守ってくれたのね。
あなたはきっと来てくれると信じていたわ。私はずっと、あなたに会いたくてたまらなかった。
あなたはきっと、他の人たちとは違うのね。私はそう思うわ。さぁ、お話ししましょう」
彼女の声に導かれるように、召喚士は彼女に手を伸ばそうとしたが、我に返りぐっと抑えた。
そして、彼女の声に応えるように悲しそうに顔を上げた。
「俺は、黒の召喚士。この世界の駒の一つ。戦うことがすべての存在。
お前のような優しい人に出会うのは心が躍るような気分だ。
けれどどうか分かってほしい。俺は死ぬために生まれて死ぬのだから。
どうか、俺を放っておいてほしい。俺はお前とは、話なんてできない」
彼は、それだけ言い残して彼女の元を去ろうとした。
しかし、それを遮ったのは黒の王。
黒の王は少女を見るなり剣を振り下ろす。召喚士は咄嗟に彼女を庇うように前に立ちはだかり、その剣をその身で受け止めた。
胸に深い傷を負う召喚士。彼が崩れ落ちるのと同時に、少女が受け止める。
胸から黒い血が溢れ出る召喚士の姿を見て、少女は叫んだ。
まるで大地を揺るがすほどの叫び声は、黒の王も怯む。
少女は召喚士の身体を引きずりながら、霧の中へと消えて行った。
去っていったのは、白の
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